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専門家に聞く「2024年問題」の基礎知識

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年2月1日 17時20分

専門家に聞く「2024年問題」の基礎知識

「報道部畑中デスクの独り言」(第359回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、「2024年問題」について—

※画像はイメージです

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今回の小欄は「2024年問題」について取り上げます。改めておさらいをしますと、2024年問題は働き方改革関連法で、ドライバーの労働時間に上限が課されることによって生じる問題のこと。

働き方改革そのものは、さまざまな企業で既に実践されていますが、物流・運送業界ではこれまで規定が免除されてきました。いよいよ、今年(2024年)4月から適用ということになります。専門家の分析、各企業の対応も交えながら、2024年問題、私たちが押さえておくべきポイントをお伝えしていきます。

「要するに時間をかけてはいけない、ドライバーの拘束時間、労働時間が規定をオーバーしてはいけませんよというのが2024年問題の最も大きなところ。予想されることは運賃や料金が上がる」

こう話すのは、NX総合研究所リサーチフェローの田阪幹雄さん。NXとはNIPPON EXPRESS=日本通運のこと。田阪さんは日本通運で海外勤務も経験されているという、まさに物流のプロ、専門家です。

トラックドライバーの拘束時間は、これまでは年間3516時間以内となっていますが、今年4月からは3300時間以内と、216時間減少します。これによって貨物全体の14%あまりが運べなくなると言われています。ドライバーの人手不足、物流の停滞、さらには業界の売り上げ・利益減少、ドライバーの収入減少が懸念されています。

この2024年問題、消費者の視点で懸念されているのは宅配便への影響です。荷物がちゃんと届くのか、料金が上がるのではないか……確かにこれも重要ですが、NX総合研究所の田阪さんは「宅配便が日本の総貨物量に占める割合は極めて限られている。宅配便は2024年問題のメインイベントではない」と話します。

2020年の時点のデータでは、運送ドライバーは全国で約72万人いると言われています。そのなかで、宅配便のドライバーはおよそ20万人、27%あまりです。一方で貨物全体の量に占める宅配便の割合は1%ほど。いわゆる「小口運送」にドライバーの業務が集中しているという傾向がうかがえます。こういったことから宅配便の影響はもちろん無視はできませんが、貨物量で見れば、BtoB=企業と企業の間の輸送の影響がより大きいというわけです。

田阪幹雄さん

田阪幹雄さん

さらに、そのなかで最も影響が出る業種は「農業・水産業」です。2024年問題で30%以上が運べなくなると言われています。結果として野菜や魚の価格が上がる可能性もあります。さらに、農林水産物は飲料・食料品の原材料でもあるため、メーカーの工場に原材料が届かず、個々の生産が上がらなくなることも考えられます。まさに「上流」の影響が、宅配便も含め「下流」である消費者にまで及び、経済全体に影響を与えていくというわけです。

こうしたさまざまな課題への対策として、何が必要でしょうか。

「短期的な対策は、ドライバーをできるだけ荷主の現場で長時間拘束しないことが大事。基本的に運賃を払うだけでは、これからトラック運送事業者が受けないという時代に入っていくと思う。省人化、自動化、無人化の方向に進む可能性がかなり高い」(田阪さん)

運送業界では手待ち時間、荷役作業という概念があります。手待ち時間というのは、労働時間内で所定の労働に従事することなく待機している時間……例えば、荷物が到着したあと、積み込みを待っている時間がこれにあたります。そして荷役作業は、荷物を積み下ろす際に荷物を手で運ぶなどの作業を指します。

特に荷役作業は多くのケースでドライバーが無償で負担していましたが、本来は費用が発生するもの。これからは、ただというわけにはいかなくなります。そこで、手待ち時間と荷役作業をできるだけなくしていこうという動きが出てきます。いわば作業の効率化です。

新年早々に開かれた経済3団体主催の新年会。出席した企業のトップも2024年問題の対策について言及していました。

「1日3便から2便に減らす、他社との共同物流の検討、冷凍物流を増やす、この3本柱で対応」(ローソン・竹増貞信社長)

「物流システムの活用、業界を超えた共同輸送、関西以西の商品輸送の柔軟化」(サントリー食品インターナショナル・小野真紀子社長)

「物流データの共有、積み荷の会社をまたいだ連携、長距離トラックの中継拠点によるドライバーの負荷軽減、商用事業の長期的な視点では、自動運転の技術を提供していく」(トヨタ自動車・佐藤恒治社長)

※画像はイメージです

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一方で、NX総合研究所の田阪幹雄さんは、もう一段、中長期的な観点での対策を指摘します。

「日本の物流の特性を認識しなければいけない。ドライバーが荷主の施設のなかで荷役作業を行うことは、欧米ではまずない。いわゆるBtoBの貸し切り輸送をトレーラー化していない国は世界で少数派になっている。ドライバーを貨物から離すという意味で、トレーラー化が今後、必要になっていくかも知れない」

トレーラーはご存知の通り、運転席と荷物を分離できる車両です。受け側の荷主に荷物が到着したときに、荷物の部分を分離すれば、ドライバーは荷役作業から解放されるというわけです。ただ、日本はトレーラー中心の輸送体制が整っているとは言えません。街中は狭い道が多く、トレーラーが通るのは現実的ではないようですが……。

田阪さんはイギリスの例を挙げながら、都市計画の重要性を訴えます。

「イギリスに行くと、住宅地のなかに工場はないし、住宅地のなかに物流施設もない。20世紀に入って100年の計でもって国を挙げて都市計画をやってきた。住宅と工場物流施設を完全に棲み分けさせた」

「それに対して日本は、市街化区域が13の用途地域に分かれている。それぞれの用途地域でどういうものを建てられるか決められているが、面積で見ると半分以上が住宅と工場、物流施設が共存できるとなっている。ここを整理していく必要がある」

「いまの日本の物流は世界のなかのグローバルスタンダードではないことに気づき、中長期的に考えながら手を打っていくことが必要だ」

2024年問題をさまざまな角度からお伝えしましたが、運搬作業の見直しはもちろんのこと、配送回数、配送拠点の効率化、異業種との連携、そして、トレーラー輸送、都市計画の見直し……そう考えると、「2024年問題」は決して2024年で終わるものではありません。それは日本の物流を変える、ことによると社会の変革にもつながる、その第一歩であると、結論付けられると思います。(了)

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