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アメリカ軍と親イラン勢力の「応酬」 その複雑な「背景」

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年2月7日 17時40分

アメリカ軍と親イラン勢力の「応酬」 その複雑な「背景」

軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が2月7日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。親イラン勢力の反撃とみられるシリア最大の米軍基地へのドローン攻撃について解説した。

2日、米東部デラウェア州のドーバー空軍基地で、ヨルダンで犠牲となった米兵の遺体を出迎えるバイデン大統領(中央)(米東部デラウェア州)=2024年2月2日 EPA=時事 写真提供:時事通信

2日、米東部デラウェア州のドーバー空軍基地で、ヨルダンで犠牲となった米兵の遺体を出迎えるバイデン大統領(中央)(米東部デラウェア州)=2024年2月2日 EPA=時事 写真提供:時事通信

米軍基地に無人機攻撃、親イラン勢力の反撃か

シリア最大の米軍基地でドローンによる攻撃があり、アメリカが支援するクルド人勢力の隊員が少なくとも6人殺害されたと明らかにした。2月2日の米軍の報復以降、駐留基地が攻撃されたのは初めて。ヨルダンでアメリカ兵3人が死亡した無人機攻撃を実行したとみられる親イラン武装勢力の連合体「イラクのイスラム抵抗運動」が犯行声明を出している。

新行)今回の親イラン勢力による「報復の報復」について、どうご覧になっていますか?

黒井)10月7日に行われたハマスの攻撃以降、この地域では、イラク人の民兵がアメリカ人の基地を攻撃するというようなキャンペーンを始めています。それに対して報復があり、さらにその報復と、お互いに攻撃が続いている。アメリカとしては引きずり込まれたような状況です。

新行)今回、攻撃されたシリア最大の米軍基地は、そもそも何の目的でつくられたのでしょうか?

黒井)そのエリアは以前、イスラム過激勢力であるISが猛威を振るった場所です。そのエリアにいるクルド人武装勢力を中心にした民兵組織などがISを倒したのですが、それを支援したのがアメリカ軍なのです。イラク北部などにも(基地が)あります。アメリカ軍が彼らを支援した関係もあって、そこに駐留し、アメリカ軍が使える拠点として残した場所の1つになります。

親イラン勢力とイランの関係

ジャーナリスト・佐々木俊尚)最近フーシ派やハマス、ヒズボラ、イラクのイスラム抵抗運動など、「抵抗の枢軸」と言われるような親イラン勢力が増えている気がします。イランがそれらを支援しているのには、どんな背景があるのですか?

黒井)「イラン革命防衛隊」という軍隊のなかに、「コッズ部隊」という工作機関があります。ホメイニさんの時代から、彼らの言う「イスラム革命の輸出」を担ってきた組織です。そのため、この動きは急に始まったわけではありません。レバノンにはヒズボラという大きな組織がありますが、イランが自分たちの手駒になるような組織……イラク、シリア、さらにイエメンの内戦から出てきたシーア派系のフーシ派などを支援したという流れですね。

イランがいろいろな手駒を使ってアメリカやイスラエルに攻撃を仕掛けている

佐々木)イスラム教内でもスンニ派とシーア派は当然、対立するわけです。イランのシーア派と、その他アラブのスンニ派の対立、またアメリカとの三つ巴の関係はどういう形なのですか?

黒井)イランはシーア派なので、シーア派をメインにそういった部下をつくります。加えてハマスはスンニ派ですが、スンニ派のなかでも自分たちと組めるところは手を広げるわけです。それに対して、アメリカだけではないですが、やはり反対する勢力もいて、スンニ派のグループもいます。もともとアメリカはイランと敵対していますので、組めるところと組んでいくような流れになります。

佐々木)ややこしいですよね。

アメリカと戦争する気はないイラン

黒井)基本的に、震源地はイランなのです。イランが自分たちの影響圏をつくるために、いろいろな工作を国の外で行う。ただ、イランが直接出て行くとアメリカやイスラエルとの戦争になってしまいますので、直接ではなく、手駒をつくってやらせているのです。

佐々木)イランは正面切ってアメリカと戦闘状態に入るつもりはないのですよね?

黒井)そうです。イランも長年、イスラム革命政権が残っていますので、自分たちの周りを含めてある意味サバイバルをしてきたのですが、リスクを回避するというような独特の戦略ですね。

新行)ただ、これはイランが直接コントロールしているわけではないのですよね?

黒井)いや、イランの工作機関がほとんどコントロールしています。組織をつくるところから、武装して軍隊をつくるところまで全部、コッズ部隊が指導します。ある意味、コッズ部隊は参謀本部のような役割です。

イランのテロを増やさないためにもイランの報復には対応せざるを得ないアメリカ

新行)アメリカはさらなる報復を強調しており、サリバン大統領補佐官も「さらなる措置を行う」と述べています。今後はどうなるのでしょうか?

黒井)イランとアメリカは直接戦闘せず、イスラエルとイランも直接戦闘しないという、ギリギリのところでお互いに報復し合うと思います。ただ、アメリカはやりたくてやっているわけではないのですが、これを放置すると再びイランの工作によってテロが増えるので、ある程度、報復に対して対応しないといけない状況に追い込まれているのです。

「寸止め」状態の攻撃が続くイランとイスラエルの戦い

佐々木)レバノンのヒズボラはイスラエルと対峙し、イスラエルに向けて激しいミサイル攻撃なども行っているようです。今回のアメリカとイランの事件をきっかけに、イスラエルからヒズボラ、もしくはイランに対する攻撃がエスカレートする危険性はないのでしょうか?

黒井)もちろんヒズボラのバックにもイランがいるのですが、そういった勢力とイスラエルの対立はずっと続いています。イスラエル軍も直接イランまでは攻撃しませんが、シリアにいるイランの工作機関の拠点を攻撃し、イランの軍事顧問の高官が殺されるなど、お互いにやり合っています。ただ、やはり直接やり合うと戦争になるので、お互い控えている。ある種の「寸止め状態」での攻撃は同時並行で行われており、これからも続くと思います。

紅海でフーシ派が船舶2隻にミサイル発射したのは米英への報復

新行)イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、紅海で2隻の船舶にミサイルを発射したという報道もありました。

黒井)フーシ派のバックにもイランがいます。イランの指示で、最初は対イスラエル関係の船舶を攻撃するため紅海に入ったのです。それに対して、米英を中心にフーシ派への攻撃があったので、その報復として今回、アメリカとイギリスの船を狙った。ただ、こちらも限定的です。バックにはイランがいるのですが、イランが出てくることはありません。

新行)今後も船舶に対する攻撃が続く可能性はありますか?

黒井)必ず続くと思います。フーシ派はまだ勢力を残しており、それに対する報復を宣言していますので、必ず行われると思います。

紅海を通れるようにするためにはどうすればいいのか

佐々木)紅海が通れなくなり、結果的にスエズ運河がストップしてしまった。最近、パナマ運河も通行を制限しているため、まるで19世紀のように喜望峰を回るパターンが増えているようで、グローバルサプライチェーンもかなり影響を受けています。今後、紅海を通行可能にするためにはどういう展開が必要でしょうか? フーシ派を壊滅させるしかないのですか?

黒井)いま米英中心に行っているものを強化するしか方法はありません。フーシ派を潰すのは難しいと思いますが、フーシ派がそういうことをすれば何倍も報告を受けるというように、フーシ派が攻撃を弱める方向へ持っていくしかない。

新行)日本にも影響が及びますよね?

黒井)紅海を通れなくても、アフリカ南部を通るルートがありますので、途絶するわけではありませんが、運航費が掛かれば値上げにもつながりかねないと思います。

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