今年の東京オートサロン エンジンへのこだわり
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月29日 17時20分
「報道部畑中デスクの独り言」(第358回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、東京オートサロンについて—
今年(2024年)に入って大きなニュースが次々と入ってきています。私は科学技術、自動車、防災、経済、政治と担当しており、それぞれの分野は時期によって、繁忙期、閑散期などの“波”があるものですが、いまはどの分野も「ピーク」と言えるような状況です。
そんななか、いささか旧聞にはなりますが、1月12~14日、千葉県の幕張メッセで東京オートサロンが開かれ、足を運びました。主催者発表では3日間の来場者は23万73人で、昨年(2023年)より5万人以上増加。新型コロナウイルスが5類に移行してから初めての開催とあって、一般公開の日は足の踏み場もないほどの盛況でした。
レース仕様にチューンアップされたスポーツカー、車中泊もできるよう豪華な内装のワンボックスカー、軽自動車のキャンパー、キラキラと輝く外装にドレスアップされたクルマ、過激さはやや薄れたものの、コンパニオンの皆さんは健在……オートサロンならではの風景がそこにありました。
一方、昨年の小欄では「東京オートサロンにも環境対応の波が……」とお伝えしました。改造車、カスタムカーの祭典である東京オートサロンですが、今回もそれぞれの道で模索しているように感じました。
まずは完成車メーカー、トヨタ自動車はレクサスブランドのEV=電気自動車「RZ」の特別仕様車を公開しましたが、展示場所はステージ脇のいわゆる「平場」。ステージの主役はモリゾウこと豊田章男会長の「愛車コレクション」、カローラやセンチュリーのGR(GazooRacing)バージョンなどが展示されていました。クルマはEVだけじゃない……これらの愛車コレクションにはそんな主張を感じます。
「カーボン・ニュートラルの山の登り方は国や地域によって違う。エンジン部品をつくっている仲間たちは日本を支え、これから日本を強くしていく技を持っている人たち。この人たちを失ってはいけない。いままでやってきたあなたたちの仕事を絶対に無駄にはしない。カーボン・ニュートラルに向けた現実的な手段としてエンジンにはまだまだ役割がある。動力は何でもいい。真実はいつも1つ、敵は炭素ということだけ」
トヨタ自動車のブース、豊田章男会長はドライバーネーム「モリゾウ」としてあいさつし、このように語っていました。
日産自動車はEV「アリア」のスポーツバージョン「NISMO(ニスモ)」仕様を発表しましたが、周囲はGT-R、フェアレディZのエンジン車が囲みます。一方、マツダはバイオ燃料を使うレース参加車両を出展していました。ボンネットには以前、小欄でも取材した「ユーグレナ」の文字が入っていました。
環境対応の工夫は完成車メーカーにとどまりません。チューニングパーツメーカー「HKS」のブースにあったのは1台のトヨタ・ハイエース、オリジナルはエンジン車のみですが、この車両は変速機などを改造し、ハイブリッド車としていました。具体的にはエンジンをエクステンダー=発電機として活用するもので、PHEV(プラグインハイブリッド)に属します。
発電用のエンジンの燃料は天然ガスの使用を想定しているということです。とことんカーボン・ニュートラルにこだわった一台。担当者は「新たな分野への取り組み」と話します。現時点では公道の走行はできませんが、将来は完成車メーカー以外でもこうした形の電動化対応が可能になっていくかも知れません。
一方、昔懐かしいクルマに、ロータリーエンジンを載せてしまうという“荒業”を見せるブースも。それがマツダの往年の軽自動車「シャンテ」。製作したのは長野県に本社を持つ郷田鈑金、いわゆる「街の板金屋さん」です。漫画『よろしくメカドック』に登場したロータリーエンジン搭載のシャンテを「ただ、つくってみたかった」と話す担当者。しかし、製作には完成車メーカー、マツダの力が必要だったと言います。
マツダは昨年9月、SUVタイプの「MX30」に「ロータリーEV」と称するPHEV(プラグインハイブリッド)を発表しました。ロータリーエンジンを発電機としてモーターを回すものです。昨年のジャパンモビリティショーでは「ロータリーEV」のスポーツカーも出展しました。世界で唯一実用化したロータリーエンジンが時代に合わせて蘇りました。つまり、関連部品も進化した上で継続されることになります。ロータリーシャンテのような車をつくるにはこれが必要というわけです。
ロータリーエンジンと言えば、かつて「ガス喰い」と言われ、オイルショックで壊滅的な打撃を受けた歴史がありますが、本来、環境面では有利なエンジンです。当初マツダはロータリーエンジン搭載車にAP(Anti Pollution)というサブネームがつき、「低公害車」とされていました。発電機としての活用で未来を切り開くのか……楽しみな技術です。
世界の自動車市場は確かに電動化に流れています。電動化が進めば、部品構成も劇的に変わります。電動化に対応できない部品メーカーは淘汰され、生き残りのために合従連衡が進むでしょう。パワートレインの基本構造が変わり、エンジン関連の部品がつくられなくなれば、エンジン車の生きる道はいずれ絶たれます。いつか訪れることにはなるでしょうが、それは後戻りできないことでもあります。
バイオ燃料などでエンジン車にカーボン・ニュートラルに寄与する余地が残されていること、世界を見渡してまだまだEVに適応する環境が整っていない現状を考えると、いま申し上げていることは決してノスタルジーではないと思います。限られた経営資源という事情はあるものの、EV化への動きには、後戻りできないという覚悟があるのだろうか……クルマ好きが集まるイベントを見て、そんな素朴な疑問もわいてきたところです。(了)
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