もしも三島由紀夫が湊かなえの『人間標本』を舞台化したら……
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月16日 11時20分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(1月9日放送)に小説家の湊かなえが出演。最新作『人間標本』について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。1月8日(月)~1月12日(金)のゲストは小説家の湊かなえ。2日目は、『人間標本』で描かれるテーマとその芸術性について—
黒木)2023年12月に『人間標本』が出版されました。私は「イヤミス」とは言いたくありませんが……。
湊)ツラミス、うーん、何だろう。
黒木)辛いミステリーで「ツラミス」はいいかも知れませんね。イヤミスというのは、嫌な気持ちになるミステリーのことではないですか。だから「辛い気持ちになるミステリー」があってもいいですよね。それにしましょう。
湊)切ない、「セツミス」とか。
黒木)この本は切ないですよね。読み進めていくと、切ないボタンの掛け違いというか、相手を思いやっているからこそボタンを掛け違ってしまうのですよね。そのようなところが次々と詳(つまび)らかに明かされていくので、切なかったです。
湊)やはりミステリーなので、何度も何度も驚かせたい。「アッ」と言う驚きもあるかも知れませんが、それよりは段階を追って胸を「ギュッ」と掴まれるような畳みかけ方をしたいなと思いました。
黒木)美しいものを美しいままという意味では、江戸川乱歩の『黒蜥蜴』があります。これは三島由紀夫が最初に脚本を書かれて芝居化したのですよね。「三島さんがあの本に惚れて」という解説を読んだのですが、三島由紀夫さんだったら『人間標本』をどのように脚色なさるだろう、と勝手に想像してしまいました。
湊)もう1つのテーマが芸術、絵の才能というギフトに触れるものです。「絵の才能」と言ってもそれぞれあって、どこを追求するのか……。標本にされていく少年たちもそれぞれギフトを持っているので、もし三島さんがいらっしゃったら、その1人ずつのギフトが際立つように演出して、芸術性の高い舞台になっていたのかなと思います。
黒木)湊さんの小説はデビュー作『告白』から、数多く映像化されています。『人間標本』も映像にしたいという方が出てきたら面白いですね。
湊)ぜひ、お待ちしています。
黒木)でも、なかなか度胸がいると思いますよ。
湊)度胸と、あとは映画館で途中退席される方がなるべく出ないよう、どのようにその世界に閉じ込めてくださるのか。それは監督や演出家の方々の腕に委ねるところです。作品のなかに色がたくさん出てきますが、小説の場合、読者の想像のなかで色を思い浮かべなければいけません。『落日』も、私がどれほど夕日を描写しても、監督が千葉の犬吠埼で撮られた夕日には敵わず「これが映像の素晴らしさだ」と思ったので、また色を感じたいです。
黒木)蝶が出てきますが、蝶のことも研究なさったのですか?
湊)この作品を手がける前まで蝶には興味も知識もまったくなく、「アゲハチョウとモンシロチョウが飛んでいる」くらいのことしか知りませんでした。でも、『人間標本』という作品を書くに当たり、人間の標本を何に見立てるか考え、芸術性が高いものとして「蝶かな」と思ってから、ものすごく蝶のことを調べました。
黒木)詳しく書かれていますよね。
湊)蝶の特徴に表と裏があり、表はすごく美しいけれど、裏は焼け爛れたように醜い模様なのですよ。
黒木)いろいろあるのですね。
湊)そのようなところがミステリーと親和性が高いなと思って、蝶の特徴をミステリーに活かそうと調べていくうちに楽しくなりました。
湊かなえ(みなと・かなえ)/小説家
■1973(昭和48)年、広島県生まれ。
■2007(平成19)年、「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。
■2008年、「聖職者」を収録した『告白』が「週刊文春ミステリーベスト10」で国内部門第1位に選出され、2009年には本屋大賞を受賞した。
■2012年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、2016年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。2018年『贖罪』がエドガー賞ベスト・ペーパーバック・オリジナル部門の候補となる。
■その他の著書に『Nのために』『母性』『高校入試』『絶唱』『リバース』『未来』『ブロードキャスト』『落日』『カケラ』『ドキュメント』『残照の頂』など。
■2023年12月13日、KADOKAWAから15周年記念書下ろし作品『人間標本』が出版。
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