酸っぱくなってしまった「ぬか床」の治し方 「味処 矢野」女将・矢野寿美子
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月25日 11時20分
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(1月18日放送)に「味処 矢野」女将の矢野寿美子が出演。ぬか床(ぬかみそ)について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。1月15日(月)~1月19日(金)のゲストは「味処 矢野」女将の矢野寿美子。4日目は、酸っぱくなったぬか床の治し方について—
黒木)矢野さんのぬかみそは食べても美味しいのですが、普通のぬかみそは臭かったりするのですか?
矢野)私のところに習いに来る方が、その前に美容院へ行ったらしいのです。そうしたら、美容師さんに「ぬかみそを習うんだったら、真空パックで匂いが漏れない容器を持っていかなければいけないよ」と言われたそうです。
黒木)そのくらいぬかみそは臭い。
矢野)すごいです。
黒木)それがなぜ、こんなに素晴らしいぬかみそになったのですか?
矢野)10年掛かりました。
黒木)これを完成させるまで。
矢野)水を増やしたり減らしたり、混ぜる回数を増やしたり減らしたり、試行錯誤するうちにいい匂いがしてきたのですよ。「これはすごいぞ」と思って、さらに進めたら、ものすごくいい香りがしてきたのです。研究会の会長が九州大学の工学博士なのですが、会長曰く「矢野さん、これはラクトンだよ」と。ラクトンという香気成分があるのですが、その匂いだそうです。
黒木)すごいですね。
矢野)すごいでしょう。もう1000人以上教えましたが、(再現できたのは)1人だけしかいませんでした。
黒木)教わってもできないわけですか?
矢野)常在菌と言いますが、みんなそれぞれ手についている菌が違うのですよ。生まれ持った菌が違う。だから、最初は私の店の味でも、4~5日すると変わって、その人の菌の味になる。これが微生物の世界です。
黒木)それで味が変わるのですか?
矢野)手の体温と菌が合わさって、おいしくなる。体温の影響が大きいですね。
黒木)だから素手で混ぜるのですね。
矢野)そうです。20~25度が適温だと言われています。だから、混ぜることによって少し温度が上がる。お母さんと娘さんが混ぜたら「味が違う」ということが1回あったのです。体温を聞いたら、娘さんの方が体温が高かった。「娘が混ぜたら美味しいと言われるけれど、私が混ぜたらみんなが美味しくないと言うのです」と言っていました。
黒木)そんなに微妙なのですか?
矢野)微妙な世界です。
黒木)ぬか床が酸っぱくなってしまったらどうするのですか?
矢野)何回か混ぜて空気に触れさせ、菌を少し抑え込むことですね。それでもダメなら塩で菌を少し抑え込みます。
黒木)ケースバイケースで治し方があるのですね。
矢野)あります。ぬか床が「治して」と言うのです。目と耳と鼻と口で、全部わかります。
黒木)すごいですね。ぬか床と話せる矢野さん。
矢野)皆さん、慣れたらできると思います。
黒木)私にもできますか?
矢野)慣れればできます。
矢野寿美子(やの・すみこ)/「味処 矢野」女将
■福岡県北九州市のJR小倉駅近くにある海鮮丼&ぬか炊き専門店「味処 矢野」。
■小倉の郷土料理「ぬか炊き」は、母が残し80年継いできた“ぬか”と、女将の工夫と研究で独自の味を実現。
■もともと漁師だった夫が始めた海鮮丼屋さん。夫の体調不良もあり、寿美子さんが切り盛りすることになったが、独自の味が人気で口コミでどんどん広まり、地元の人に愛されるお店に。
■本人はジャズシンガーでもあり、店ではジャズがかかっている。
<ぬか炊き(ぬかだき)>
■江戸時代から豊前国に伝わる、イワシやサバといった青魚をぬか床(ぬかみそ)で炊き込んだ北九州小倉の郷土料理。
■江戸時代初期、小倉城を築城し、豊前国を治めた細川忠興のころにぬか漬けが伝わり、その後の国替えで小倉藩主となった小笠原忠真もぬか漬けを好んで食べていたようで、小倉城下の人々へも推奨したことからぬか漬けが広まったと言われている。
■その後、北九州近郊で獲れる新鮮なイワシやサバをぬか床で炊き込んだ「ぬかだき」が保存食として食されるようになった。ぬか床はどの家庭でも非常に大切にし、小倉では嫁入り道具として代々親から子に受け継がれて40年、50年と経ったぬか床は珍しくなく、100年を超えるぬか床を持っている家庭も少なくない。
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