「骨太の方針」に向けた議論 「PB黒字化」をメインにする意図が感じられる
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年3月6日 17時30分
ジャーナリストの佐々木俊尚が3月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。財務大臣の諮問機関が始めた「骨太の方針」に向けた議論について解説した。
「骨太の方針」今年の提言に向け議論を開始
財務大臣の諮問機関、財政制度等審議会は3月5日、政府が例年夏までに「骨太の方針」をまとめるのを前に、議論を始めた。焦点となる財政健全化の目標をめぐり、財政の現状などについて意見を交わした。
佐々木)いわゆる基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を「黒字にしなくてはいけない」という意識が前面に出ています。いつも6月ぐらいに原案がまとまるのですが、去年(2023年)の骨太の方針では原案に「PB黒字化」が盛り込まれず、大騒ぎになりました。
「PB黒字化」をメインの話に持っていこうとしている
佐々木)新型コロナが5類に移行し、とにかく経済を前向きに進めなくてはいけない。そのためには「財政赤字」などと言っていても仕方ないので、とにかく「財政を投入し、経済を前に進めよう」というのが去年の方針でした。多分、そちらに行き過ぎたことに対して、マイナスの力学がいま働いているのでしょう。「揺り戻さなくてはならない」という発想で、「PB黒字化」をメインの話に持っていこうという匂いを感じます。
反緊縮派「財政出動した分、経済が上向けばトントンになるからいいではないか」という意見が当たっていた
佐々木)でも、去年から今年(2024年)にかけて経済がかなり成長し、なおかつインフレで税収は相当増えています。結果として、2025年度の赤字は1兆1000億円程度と見込まれていますが、現実だと赤字幅はそんなに増えていない。
飯田)そうなのですよね。基礎的財政収支は国債や利払い費を除き、入ってきたお金と出ていくお金のバランスを示します。これがトントンになれば、ちょうどいい。あとは利払いだけしておけば十分回ります。
佐々木)経済成長すれば税収は増えるという、前々から言われている当たり前の話です。緊縮派は「トントンにしなくてはダメだ。財政出動させ過ぎるな」と言い続けているけれど、反緊縮派の人たちは「財政出動した分、経済が上向けばトントンになるからいいではないか」と言い続けている。
飯田)お金が入ってくるのだから。
佐々木)結果的に「反緊縮派の意見が当たっていた」と言わざるを得ないような状況だと思います。
飯田)おかずを減らしてお腹を空かせるよりは、料理をガンガンつくり、ガンガン働いて稼いだ方がいいという話ですよね。
まだ金利を上げるべきではないと言う議論の一方、上げる方向に持っていこうとするマスコミ
佐々木)ただ、確かに税収は増えるかも知れないけれど、経済が上向いてインフレになったら国債などの金利を上げる必要がある。金利を上げると、国が払わなくてはいけない国債の利払いが増えるので、また「財政が減る」というような議論もあります。ただ、景気が上向いていると言っても足腰が弱いので、「まだ金利は上げるべきではない」という意見もある。一方でマスコミの経済面の論調を見ると、どこもかしこも「金利を上げよう、いつ上げるのだ、4月に上げるだろう」と金利を上げる方向に話を持っていこうとしています。しかし、仮に日銀が金利を上げたら、今度は国債の利払いが増えるので「けしからん」という話になり、マッチポンプになる気がしなくもない。
飯田)「やれ」と言っておいて、やったらやったで「なぜやったのだ」と怒られる。出口がないですね。
いまはまだ金利を上げる時期ではない
佐々木)原油や食品の値上げなどによるコストプッシュインフレから、徐々にデマンドプルインフレへ移行してきた。「賃上げしなくてはいけないから」と家計の値上げ許容度も上がり、少しインフレになってもいいのではないかと、国民全体の気運が変わってきました。でも、現状そこまでのデマンドプルインフレには至っていないので、「まだ金利を上げなくていい」という話です。
飯田)いまは。
佐々木)さらに税収が増え、経済が上向きになるのを待てば、自然とPBも黒字化していくと思います。しかし、税収が増えたのに財政出動は減らし、金利だけ上げようというような……。それでは単に経済が沈むだけだと思うのですが。
飯田)もう少し経済が温まったところで、冷やすために「税金を上げた方がいいのか」という議論であれば、まだわかるけれど。
佐々木)過熱を防ぐためならわかりますが、まだほんのり温かいだけなのに、いきなり水をぶっかけてどうするのだという感じです。
80年代のバブルを思い起こさせ、「だから冷やさなくてはいけない」という議論に持っていこうとしている
飯田)この議論が来年度予算にまでつながるかも知れない。この時期からバトルが始まるのですね。
佐々木)日銀の植田総裁はかなり慎重で、デマンドプルになってきてはいるけれど、利上げするような段階ではなく「もう少し様子見だ」と言い続けているので、頑張って欲しいです。
飯田)バブルだ、バブルだと言われていますが。
佐々木)せっかく経済が上向いてきたのに80年代のバブルを思い起こさせ、「だから冷やさなくてはいけない」という議論に持っていこうとしている。バブル期の経済状況だと、当時は株価と実体経済の乖離がありましたが、いまはそこまで乖離していません。事情が違っているのに無視して、ひたすら「バブル」と騒ぐのはどうかと思います。経済を冷やしたい人だけが言っているのではないでしょうか。
飯田)デフレの方が心地よい人たちがいるのか。
佐々木)暗い欲望ですよね。
新NISAはなぜいい制度なのか
佐々木)経済が上向きになっているというのは、決して虚ろな話ではありません。半導体ファウンドリである台湾積体電路製造(TSMC)が熊本に工場をつくったり、中国から逃げた海外投資家が日本に流入しています。また、経営者の世代交代が進み、企業価値の上昇が上手くいき始めている。いろいろな状況が変わっているので、結果として株価も上がり、ついに4万円を突破しました。
飯田)史上最高値を更新しました。
佐々木)このままインフレが進行して株価も上がる状況が続けば、間違いなく現金で持っていたら危なくなります。昭和の時代は、現金よりも土地の方が大事だった。土地で持っていると地価が上がるので、資産が目減りせずに済むという考え方でした。しかし現在、都心の一部などは大丈夫ですが、人口減なので地方では土地が値上がりしないどころか、売ることさえできない場合もあります。そうなると土地で持っていても仕方ないし、現金で持っているとインフレで目減りしていくので、ある程度は株や証券で資産を運用した方がいいのではないかという議論になる。
飯田)株や証券で。
佐々木)それが背景にあり、政府がNISAや今年から始まった新NISAを推進していますが、あれも大きいと思います。年間360万円、最大1800万円まで非課税なので、運用益が上がってもまるまる貰えるというのは、いい制度です。X(旧ツイッター)で「新NISAをやっておかないと現金が目減りする」という議論をしたら、すごい勢いで「株なんてギャンブルだろう」「マネーゲームに狂奔する佐々木俊尚」などと言われましたが、新NISAは基本的にインデックス投資なのです。
飯田)メインは。
佐々木)つまり日経平均株価に連動した投資信託や、アメリカのS&P500などです。平均株価は一旦下がることがあっても、トータルで10~20年を見ると必ず上がっていくのです。ただ、日本の場合はバブル崩壊時に3万8000円くらいまで上がり、そのあと民主党政権の辺りから7000円など、ものすごく値下がりしました。だから「株は値下がりしたら怖い」という発想があるのだろうけれど、バブル後の失われた30年の日本の株価が異常なだけです。世界平均だと大体、どこも上がったり下がったりしながら、徐々に上昇していく。インフレが起きますから。
飯田)リーマンショックなどがあっても、世界平均だと年間2~3%ずつ成長していたと言われています。
佐々木)「インデックス投資」というのは、デイトレーダーのように個別の株を毎日少しの値上がりで売ったり買ったりするのではなく、放り込んだら放っておき、「5年後にもしかしたら増えているかも知れない。10年後を見ておけ」という世界です。マネーゲームでも、ハイリスク・ハイリターンでもなく、どちらかと言うと「ローリスク・ローリターン」で、預金に変わるぐらいのものです。いま「金利が上がる」と騒いでいる割には、定期預金の金利だと0.0数%ですから。私が大学生くらいだった80年代は、定期預金の金利が6%でした。
飯田)すごいですね。6~7%なら、10年寝かすと約2倍になる計算です。
佐々木)だから、いまのインデックス投資以上に利回りがありました。かつては8%という時代もあったはずです。それに比べれば、もはや定期預金の意味はほとんどない。銀行預金は、単に決済や日常の支払いのために持っておくような状態ですから、インデックス投資として放り込んでおき、「20年後に10%ぐらい増えればいい」という感覚で持っておけばいいと思います。その辺りの認識がないのかも知れませんね。
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