動かぬ証拠! 日本初、月面着陸のつめ跡
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年1月27日 17時20分
「報道部畑中デスクの独り言」(第357回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日本初の月面着陸に成功した月着陸実証機「SLIM」について—
「きょうは明るい話になりそう?」「期待してて下さい!」……東京・御茶ノ水のホール。記者会見を前に、関係者とかわしたやり取りです。
1月20日、月面着陸に成功した月着陸実証機「SLIM(スリム)」。当日開かれた記者会見では日本初の「快挙」にもかかわらず、関係者の表情はさえず、終始、重苦しい雰囲気でした。先の小欄でも詳しくお伝えしましたが、約5日半が経った25日午後2時、JAXA=宇宙航空研究開発機構は改めて記者会見を行い、その後の状況を説明しました。いい意味で予想を大きく裏切るものでした。
「小型月着陸実証機SLIMは、2024年1月20日0時20分に100m精度のピンポイント軟着陸に成功したことを確認しました」
口火を切った宇宙科学研究所の国中均所長はこのように報告しました。
着陸場所は目標地点から55m離れた場所であることも明らかになりました。ピンポイントの着陸精度そのものは、障害物回避の前の段階で概ね10m以下、後述の異常を加味すれば、実際の精度は3~4m程度だった可能性が高いということです。
約38万km離れた天体に向けて放った物体が、わずか3~4mの精度で着陸する……まさに驚異の数字だと思います。ピンポイント着陸の成否を判断するには当初1ヵ月ほどの時間が必要とされていましたが、この精度の高さが判断を早める結果になりました。
さらに着陸直前に放出された2つの小型ロボット「LEV-1(レブワン)」「LEV-2(レブツー、別名SORA-Q(ソラキュー)」も着陸。特に「LEV-2」はSLIMの撮影に成功、着地した機体をしかと捉えていました。着陸の“動かぬ証拠”です。
「腰が抜けそうになった」
運用責任者の坂井真一郎プロジェクトマネージャは、画像を見たときの衝撃をこのように表現していました。
一方、5日前の会見が重い空気になった理由である太陽電池の不具合、その原因も明らかになりました。着陸直前の高度50m付近で、2基あるメインエンジンのうちの1基に異常が発生。推力が半減して想定と異なる姿勢で着地、ひっくり返ったような状態になったということです。これにより、太陽電池が西を向き、当時、東側にあった太陽の光が当たらず、発電できない状況になりました。
ただ、太陽電池が地面を向いていれば、発電の望みは本当に絶たれます。西を向いたことで電力復活の望みはつながれたわけで、坂井プロマネは「あの姿勢になっているだろうと推測はついていたが、よくあの形でとどまってくれた」と胸をなでおろします。着陸直後の管制室の様子は混乱していたものの、万が一、電力が確認できなかった場合の対応もあらかじめ決めており、「そのときのメンバーの落ち着きぶりは感銘を受けた」と、メンバーを称えました。
今後、太陽が西の位置になれば、太陽電池が発電し、機体の運用が再開される可能性があります。太陽電池自体が損傷しているかどうかも不明な状況ではありますが、JAXAでは2月1日までの運用再開を想定しています。着陸後に数日間予定していた「マルチバンド分光カメラ」と呼ばれる特殊なカメラで月面の岩石を分析する任務は、太陽電池の復活がカギを握ります。
着陸当日は対応に集中するため、記者会見を欠席した坂井プロマネ。自己採点を聞かれると「ピンポイント着陸は100点満点。まさに設計として見込んでいた通りの実力を発揮してくれた」と評価しました。一方の国中所長、当日は「ギリギリ合格の60点」と“辛口評価”でしたが、今回は?
「500ニュートンスラスタ(メインエンジン)が惜しかった。あと数分もってくれれば着陸できた」と無念さを見せながら、「SLIMに搭載されたマルチバンドカメラ、LEV-1、LEV-2が正確に動いたことで各1点加算して、63点でお願いします」……組織のトップたる国中所長の所以でしょう。「え? 渋っ」……私もそう思いながら、場内からは笑いが起きていました。
メインエンジンは今後の火星探査などでも不可欠の技術。異常の原因はしっかりと究明されなくてはいけません。宿題が少なからず突き付けられました。しかし、衝撃の月面画像など、多くのデータも獲得できました。チームは公式X(旧ツイッター)で「ホッとするとともにワクワクし始めている」と記していました。
記者会見は着陸直後から一転、柔らかな雰囲気に包まれました。まだまだ進行中のプロジェクトですが、「さらなる高みへ」……改めてエールを送りたいと思います。(了)
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