なぜ「蛾」は嫌われる? 「偏見や先入観なくしたい」埼玉昆虫談話会・会員の願い
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年2月29日 17時30分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
今回ご紹介するのは、虫の愛好家の集まり「埼玉昆虫談話会」です。会員は小学生から90歳まで、250人ほど。先日も月に一度の「金曜セミナー」が開かれ、会員12名が集まって情報交換が行われました。
今回注目された報告が、埼玉で初めて確認された巨大な蛾「キョウチクトウスズメ」でした。「スズメガ科」の仲間で、幼虫はキョウチクトウやニチニチソウの葉を食べて育ちます。緑色と桃色の模様がある羽を広げると12センチほどあり、まさにスズメのようです。
インド、フィリピン、アフリカ、ハワイなどに分布し、国内では1960年に鹿児島県の奄美大島で初めて確認されました。関東では2010年、千葉県の館山市内で幼虫が見つかっているだけで、埼玉県内で確認されたことはなかったそうです。
キョウチクトウスズメについて報告したのは、飯森政宏さん・47歳。去年(2023年)9月、「きれいな蛾がいる。写真撮った」と「X」(旧ツイッター)に投稿があり、それを見た飯森さんはさっそく現地に向かいました。そこで、マンションの蛍光灯に飛来していた1匹を捕獲。「他にもいそうだな」と思い、SNSで調査を呼びかけたところ、さいたま市内8ヵ所、川口市内2ヵ所で幼虫を発見。ニチニチソウの花壇からは「さなぎ」と「抜け殻」も見つかりました。
「これは地球温暖化によるものですか?」と飯森さんに伺うと、以下のような答えが返ってきました。
「移動性の強い蛾なんです。たぶん、台風に乗って沖縄や鹿児島から飛んできて、生息地を拡大しようとしているのではないでしょうか。ヨーロッパでは毎年、アフリカから『キョウチクトウスズメ』が飛来しているので、沖縄から飛んできても不思議ではないんです。ただし寒さに弱く、10度以下になると越冬できないので、埼玉県で『キョウチクトウスズメ』が定着することはないと思いますよ」
蛾の話になると目を輝かせる飯森さん。蛾を好きになった理由を伺いました。
埼玉県・蕨市に生まれた飯森さんは子どものころ、自然が好きな父親に山や川へ連れて行ってもらったそうです。生き物が大好きで、特にクワガタを追いかける少年でした。
昆虫採集に出かけたある夜、街灯の下に止まっている虫を発見。その羽の色は翡翠のように、神秘的に輝いて見えました。
「何てきれいな羽をした虫なんだろう」
すぐに調べてみると、「オオミズアオ」という蛾でした。それまで「蛾なんて気持ち悪い、汚い」と思っていましたが、その蛾を見た瞬間、飯森さんは蛾の虜になってしまいます。
とは言え、「蛾が好き」とか「蛾の採集をしている」など、「人に話す趣味ではない」と若いころは思っていたそうです。就職・結婚し、子どもも生まれ、蛾のことを忘れていた時期もありました。
しかし、インターネットの普及で「同じように蛾が好きな人が世の中にはたくさんいる」と知った飯森さんは、「自分の居場所が見つかった」と喜びました。いまでは「埼玉昆虫談話会」と「日本蛾類学会」の会員です。蛾の魅力を伺うと、「一言では語り尽くせない」と言います。
「とにかく蛾は種類が多いんです。米粒のように小さい蛾もいれば、人の顔ほど大きな蛾もいる。色も形もさまざま。夜中に飛ぶ蛾もいれば、昼間に飛ぶ蛾もいる。高い山だけに棲む蛾もいるし、冬にだけ飛ぶ蛾もいる。つまり1年中、蛾は活動しているんですよ。なぜ嫌われるかと言うと、6000種類以上いるなかで、ほんの数種類、毒の毛で身を守る蛾がいて、『蛾は毒がある』と思われてしまったことが大きいですね。私たちが目にするほとんどの蛾に毒はありません。まだまだ蛾の研究は進んでいないので、普段よく目にする蛾がどのように生きているのか、そんな蛾の生態を解明していくのが楽しいんですよ」
色鮮やかな羽を見て「きれい!」と思っても、それが「蛾」だとわかった瞬間「気持ち悪い」「汚い」「怖い」と目をそむける人が多いそうです。飯森さんは、ここに「偏見」や「先入観」があると言います。
「偏見や先入観はどの世界にもあると思います。私は蛾に対する偏見を多く目にしてきました。そのせいか、何に対しても一度フラットな視点を持ち、相手の立場になって考え、それを踏まえて自分はどう思っているのか……それを大事にするようになりましたね」
11歳のとき蛾に魅せられ、いまもなお追い続ける飯森さんにとって、蛾とは一生終わることのない「宝探し」なのかも知れません。
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