「昭和基地」は南極大陸にはない! 南極隊員に転身した“主婦”が極寒の地で大奮闘
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月26日 12時0分
元・南極調理隊員の渡貫淳子さんが、上柳昌彦アナウンサーがパーソナリティを務める、ラジオ番組「上柳昌彦 あさぼらけ」内コーナー『食は生きる力 今朝も元気にいただきます』(ニッポン放送 毎週月・金曜 朝5時25分頃)にゲスト出演。南極昭和基地の特徴や暮らし、南極観測隊を食で支える大変さを語った。
渡貫さんは調理師専門学校を卒業後、同校の職員として勤務。30代になってから南極で働きたいとの思いを抱き、年に一度しか募集のない南極観測隊に応募し、3度目の挑戦で南極行きを実現。2015年12月~2017年3月まで、第57次南極地域観測隊の調理隊員として南極で生活した。
昭和基地は南極大陸から4キロメートル離れた「東オングル島」にある
上柳:この収録前に、渡貫さんから南極ミニ知識みたいなものを聞いて驚いたのですが、南極にある昭和基地は「東オングル島」という島の上にあるんですよね?
渡貫さん:そうです、昭和基地は東オングル島にあるんです。
上柳:つまり、南極大陸ではないんですよね?
渡貫さん:はい。実は、南極大陸から約4キロメートル海を挟んだ島の上に、昭和基地が建っているんです。
上柳:私が生まれた昭和30年代初頭、まだまだ日本は敗戦国で、それでも南極の観測をしたいという強い意志を世界にアピールしたら、「じゃあ、その辺だったら建ててもいいよ」という風に、周りの基地から遠い所を割り当てられたんですよね。
それでも、第1次隊員の方々は本当に精神力で乗り切って、基地を作っていったわけですが、それが後々、“いいこと”に繋がったそうですね。
結果的に「東オングル島」で良かったかもしれない
渡貫さん:「オーロラ帯」という帯状にオーロラが出るエリアがあるんですが、昭和基地はその真下に位置しているんです。
上柳:オーロラが見放題ということですね?
渡貫さん:オーロラ、見放題でした(笑)
上柳:いやあ、すごいですね!
渡貫さん:「宇宙天気予報」というものがあって、本当にその天気予報通りで、「出る」となったら見られましたし、オーロラ担当の方が「今日はいいオーロラが出るよ!」「いいオーロラが出てるよー!」という時は、たとえ寝ていても無線で起こしてくださって(笑)
上柳:昭和基地は夏になると、雪がとけて地面も見えたりするんですよね。でも、他の南極大陸にある基地は氷の上に建っている。
渡貫さん:なので、氷の上にある基地は、少しずつ位置がずれるんです。
上柳:そうなりますよね。海へ、海へと、ちょっとずつ動いてしまいますよね。
渡貫さん:でも、昭和基地は島の上にあるので、いつも変わらない場所に建っています。
上柳:氷の上にある基地は、動いてしまったものを戻す為に、いろんな工夫をしているとか。
渡貫さん:海外の基地では、建物の下にすごく大きなソリみたいな物が付いていたり、ジャッキアップして雪の中に基地が埋もらないようにしたり、さまざまな工夫をしています。
なぜ南極で働こうと思ったのか?
上柳:調理師免許は持っていたとはいえ、なぜ、主婦の方が南極に行こうと思ったのですか?
渡貫さん:なぜ行ったかというと……行きたかったからです(笑)
もちろん、きっかけになる出来事がいくつかありました。最初のきっかけは、朝刊です。朝、ちょっとひと息つこうと朝刊を開いたら、真っ白い所ですごくカラフルな防寒着を着た、女性の写真が目に入ったんです。
その時、自分の中ですごく興味が湧いたというか、いろんな感情が自分の中で動いて。その女性は新聞記者の方だったので、定期的に南極での日常を、記事に載せていました。その記事を日々の生活の中で見るのが、一つの楽しみで。これが最初のきっかけかな、と思います。
上柳:中山由美さんという、日本の女性記者で初めて、南極越冬隊に同行取材された方ですね。
渡貫さん:はい。私は別に、ペンギンがそんなに好きだったわけでも、オーロラを見たかったわけでも、そういうことは一切なく。ただただ、『ああ、南極に人がいるんだな』ということを知って、そこから少しずつ興味が芽生えていったんです。なので、明確な理由は自分でも分からないんです。
南極調理隊員として働くための資格
上柳:でも、渡貫さんの意思はかなり強かったようで、3回も審査に挑戦して、3回目に受かったと。どんな資格が必要なんですか?
渡貫さん:すごくシンプルで、調理師に関しては「調理師免許」を有していること。それから、規定数の「推薦状」を添付すること。それだけです。
上柳:これは驚きましたね。調理隊員として行くわけですから、調理師免許は必要でしょうが、それ以外の資格ってそんなに無いんですね。
渡貫さん:提出する推薦状というのは、きちんと評価できる職場の上司の方から、どういった料理をするか、どういった仕事をするか、というのが書かれたものが必要でした。
30トンもの食料を準備する大変さ
渡貫さん:食料を運べるのが1年に1回だけなんです。1年分の食料を国内で発注、それを南極に持って行って調理します。現地では2人で交代して料理を作っていきますが、つまり、レストランが2軒しかないわけです。2軒だけだと食べる側は飽きてしまうので、和食とかエスニックとか、本当にいろんな料理を出せるスキルも必要です。
上柳:食料の補充が1年に1回ということですが、事前にどれぐらいの量を準備するんですか?
渡貫さん:1人が1年間に食べる量は「約1トン」と言われていまして。
上柳:1トン!
渡貫さん:つまり、皆さんも実は1トンも買い物してる、って聞くと驚きますよね。越冬隊は例年30人前後行くので、30トンぐらいの食料を準備します。
上柳:調理隊員の方は、南極に行って料理を作るだけじゃなく、その前準備として「買い出し」もしなきゃいけないのですね。
渡貫さん:買い出しは一番大変でした……。電卓、パソコン、電話を用意して、業者さんに見積もりを取って、量を決めて。もちろん予算内に収めるように工夫して。
隊員は日本全国から集まるので、調味料も日本全国から。九州の方は、やっぱり九州の醤油が好きなので。そういうものも全部リストアップして発注をかけたら、2000品目、南極に持ち込みました。
上柳:本当に大変な作業でしょうね。
渡貫さん:疲れましたね。疲れるのと同時に、『足りるのか?』『買い忘れはないか?』という怖さがありました。
他の隊員に絶対言ってはいけないこと
渡貫さん:冷蔵と冷凍のコンテナは全部で8個あるんですが、7個は冷凍。冷蔵で持っていけるものはコンテナ1個分だけ。極力、生で長持ちしそうなジャガイモや玉ねぎとかを持って行くんですが、やはり、途中で無くなります。
上柳:その「無くなりそうだ」というのは、絶対に隊員には言わないように、と相方さんがアドバイスしてくれたそうですね。
渡貫さん:はい。私は逆に、「無くなるから大切に食べてほしい」とアナウンスしたいと思っていたんですが、無くなると渇望するんですよね。買いに行けないことが分かっている中で無いというのは、精神的なストレスに繋がるからだと。私もそれを聞いて『確かにそうだな』と思い、無いことを悟られないように献立を立てていきました。
上柳:相方さんは1回越冬を経験されていたから、分かっていたんですね。
南極のごちそうは「卵かけご飯」と「キャベツの千切り」
渡貫さん:肉と魚でいうと、私の感覚からお肉は長持ちしました。魚は種類によって違って、「青魚」はどうしても油が強いので、冷凍していても酸化が進むので、サバとかアジとかは極力先に食べていました。お肉は全般的に大丈夫でした。
上柳:基本的に、賞味期限とかを気にしている場合じゃなさそうですね。
渡貫さん:そうですね。ちょっとそういう概念は……(笑)。元々、日本で食材を積むのが例年10月なんです。それを実際に現地で食べ始めるのが2月。その時点で、もうね。
上柳:でもなんとか、調理すれば大丈夫だったということですね。
渡貫さん:南極観測隊のごちそうは、「卵かけご飯」と「キャベツの千切り」と言われていて、キャベツは生で食べられる貴重な生野菜なので、本当にみんなで大切に大切に保管して、私の時は7か月間、生でキャベツを食べました。
上柳:7か月! どういう風に保存されたんですか?
渡貫さん:普通に冷蔵の部屋で、段ボールに入れているんですが、時々みんなで、キャベツの皮むき作業をするんです。「キャベツ・オペレーション」なんて言っていました(笑)
上柳:(笑)
渡貫さん:キャベツを長く保存するために、1枚1枚ちょっとずつはがして、きれいに痛みを取り除いて、また元に戻すという作業をしていました。南極では7か月間も持ちましたが、ご家庭ではね、キャベツはおいしいうちにお召し上がりください。
上柳:そうですね、そうだと思います。
「カレー」は何を入れても失敗しなかった
渡貫さん:毎日料理をしていると、少しずつ何かしらの食材が残ってしまうのですが、南極ではいろんな事情があり、廃棄できません。
こうした環境の中で、何を入れても失敗しないのがカレーでした。毎週金曜日はカレーを食べるんですが、非常にありがたかったです。とりあえず、金曜日のカレーに入れてしまえば完結するので。
上柳:もう、なんでもカレーの中に入れていたみたいですね。牛丼の汁、缶詰の液、ゆで汁、焼き汁、コーヒー、ラーメンの汁、福神漬けの汁などなど、なんでも入れていたと。で、コクが出るらしいですね。
渡貫さん:はい、おいしくなります。
上柳:今、フードロスとか廃棄について問題になっていますが、参考になりそうですね。
――南極・昭和基地では、食料の補給は年に一度だけ。追加補給もなく、ゴミはすべて日本に持ち帰らなくてはいけない。こうした極限の地で生活をして、生鮮野菜のありがたさ、食料の大切さを改めて実感したという渡貫さん。
「むだなく使い切る」「捨てない」という基本は、いつでも食べ物が手に入る環境では、どうしても忘れてしまいがちだ。いま一度、『大切に食べよう』と改めて意識していきたい。
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