「国家安全条例」制定へ いよいよ香港を大陸化する習近平氏の「狙い」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年2月1日 11時50分
中国の習近平国家主席(ベトナム・ハノイ)
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でジャーナリストの峯村健司と東大先端科学技術研究センター准教授で軍事評論家の小泉悠が1月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。香港政府が発表した香港独自の「国家安全条例」について解説した。
香港独自の「国家安全条例」制定へ
香港政府トップの李家超行政長官は1月30日、国家の安全を脅かす行為を取り締まる香港独自の「国家安全条例」の制定に向けた作業を開始すると発表した。条例制定は長年の政治課題で、外国の情報機関などによるスパイ活動の取り締まりが重点の1つになる。
飯田)既に香港国家安全維持法がありますが、それだけではなく国家安全条例をつくる。ますます締め付けが厳しくなるのでしょうか?
峯村)そうですね。かなり厳しい法律です。香港国家安全維持法は中国政府の法律ですが、国家安全条例は香港政府の法律であり、お互いに補完して監視をもっと強める。これは香港政府の悲願で、香港からすれば、二十数年間議論してきたことが「ようやくできた」ということです。
外国企業を含め、外国スパイ組織を意識してできているため、外国がターゲットになる可能性が高い
峯村)2002年にこれをやろうとした際は「50万人デモ」が起きて、民衆の力で阻止していました。しかし、今回は、そのようなデモを行うことはできません。「それだけ香港が変わってしまった」という象徴的な出来事です。この条例が怖いのは、外国企業も含めた外国人、特に外国のスパイ組織を意識してできているところです。香港に進出している日本企業を含めた外国企業にも影響を与える恐れがあります。これまで香港は中国の大陸と違い、「一国二制度」によって、法治が維持されていたので、外国企業の利益や権益も保護されてきました。しかし、この条例ができたことで、「一国二制度」は完全に崩壊し、香港の「大陸化」が完成した、というのが私の今回の見立てになります。
今後の市場をどこに求めるのか、サプライチェーンをどう構築し直すのか
飯田)ビジネスも含めてやりづらくなりますね。やはり関係性も考える必要がありますか?
小泉)中国そのものが「ビジネスチャンスであるのか、ビジネス上のリスクであるのか」という議論があります。これまでは疑いなく「チャンスの国」であったと思いますが、果たしてこれ以上、中国に投資してよいのか、中国とビジネスを続けてよいのか、中国にサプライチェーンの観点で依存してよいのか、わからなくなってしまいました。
飯田)今後は。
小泉)香港の条例を見ると、さらにそれが強まるのかなと思います。つまり比較的、安全にビジネスができそうな場所だった香港も本土並みか、あるいはもっと厳しくなるわけですよね。安保に関わる我々の発想としては、その分の市場をどこに求めるのか、サプライチェーンをどう構築し直すのかということです。商売人の人たちは商売人として、新しい市場をどうするかという話になると思います。
中国は「和平演変」の恐怖から国力の基礎だったものを自ら崩しているのか
小泉)ロシアを見ていて思うのですが、中国は世界最大の市場でもあり、世界の工場でもあったので、ここまでのし上がってきた。そういう利点があったのに、自ら首を絞めているような気がします。中国はその辺りのリスクを計算しているのか、それとも毛沢東時代からずっと「和平演変」と言ってきたように、「見えない戦争を仕掛けられて内側から権力を崩壊させられるかも知れない」という恐怖の方が勝り、国力の基礎だったものを自ら掘り崩してしまっているのか……。どう考えたらいいのでしょうか?
習近平氏にとって「経済の発展」より「国家の安全」の方が優先順位が上
峯村)おっしゃる通り、習近平氏にとっての優先順位としては、「国家の安全」の方が経済発展よりも遥かに上なのです。習氏の内部の講演を含む演説をよく見ていると、習近平氏個人の頭のなかでは、経済はもう十分大きくなっているという発想なのだと思います。
根拠のない陰謀論がユーラシア大陸の広い範囲で正当化され、世界観そのものの分断がこれから大きくなる
峯村)それよりも、まず「国家の安全」が最も重要だと位置付けていることがわかります。、特に香港の場合は「アメリカのCIAが我々の体制をひっくり返すカラー革命をするための本拠地である」と、中国政府が信じて疑わないのです。。中国政府は「香港のアメリカ総領事館には、1000人のCIA職員がいる。それがいろいろな偽情報を流したり、スパイ活動をしたりしているから、これをまず叩かなければいけない」とよく言います。私は、香港の米総領事館に行ったことがありますが、「この建物に1000人も入るか?」とツッコむ大きさです。でも、中国当局者は「地下にいろいろあって」と反論します。とにかく信じて疑わないのです。そうなると、やはり国家安全条例には2つあるのです。外国組織、そしてスパイ活動を狙っていることがよくわかります。。
小泉)信じて疑わないのはロシア人もそうです。例えば「アメリカのクリントンとビクトリア・ヌーランドが結託して、ウクライナでの危機を引き起こしている」みたいなことを、みんな本気で思っている。アメリカもいろいろな陰謀を考えますから、一部は本当に当たっているのかも知れません。しかし、明らかに荒唐無稽なことも半分社会常識になってしまっているのです。仮にロシアだけがそうであるならば、「お前たちの国はおかしいよ」という話になると思います。でも、おそらくですが、プーチン氏と習近平氏の間でどんな話をしているかと言うと、ぴったり世界観が合っているわけです。
飯田)なるほど。
小泉)あるいは中央アジアの国々の独裁者たちも、同じようなことを言うのでしょう。ベラルーシのルカシェンコ大統領も同じことを言う。我々からすると明らかに根拠のない陰謀論が、ユーラシア大陸のかなり広い範囲では、正当なものになってしまっている。そうなると軍事力やサプライチェーンの寸断だけでなく、世界観そのものの分断がこれから大きくなるのではないでしょうか。
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