経済不調にも関わらず、習近平政権が「腐敗撲滅」を進めるのはなぜか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年2月20日 17時30分
中国の習近平国家主席=2022年10月、北京の人民大会堂(共同)
戦略科学者の中川コージが2月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国経済の今後について解説した。
経済が苦しいにも関わらず、国家安全に舵を切る理由
飯田)中国の足元の経済は、不動産などが不調だと言われています。実際はどうなのでしょうか?
中川)中国崩壊論に対して、私はたびたび疑問を呈してきました。実際に経済・不動産不況を始め、景気が悪いことは間違いありません。月に1回ほど中国当局が外資企業に対して説明会を行うくらい、下からの要望が来ているのです。彼らがこのようなことを行うのはレアケースです。
将来的な経済成長のためにも、ここで腐敗の膿を出さなければならない
中川)よく言われているのが、「国家安全のために経済を犠牲にしている」という話です。日本国内でも「国家安全ばかりではなく経済もやれば彼らの得点になるのに」という論調をよく見ます。彼らの計算としては、経済に圧力を掛ければ自分たちの力が削がれることはわかっているので、経済も進行したいのですが、いまはそのフェーズではないと計算した上でやっています。
飯田)いまやる場面ではない。
中川)まだ腐敗がまん延していて、それを叩かないと、経済も含めて今後「より悪くなるだろう」という計算のもとに、ここで膿を出しておかなければいけない。だから国家安全に舵を切っているだけです。経済を犠牲にするという話ではありません。まずこの大前提があります。
基本的には、「中国経済が不調だから投資しない」というのが合理的な構造
中川)その上で、中国への直接投資が大分減っています。
飯田)海外からの直接投資ですね。
中川)外資系企業からの直接投資は2023年比で82%減となり、ガクッと減っています。ポイントとして、我々はデカップリングやデリスキングを行い、各国の経済安全保障政策において「中国をサプライチェーンから排除しよう」という傾向があります。しかし、これだけを理由にしては間違えてしまうと思うのです。確かに「政治がそう言っているから我々は投資しにくい」という部分はありますが、基本的には「中国経済が不調だから投資しない」というのが合理的な構造です。すべてが経済安全保障の政策に掛かっているわけではありません。直接投資が減ったのは政治主導のデカップリングだけではなく、大きな理由としては、中国が経済不調だから投資していないという可能性があります。
中国経済が復調した際には再び「サプライチェーンの中国依存」が回復する
中川)政治主導によるデカップリングと、経済不調による直接投資が単純に減ったという2つの要因が混ざっている。その前提に立つのであれば、もし中国経済が復調した場合、政治的にはデカップリングしたいけれど、また直接投資が増えてしまうかも知れない。そういうことまで想定できます。
飯田)中国経済が復調したときは。
中川)中国への直接投資が減り、ようやくサプライチェーンでデカップリングができた、という喜ばしい話では決してありません。中国経済が復調したら回復する可能性もあるので、そうならないように、引き続きサプライチェーンのポートフォリオを広げていく。今後はその努力が必要になると思います。
腐敗の部分を叩かないと経済も何もない
飯田)中国当局として、ある程度は経済不調を織り込みながら進めていく。反腐敗はずっと行われていますが、まだまだ足りないのですか?
中川)全然足りないですね。1月に行われた中央規律検査委員会の総会でも、金融セクターや不動産セクター、生体バイオなどに関して、腐敗が広がっていると指摘されています。また、5年遅れくらいであった軍内での腐敗も全然止まらず、2月19日の発表では、中央全面深化改革委員会で習近平さんが話したテーマに出ています。簡単に言うと、4つくらい語られた大きなテーマの1つとして、「腐敗を減らしていく」ということが強く語られていました。習近平氏や指導部の頭のなかには、「まず腐敗の部分を叩かないと経済も何もない」というレベルの問題になっており、決して最近出てきた話ではありません。
飯田)腐敗をまず叩かなければならない。
中川)毛沢東以降、腐敗はずっとあったのですが、ようやく最近になって「腐敗撲滅」が出てきた。習近平政権になってから(腐敗が)増えたのではなく、習近平氏が叩いて「これだけあったのだ」ということが見えてきたのです。叩いたことで大量の案件が出たので、ここでやめてしまうと、また腐敗勢力がまん延してしまいます。習近平氏としては、「経済などやっている場合ではない」という話なのだと思います。
ここで腐敗を取り除かなければ先に進めない
飯田)いままでは、みんな腐敗しているなかで回してきたのだと思いますが、この先回っていくのですか?
中川)パイが増えていくなかで、腐敗も容認しながら大きくしていこうという方針だったのだと思います。しかし経済不調も含め、GDPも当然下がってくる。経済が不調でなかろうと、ある程度成熟したら下がってきますよね。だから、ここで腐敗を出さずにいつ出すのだという話です。本当に政権自体が危なくなってくるので、ここでやらなければいけないという思いがあるのでしょう。
日本のデフレを学んだ上で経済不調になっている中国
飯田)不動産の資産価格が下がり、信用不安が起こると、各国にも中国のデフレが輸出されるのではないかと言われています。日本も他人事ではないですよね。
中川)日本は賃金が上がり、インフレ傾向になってきたけれど、中国発のデフレに影響されたら日本は完全に煽りを受けてしまいます。中国は「建国100年を迎える2049年までに世界をリードする」という目標に向けて反腐敗闘争を続けていますが、彼らの都合でデフレになり、そのデフレが我々に輸出されたら「たまったものではない」と思います。しかし、我々にはコントロールできないですよね。
飯田)デフレの怖さについて、我々は30年経ってようやく出口が見えてきました。「甘く見ていると、2049年までデフレになってしまうぞ」と思うのですが。
中川)日本では「(中国が)日本から全然学んでいない」という論調が多いのですが、学んでいるとは思います。学んだ上で「やらざるを得ないこと」をやっているのでしょう。
飯田)そこも天秤なのですか?
中川)当然です。知らずにやっていると考える方が逆に難しい。知った上で、これだけの経済不調になっているのだと思います。逆に言えば、10年放っておいたら本当に死ぬデフレになるでしょうね。
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