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もっと高みへ! 日本初の月面着陸

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月24日 17時25分

もっと高みへ! 日本初の月面着陸

「報道部畑中デスクの独り言」(第356回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日本初の月面着陸について—

月着陸実証機SLIM 着陸のイメージ(JAXA提供)

月着陸実証機SLIM 着陸のイメージ(JAXA提供)

小欄では先日、「今年(2024年)注目の科学トピック」についてお伝えしました。その注目の1つが「日本初の月面着陸なるか?」でした。まさにそれが現実のものとなりました。日本初の月面着陸成功、世界では旧ソ連、アメリカ、中国、インドに続いて5ヵ国目となります。

1月19日深夜10時から、神奈川県のJAXA相模原キャンパス、宇宙科学探査交流棟のプレスセンターでその瞬間を見守りました。ここは成功の歓喜に沸いた小惑星探査機「はやぶさ2」の取材でもおなじみの場所です。今回は取材現場の様子も交えて振り返ります。

主役であるJAXA=宇宙航空研究開発機構の月着陸実証機「SLIM」……昨年(2023年)9月7日に鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げられました。「SLIM」は推進剤を含めておよそ700kg、軽自動車ほどの重さです。打ち上げ後、およそ4ヵ月かけて飛行し、スイングバイなどを経て、昨年12月25日に月の周回軌道、今月(1月)14日には円軌道に入りました。

JAXA相模原キャンパス(1月19日深夜撮影)

JAXA相模原キャンパス(1月19日深夜撮影)

今回は日本初の月面着陸に加えて、狙った場所から、わずか100m以内にピンポイントで着陸するという世界初の技術に挑みました。これまでの月着陸における着陸精度は数km~十数kmでした。つまり、これまでのように「月にただ降りる」のではなく、「降りたいところに降りる」という技術です。

これには「画像照合航法」という技術が使われました。目指すは「SHIOLI(しおり)」と呼ばれるクレーターの周辺です。装着されているカメラで月面の写真を撮影します。これを画像のソフトウェアによって、どこがクレーターかを機体自身で探し出すわけです。俗に「パターンマッチング」と呼ばれる手法で、クレーターの地図を参照して場所を割り出すというものです。

この地図は月周回衛星「かぐや」などによって長年蓄積された大量の観測データがモノを言いました。はやりの言葉で言えば「ビッグデータ」です。これまでコツコツと積み上げてきたノウハウの、いわば「集大成」と言えます。

小型月面ロボット「LEV-2」別名「SORA-Q」 記者会見場わきでは同一機が展示されていた

小型月面ロボット「LEV-2」別名「SORA-Q」 記者会見場わきでは同一機が展示されていた

さらに、着陸直前には「LEV-1(レブワン)」「LEV-2(レブツー)」と呼ばれる2種類の小型ロボットを分離し、搭載されたカメラなどを使って、月面の様子などを撮影します。このうち、LEV-2は別名「SORA‐Q(ソラキュー)」と呼ばれます。JAXA、タカラトミー、ソニー、同志社大学が共同開発しました。

ボールの形をした物体が2つに割れて、割れた部分が車輪の役割を果たします。まさに変形ロボット、おもちゃで培われた技術は、日本のサブカルチャー文化も体現したものと言えます。

しかし、どんなに技術が進歩しようと、いざ着陸の際には細心の注意を払い、神経を使うのは宇宙も地上も同じです。JAXAによると、着陸降下開始の際の速度は秒速およそ1.8km、時速にしておよそ6400km。およそ800km先にあるわずか半径100mのエリアを狙って着陸します。

「北海道の千歳空港の上空あたりを通過して、そのままフル減速。20分後に兵庫県の甲子園球場上空ぐらいにさしかかり、甲子園のなかにピタッと降りなくてはいけない」

昨年12月5日の記者説明会で、運用責任者である坂井真一郎プロジェクト・マネージャー(以下 坂井プロマネ)はこのように例えていました。

TVカメラは公式含めて15台に上った

TVカメラは公式含めて15台に上った

さらに、重力のほとんどない小惑星とは違い、月は地球のおよそ6分の1ではありますが、重力があり、近づくと引っ張られます。再上昇はできません。

「こういう着陸は一発勝負。万全は尽くしているが、最後にそれが試されるのは着陸の最後の20分。何とかクリアしなければ」(坂井プロマネ)

日付が変わった1月20日午前0時、まさにそのときがやってきました。記者会見場にはライブ配信の画面に各種データが映し出されました。機体の様子がまさに定量的に示されます。管制室はおそらく「神経全集中」の時間。刻々と変わるデータに記者会見場も静まり返り、データの画面にカメラのファインダーが向けられます。

約20分後、データを見る限りでは、着陸したとみられます。ライブ配信からもそう伝えられていました。高度を示すグラフの横軸の「底辺」に機体がありました。

SLIM着陸予定時刻直後のデータ画面 機体はデータ上は「着陸」を示している

SLIM着陸予定時刻直後のデータ画面 機体はデータ上は「着陸」を示している

記者会見場にいた解説スタッフによりますと、データ画面では時計が動いていること、バッテリー系の目盛りが順調に動いていたことから、通信そのものはできていることが明らかにされました。そして、角速度、加速度などのデータからも「着陸したこと」が示されていましたが、それが正確なのか、正常なのか……慎重な確認作業が続きました。

記者会見は着陸後、数十分から2時間後に行うと伝えられていました。ほぼ時間いっぱいの1時間50分後、午前2時10分にようやく記者会見が開かれました。

「午前0時20分に小型月着陸実証機SLIMが月面へ着陸したことを確認いたしました」

会見では開口一番、JAXAの山川宏理事長が月面着陸成功を明らかにしました。同席したJAXA宇宙科学研究所の国中均所長も「ソフトランディング(軟着陸)には成功したものと考えている」と述べました。

記者会見場には多くの記者が詰めかけた

記者会見場には多くの記者が詰めかけた

しかし、会見に臨んだ山川理事長、国中所長、藤本正樹副所長の表情はさえません。何よりも運用責任者である坂井プロジェクト・マネージャの姿がありません。何かあったな……そんな雰囲気を察しました。国中所長は次のように事情を説明しました。

「太陽電池の発電ができていない。現状は電力が発生できていない、搭載されているバッテリーで運用されている。着陸に際して取得したデータを地球に送信し、科学成果の最大化を図るべく努力をしている」

その後、事態は刻々と変わっています。太陽電池の不具合、当初は太陽の方向を向いていない可能性があるとされていましたが、その後のJAXAの情報では、テレメトリと呼ばれるデータから太陽電池が西を向いていることが明らかになりました。今後、月面で太陽の光が西から当たるようになれば、発電の可能性があるということです。内蔵のバッテリーは復旧に備え、いったんオフにしているということです。

SLIMは着陸後も数日間、「マルチバンド分光カメラ」と呼ばれる特殊なカメラで、月面の岩石を分析する任務も課せられていましたが、こうした調査ができるかどうかは太陽電池の復旧次第ということになります。また、着陸降下中や月面でのデータ送信が完了。多くのデータが確認され、チームは公式X(旧ツイッター)で「ホッとするとともにワクワクし始めている」と記しました。

1月20日午前2時10分 記者会見が始まった

1月20日午前2時10分 記者会見が始まった

一方で、世界初の挑戦であったピンポイント着陸に成功したかどうかは、1ヵ月程度かかる分析を待たなければなりませんが、国中所長は会見で次のように語りました。

「トレースを見る限り、ピンポイント着陸はほぼできただろうと考えている。大きな布石を置けた。大変大きな一歩である」

この技術が習得されれば、今後、月の極域、北極や南極にあるのではないかと言われている水や氷の探査に貢献することが期待されます。日本の宇宙開発の存在感をさらに上げていくものになります。

今回の結果、会見では重い空気のなか、記者からこんなやり取りもありました。

—–

(記者)もうちょっと喜んでもいいのではないですか?

(国中)太陽電池が動いていないのが引っ掛かっているのは事実です。

(記者)点数を付けるとすると?

(国中)宇宙科学研究所の所長なので、かなり辛口コメントをせざるを得ない。ギリギリ合格の60点……。

—–

最後のフォトセッションで関係者からようやく笑みがこぼれた(右からJAXA山川宏理事長、宇宙科学研究所・国中均所長、藤本正樹副所長)

最後のフォトセッションで関係者からようやく笑みがこぼれた(右からJAXA山川宏理事長、宇宙科学研究所・国中均所長、藤本正樹副所長)

国中所長のコメントは、小惑星探査機「はやぶさ2」の成功時を思い出します。完全成功に沸く現場に対し、国中所長は「予算の規模のなかで、いつも国民・国家から批判されることを考えた上で、正しく誠心誠意をもって物事を運べるような組織やチームであるべき」と、組織のトップとして、戒めのコメントを繰り出していました。今回の「辛口コメント」も国中所長の“信念”とも言えるものでしょう。

「今回、このような挑戦をした上で、多くの大変難しい問題が並んでいるということを改めて認識した。より頻繁に、サステナブル(継続的)に月にモノを送り込むためには、より確実性の高い技術を確立しなければいけないのを、さらに身にしみて感じた。より精度の高い、確実性の高い技術にこの着陸技術を仕上げていきたい」(国中所長)

いずれにしても今回の月面着陸成功は日本初、世界で5ヵ国目の快挙であることは間違いありません。関係者はもっと胸を張っていいと思います。と、同時に関係者にとっては、これからの月面探査、火星探査に向けた「さらなる高みへ」という想いだと解したいと思います。(了)

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