ウクライナ国民が思う「停戦しても意味がない」 現地在住の編集者が「その理由」に言及
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年2月21日 17時30分
東部ルガンスク州の塹壕で命令を待つウクライナ軍兵士ら=19日
ウクライナの国営通信社ウクルインフォルム通信の編集者・平野高志氏が2月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。現地・ウクライナの現状について語った。
ウクライナ首相、欧米の支援遅れを懸念
来日したウクライナのシュミハリ首相は2月20日、東京都内で記者会見し、欧米の支援停滞に強い危機感を示した。その上で、ロシアがウクライナへの侵略を進めれば「より多くの紛争や戦争が世界で起きる」と警告した。
ロシアがクリミア占領作戦を始めてから10年が経過
飯田)ロシアによるウクライナ侵略から間もなく2年となり、日本メディアでは特集記事なども組まれています。平野さんは、ご自身のX(旧Twitter)で「10年」という単語を使っていらっしゃいますが、どんな意味があるのでしょうか?
平野)2014年2月20日にロシアがクリミア占領作戦を始めたのが、いまのロシア・ウクライナ戦争の発端だと思います。そこから数えると、ちょうど昨日(2月20日)で10年になったという意味です。
飯田)2月20日という日付は、ウクライナのなかで重く受け止められているのでしょうか?
平野)そうですね。これがそもそもの侵略の始まりで、現在の侵略は「全面侵略が始まって2年」と計算されています。
勝つために戦うという希望を抱いて生きている
飯田)10年の長きに渡って対峙し続けているわけですが、国内の状況はいかがでしょうか?
平野)ご存知の通り、アメリカなどからの支援が滞っていることで、非常に重々しい空気が流れています。もちろん人々は疲れていますし、他方で侵略される側なので、簡単に「疲れたらやめる」というわけにもいきません。ロシアは疲れたら撤退すればいいだけですが、ウクライナは疲れたからと言って諦めてしまったら、ブチャのように占領による地獄が待っています。停戦してもロシアに再度侵略される可能性がありますし、戦い続けても当然、地獄です。どれを選択しても苦渋の決断になるというジレンマのなかで毎日生きています。いまは「何とか勝ちたいから、戦わないといけない」という希望を抱いて生きているのだと思います。
飯田)2月に入ってザルジニー総司令官が解任されるなど、いろいろなことが起きていますが、影響は出ていますか?
平野)アメリカの支援が止まっていること、人気のザルジニー氏が解任されたこと、まだまだ簡単には戦争が終わりそうにないことなどが重なって、重々しい空気になっていると思います。
停戦したところで、ロシアは必ず再侵略してくる
ジャーナリスト・佐々木俊尚)西側メディアの報道を見ると、「停戦するしかないのでは」というような空気が広がっているように感じます。もし仮に停戦するとなると、ウクライナが絶対に守らなければいけない条件として、何があるでしょうか?
平野)いまのところ、ウクライナでは停戦の議論がまったく出ていないので、「どういう条件か」という議論もされていません。どんな停戦をしたとしても、ロシアの目的がウクライナ支配である限り、必ずもう1回侵略してくるだろうというのが共通項になっています。それでは「停戦しても意味がない」という話しか出ていません。
トランプ氏を刺激しないよう、静かに米大統領選を見るウクライナ
佐々木)一方で、今年(2024年)のアメリカ大統領選はバイデン対トランプの一騎打ちになりそうです。トランプ氏が当選するという予測が盛り上がっていますが、そうなった場合、ウクライナは窮地に陥るのではないかと思います。その辺りに対する国内の受け止め方はいかがですか?
平野)あまり大きく議論されていません。理由としては、選挙介入だと受け取られることを嫌がっているからです。2016年の米大統領選挙のとき、ウクライナでトランプ氏に不利になるような情報が出てきて、それをトランプ氏が根に持ってしまったことがありました。その反省から、今回はそうならないように静かにしているのだと思います。
佐々木)あまりトランプ氏を刺激すると、本当に大統領になったとき困るということですよね?
平野)そうですね。
中長期的に戦える体制づくりを進めるウクライナ
飯田)ウクライナ東部のアウディーイウカから、ウクライナ軍が撤退したと報道されました。ここへ来て反転攻勢もうまくいかないようですが、今後の展開はどうご覧になっていますか?
平野)ザルジニー総司令官の交代もそうですが、中長期的に戦える体制づくりを進めているのだと思います。弾薬や無人機を長期生産する体制をつくったり、動員法案を新しくする、安保協定を結んで安定を図るなど、いろいろな体制づくりをしているところだと思います。
飯田)ドイツと安保協定を結びましたが、個々の国とも進めていく方針なのでしょうか?
平野)もともとG7の宣言が基本になっているので、日本とも協議を始めており、どういう案が出てくるのか気になっているところです。
日本への信頼度は高く、第二次世界大戦や災害からの復興ノウハウに期待
飯田)復興に関する会議も東京で行われましたが、日本の支援で期待されているのはどんなことでしょうか?
平野)日本に対する信頼度は高く、2年前の日本の姿勢は評価されています。日本は第二次世界大戦後や地震などの災害からの復興経験、ノウハウがあるので、それに対する期待も大きいと思います。もう1つ重要なのは、「日本がきちんとウクライナに本腰を入れて支援してくれる」という信頼感だと思います。2016年、日本はロシアに対し「8項目の経済協力プラン」を提示しました。あれは完全に頓挫して大失敗しましたが、今回のウクライナに対する支援計画は、それに似ているところがあるのです。
2016年にロシアに提示した「8項目の経済協力プラン」と同様の内容を今度はウクライナに
平野)国際協力銀行(JBIC)や日本貿易振興機構(ジェトロ)が出てくるなど、7つの優先項目の他、査証緩和も発表しています。同じ政府がつくった計画なので似るのは当然ですが、今回は侵略国ロシアではなく、侵略される側であるウクライナのために計画をつくった。それが非常にシンボリックだったと思います。
飯田)今回の日・ウクライナ経済復興推進会議では岸田総理が基調講演を行い、そのなかでジェトロの事務所をつくることなども発表されました。それがウクライナで報じられているのですか?
平野)細かくすべて報じられています。何より全面侵略開始後に、日本が大きく方針転換したことが大きいですね。2年経って「可哀想」という状態から、理屈で支援しなければいけなくなった。それにどういう意味があるのかという難しいタイミングです。だからアメリカでは支援が止まっていますし、EUも苦しんだのですが、そのなかで日本が細かく準備した上で支援方針を発表した。そこが評価されているのだと思います。
飯田)感情ではなく理性というか。結局、ウクライナ戦争の帰趨によっては、我々のいる東アジアにも大きく影響が出ます。この辺りが日本国内でも語られるようになった。かつてロシアと蜜月だった時代に比べて、大きく変わりましたね。
平野)2年前に日本の外交政策が変化し、そこから2年経って、いま結晶化したような会議だったと思います。支援額などの数字も大切ですが、それよりも中長期的に方針転換させていく構図を形にして見せたことが重要だと思います。
今後、期待する日本からの支援
佐々木)日本が今後さらなる支援を行う場合、ウクライナは何を求めるのでしょうか?
平野)復興ではないでしょうか。もちろん武器も必要ですが、それ以上に、日本にしかできないことを議論したのでしょうから、着実な実現を期待していると思います。また、ビジネス界がウクライナに入っていくことも期待していると思います。
戦争中でも同時並行で復興を助けるべき
飯田)日本国内では「戦争している最中に復興も何もないだろう」という批判がありますが、同時並行で進めることが大事ですか?
平野)同時並行でやるしかないと思います。グラデーションがあるわけです。キーウで言えばミサイルはほとんど防げているので、経済活動は完全に回っており、他国からもいろいろな企業が来ています。日本だけが「戦争が終わったら」などと言っていたら、できることもできなくなってしまいます。きちんとグラデーションを理解した上で、「ここではこれができる、ここではこれができない」と理解しながら進めるしかないと思いますね。
ナワリヌイ氏の死亡をウクライナ国民はどう見ているのか
飯田)反体制派の指導者であるナワリヌイ氏が、ロシアで死亡したと報道されました。ウクライナ国内ではどう報じられていますか?
平野)ナワリヌイ氏はウクライナに対して酷いことを言ってきたので、全然人気がありません。他国の人たちがナワリヌイ氏を英雄化するのに対しても、非常に冷めた目を向けています。
飯田)彼も「ウクライナを支配下に入れる」というようなことを言っていたわけですものね。
平野)クリミアに関しても、ウクライナが納得できないような発言をしてきたので、それをみんな忘れていません。
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