なぜ「蛾」は嫌われる? 「偏見や先入観なくしたい」埼玉昆虫談話会・会員の願い
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年2月29日 17時30分
![なぜ「蛾」は嫌われる? 「偏見や先入観なくしたい」埼玉昆虫談話会・会員の願い](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_498231_0-small.jpg)
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
![埼玉県で初めて捕獲されたキョウチクトウスズメの標本(写真提供:飯森政宏氏)](https://news.1242.com/wp-content/uploads/2024/02/5e0d5e8328ba02ecb43a0d6967b2b61c.jpg)
埼玉県で初めて捕獲されたキョウチクトウスズメの標本(写真提供:飯森政宏氏)
今回ご紹介するのは、虫の愛好家の集まり「埼玉昆虫談話会」です。会員は小学生から90歳まで、250人ほど。先日も月に一度の「金曜セミナー」が開かれ、会員12名が集まって情報交換が行われました。
今回注目された報告が、埼玉で初めて確認された巨大な蛾「キョウチクトウスズメ」でした。「スズメガ科」の仲間で、幼虫はキョウチクトウやニチニチソウの葉を食べて育ちます。緑色と桃色の模様がある羽を広げると12センチほどあり、まさにスズメのようです。
インド、フィリピン、アフリカ、ハワイなどに分布し、国内では1960年に鹿児島県の奄美大島で初めて確認されました。関東では2010年、千葉県の館山市内で幼虫が見つかっているだけで、埼玉県内で確認されたことはなかったそうです。
![ニチニチソウの花壇からキョウチクトウスズメの蛹を探す飯森さん](https://news.1242.com/wp-content/uploads/2024/02/473ef1aa7206ffb6256f6152def8d96c.jpg)
ニチニチソウの花壇からキョウチクトウスズメの蛹を探す飯森さん(写真提供:飯森政宏氏)
キョウチクトウスズメについて報告したのは、飯森政宏さん・47歳。去年(2023年)9月、「きれいな蛾がいる。写真撮った」と「X」(旧ツイッター)に投稿があり、それを見た飯森さんはさっそく現地に向かいました。そこで、マンションの蛍光灯に飛来していた1匹を捕獲。「他にもいそうだな」と思い、SNSで調査を呼びかけたところ、さいたま市内8ヵ所、川口市内2ヵ所で幼虫を発見。ニチニチソウの花壇からは「さなぎ」と「抜け殻」も見つかりました。
「これは地球温暖化によるものですか?」と飯森さんに伺うと、以下のような答えが返ってきました。
「移動性の強い蛾なんです。たぶん、台風に乗って沖縄や鹿児島から飛んできて、生息地を拡大しようとしているのではないでしょうか。ヨーロッパでは毎年、アフリカから『キョウチクトウスズメ』が飛来しているので、沖縄から飛んできても不思議ではないんです。ただし寒さに弱く、10度以下になると越冬できないので、埼玉県で『キョウチクトウスズメ』が定着することはないと思いますよ」
蛾の話になると目を輝かせる飯森さん。蛾を好きになった理由を伺いました。
![キョウチクトウスズメを捕獲したときの写真](https://news.1242.com/wp-content/uploads/2024/02/f7ec4bd8ff77960ec75ef1085f1286cc.jpg)
キョウチクトウスズメを捕獲したときの写真(写真提供:飯森政宏氏)
埼玉県・蕨市に生まれた飯森さんは子どものころ、自然が好きな父親に山や川へ連れて行ってもらったそうです。生き物が大好きで、特にクワガタを追いかける少年でした。
昆虫採集に出かけたある夜、街灯の下に止まっている虫を発見。その羽の色は翡翠のように、神秘的に輝いて見えました。
「何てきれいな羽をした虫なんだろう」
すぐに調べてみると、「オオミズアオ」という蛾でした。それまで「蛾なんて気持ち悪い、汚い」と思っていましたが、その蛾を見た瞬間、飯森さんは蛾の虜になってしまいます。
とは言え、「蛾が好き」とか「蛾の採集をしている」など、「人に話す趣味ではない」と若いころは思っていたそうです。就職・結婚し、子どもも生まれ、蛾のことを忘れていた時期もありました。
しかし、インターネットの普及で「同じように蛾が好きな人が世の中にはたくさんいる」と知った飯森さんは、「自分の居場所が見つかった」と喜びました。いまでは「埼玉昆虫談話会」と「日本蛾類学会」の会員です。蛾の魅力を伺うと、「一言では語り尽くせない」と言います。
![ライトトラップで蛾を採集する飯森さん](https://news.1242.com/wp-content/uploads/2024/02/3a3322a6d834c1f2d7a568c4a3063a52.jpg)
ライトトラップで蛾を採集する飯森さん(写真提供:飯森政宏氏)
「とにかく蛾は種類が多いんです。米粒のように小さい蛾もいれば、人の顔ほど大きな蛾もいる。色も形もさまざま。夜中に飛ぶ蛾もいれば、昼間に飛ぶ蛾もいる。高い山だけに棲む蛾もいるし、冬にだけ飛ぶ蛾もいる。つまり1年中、蛾は活動しているんですよ。なぜ嫌われるかと言うと、6000種類以上いるなかで、ほんの数種類、毒の毛で身を守る蛾がいて、『蛾は毒がある』と思われてしまったことが大きいですね。私たちが目にするほとんどの蛾に毒はありません。まだまだ蛾の研究は進んでいないので、普段よく目にする蛾がどのように生きているのか、そんな蛾の生態を解明していくのが楽しいんですよ」
色鮮やかな羽を見て「きれい!」と思っても、それが「蛾」だとわかった瞬間「気持ち悪い」「汚い」「怖い」と目をそむける人が多いそうです。飯森さんは、ここに「偏見」や「先入観」があると言います。
「偏見や先入観はどの世界にもあると思います。私は蛾に対する偏見を多く目にしてきました。そのせいか、何に対しても一度フラットな視点を持ち、相手の立場になって考え、それを踏まえて自分はどう思っているのか……それを大事にするようになりましたね」
11歳のとき蛾に魅せられ、いまもなお追い続ける飯森さんにとって、蛾とは一生終わることのない「宝探し」なのかも知れません。
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