現役引退の遠藤保仁が長く走り続けることができた「オシム的思考」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月10日 17時20分
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、突然の現役引退を宣言したサッカー元日本代表・遠藤保仁と、彼に大きな影響を与えたオシムサッカーにまつわるエピソードを紹介する。
『本来であれば記者会見とかそういうのを開く、開かなきゃいけないのかなと思っておりましたが、記者会見して真面目に語るのも僕らしくないかなというところもあり、そして、何といってもオフはオフなので、とことんオフを満喫したいという思いで、記者会見を開くことはしませんでした』
~2024年1月9日公開YouTube【遠藤保仁 引退コメント】より
かつてこんな引退宣言があっただろうか。サッカー元日本代表で、昨季までジュビロ磐田でプレーした遠藤保仁が現役引退を決断。1月9日、今季から「コーチ」として復帰するガンバ大阪の公式サイトとYouTubeで、引退表明とコーチとしての意気込みを語る異例の節目となった。
フランスW杯出場で日本サッカーが熱気に満ちていた1998年、横浜フリューゲルスに入団してプロ生活がスタート。開幕戦が横浜マリノスとの「横浜ダービー」で、横浜国際総合競技場(日産スタジアム)のJリーグでのこけら落としでもあったことから、5万2083人という満員のスタジアムのなかでデビューを飾った遠藤。これで、フリューゲルスを知る現役選手がゼロとなったことも寂しい。
こうしてスタートしたJリーグ人生は、フリューゲルスの消滅後、京都、ガンバ大阪、磐田と続いて26年。J1歴代最多の672試合出場に加え、J1ベストイレブン12回も歴代最多。日本代表でも歴代最多の152試合出場と数々の記録を残した司令塔であり、昨季は「Jリーグ30周年MVP」にも選出された、まさにレジェンド中のレジェンド。そんな偉大な人物にもかかわらず、引退会見よりもオフを大事にしたい、という脱力系だったことも長く活躍できた要因のひとつではあるのだろう。
そしてもうひとつ、遠藤保仁という選手が真価を発揮した契機として、オシムジャパン時代にスポットを当てたい。
日本代表にはトルシエ監督時代の2002年から選出されたものの、その年の日韓W杯ではメンバー漏れ。次のジーコ監督時代の2006年ドイツW杯ではメンバーに選ばれるも、フィールドプレーヤーで唯一、ピッチに立てない悔しさを味わった。
そんな遠藤を“日本代表の心臓”として抜擢したのが次のオシム監督だ。といっても、すんなりオシム色に染まったわけではなかったという。
オシム監督といえば、「考えながら走る」がコンセプト。一方の遠藤は、「ボールは疲れないのだから、無理に走らず、ボールを回せばいい」というスタンスだったという。それでも、オシム監督の指導を受け、攻撃ではここぞの場面でスペースを積極的に使い、守備でもここぞの場面で自分たちにとって危険なスペースを消すという質の高い動きをより意識するようになり、プレースタイルがさらに進化していったのだ。
『このオシム監督の考えに触れることで、サッカーに対する考え方が変わった。もっとサッカーのうまい選手になるために、考えて走ることは重要だと腹に落ちたのだ。だから、オシム監督の日本代表に入ってからは、僕のプレーはだいぶ変わったと思う。それまでよりも走るようになったし、ボール際も激しく行くようになった。あのとき、オシム監督の教えを吸収しようと思わなかったら、サッカー選手としての成長は止まっていただろうし、長く第一線でプレーできることはなかったはずだ』
~遠藤保仁・著『「一瞬で決断できる」シンプル思考』(KADOKAWA/2017年12月)より
著書のなかでこのようにオシムサッカーへの感謝を示していた遠藤。そのオシム氏が逝去した2022年5月には自身のブログで「ありがとう」と題し、感謝の言葉を綴っていた。
『オシムさんは、日本のサッカー界が大きく前進するのに貢献された方。オシムさんで人生が変わった選手もたくさんいると思います。僕自身、数多くの試合に出させてもらいましたし、お互いにいい関係で、いい仕事ができたと思います。これからも走り続けよう。ありがとう、オシムさん』
~遠藤保仁オフィシャルブログ(2022年5月5日公開記事)より
「これからも走り続けよう」と書いた遠藤は、今後はコーチとして走り続ける日々が始まる。
『これからコーチとしてまた違うキャリアで経験を積んで必ず良い指導者になりたいという目標を持って毎日毎日モチベーション高く、そして何よりも「楽しく」過ごせていけたらいいなと今現在では思っております』
~2024年1月9日公開YouTube【遠藤保仁 引退コメント】より
ひとまずは26年に及んだサッカー選手としての歩みに「おつかれさまでした」という言葉を贈りたい。
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