「ぬか」は微生物によって生きている 「味処 矢野」女将・矢野寿美子
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月23日 11時20分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(1月16日放送)に「味処 矢野」女将の矢野寿美子が出演。ぬか床(ぬかみそ)について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。1月15日(月)~1月19日(金)のゲストは「味処 矢野」女将の矢野寿美子。2日目は、ぬか漬けのメカニズムについて—
黒木)ぬか漬けについて伺いますが、野菜をぬかに漬けて、ぬかに育ててもらうのですか?
矢野)実は、ぬか床のなかには微生物がたくさん住んでいるのです。その微生物を生かし続けるためには、えさをやる必要があります。私たちもご飯を食べたり水を飲んだり、塩や砂糖が必要ですよね。ぬかにいる微生物も人と同じく生きているので、えさを与えないといけない。でも、水や塩を入れるわけにはいかないので、炭水化物として野菜を与えるのです。野菜には繊維や糖分、ビタミンなど、いろいろな栄養素が入っているので、それをえさとして与えます。
黒木)きゅうりやトマトなどを。
矢野)野菜をあげて微生物を元気にすると、育った微生物が野菜にうま味成分をたくさん出し、付与してくれる。その美味しくなった野菜を私たちがいただくのです。
黒木)ぬかに育ててもらうことによって、野菜が美味しくなる。
矢野)「発酵熟成」という言葉があります。適温によって微生物が次の子どもを産む。例えば乳酸菌は乳酸を産み、酵母菌は酵母を産みます。それぞれ、えさがあれば活発に生き、美味しいうま味のもとをどんどん出してくれる。だから、漬けないと美味しくなりません。えさをやらないと菌が弱ってしまう。弱ったら美味しくないわけです。
黒木)では、まずぬか床をつくる必要があるのですか?
矢野)そうです。栄養のある微生物が元気なぬか床をつくらないといけない。
黒木)最初はどうやってつくるのですか?
矢野)大きく分類すると、ぬか自体は炭水化物なのです。ぬかには乳酸菌しか付いておらず、酵母菌は付いていません。でも、野菜には酵母菌が付いているから、野菜を入れることで酵母菌や乳酸菌など、いろいろな菌が育っていくのです。
黒木)お互いに育て合うのですか?
矢野)お互いにというよりも、乳酸菌はいちばん強い菌なのですよ。例えば腐敗菌などの悪い菌が出てくると、乳酸菌が押さえ込んでくれるのです。
黒木)なぜ、そんなに詳しいのですか?
矢野)研究会で日々こういう勉強をしています。
黒木)プロフェッショナルですね。
矢野)ただの73歳のおばあちゃんです。
黒木)矢野さんのぬか床は、最初は何から始まったのですか?
矢野)うちの母からですね。母が嫁に来てつくったぬか床です。だから、もう100年近いぬか床になります。
黒木)腐らないのですか?
矢野)ぬか床は腐りません。ぬか床には嫌気性菌と好気性菌があります。嫌気性菌は空気が嫌いな菌、好気性菌は空気が好きな菌です。表面にいるのが空気が好きな菌ですね。下では空気が嫌いな菌が生きている。空気の好きな(菌がいる)ところには、カビなどの悪い菌がはびこるのですが、それだけをキュッとのけてやれば下は生きているのですよ。また、カタラーゼ(酵素)が表面にはびこることで、カビや悪い菌を下に入れないようにしている。だから上さえ捨てれば、下は生きているのです。
黒木)ぬか床を使っているうちに、ぬかがなくなっていくのではないですか?
矢野)生ぬかを足し、水と塩を足して増やせばいいのです。
黒木)新しいぬかを入れて再び味付けするのですか?
矢野)菌がいるので、どんどん増えていきます。教室で教えるときは、「小指の第一関節が種になる」と言います。「種ぬか」と言いますが、これを置けば約1ヵ月で「ブワッ」と増える。
黒木)想像がつきませんね。
矢野)菌の世界はすごいのです。
矢野寿美子(やの・すみこ)/「味処 矢野」女将
■福岡県北九州市のJR小倉駅近くにある海鮮丼&ぬか炊き専門店「味処 矢野」。
■小倉の郷土料理「ぬか炊き」は、母が残し80年継いできた“ぬか”と、女将の工夫と研究で独自の味を実現。
■もともと漁師だった夫が始めた海鮮丼屋さん。夫の体調不良もあり、寿美子さんが切り盛りすることになったが、独自の味が人気で口コミでどんどん広まり、地元の人に愛されるお店に。
■本人はジャズシンガーでもあり、店ではジャズがかかっている。
<ぬか炊き(ぬかだき)>
■江戸時代から豊前国に伝わる、イワシやサバといった青魚をぬか床(ぬかみそ)で炊き込んだ北九州小倉の郷土料理。
■江戸時代初期、小倉城を築城し、豊前国を治めた細川忠興のころにぬか漬けが伝わり、その後の国替えで小倉藩主となった小笠原忠真もぬか漬けを好んで食べていたようで、小倉城下の人々へも推奨したことからぬか漬けが広まったと言われている。
■その後、北九州近郊で獲れる新鮮なイワシやサバをぬか床で炊き込んだ「ぬかだき」が保存食として食されるようになった。ぬか床はどの家庭でも非常に大切にし、小倉では嫁入り道具として代々親から子に受け継がれて40年、50年と経ったぬか床は珍しくなく、100年を超えるぬか床を持っている家庭も少なくない。
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