ヘイリー氏撤退 米大統領選「候補者指名争い」における「3つのポイント」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年3月8日 11時40分
トランプ前米大統領(アメリカ・フロリダ州パームビーチ)
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が3月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米大統領選の候補者指名争いについて解説した。
米大統領選・共和党の指名争い、ヘイリー元国連大使が撤退を表明
米大統領選の野党・共和党の候補者指名争いで、ニッキー・ヘイリー元国連大使は3月6日、撤退を表明した。ヘイリー氏の撤退を受け、トランプ前大統領が共和党候補指名を獲得。11月の本選で民主党の現職大統領バイデン氏と再び対決する可能性が高まった。
米大統領選・候補者指名争いでの3つのポイント
宮家)結果自体は驚きませんが、スーパーチューズデーが終わって、我々が見なければいけないことは3つあります。第1はなぜトランプ氏が勝ったのか。第2はヘイリー氏の負け方がどんなものだったのか。第3は、バイデン氏の勝ち方はどうだったのか。この3つをしっかりと見なければいけません。
なぜ、トランプ氏が勝ったのか ~アメリカの経済構造の変化による「白人の怒り」を上手く吸い上げた
宮家)まず、なぜトランプ氏が勝ったのかと言うと、一般に理由は「白人男性・ブルーカラー・低学歴の怒り」だと言われており、確かにそれも間違いではありません。しかし先日、面白い記事を読みました。アメリカは昔であれば農業はみんな手作業で行っていたのですが、技術革新で機械化が進み、知的産業が次々に都市で誕生した。その結果、田舎が荒廃してしまった。というのです。
飯田)田舎が。
宮家)ところが、田舎には多くの白人の農民や、都市で働く中堅労働者がいます。アメリカにはいま、ダウンタウンにいる少数派の人たちと、郊外にいる少しお金持ちの人たちがおり、彼らは白人も非白人もいます。また、田園地帯に住む多くの白人もいて、その都市、郊外、田舎の3つがそれぞれ地殻変動を起こしているのです。その論文によると、田園地帯の白人たちが最も苦労している。その怒りを上手く吸い上げたのがトランプさんだと言うのです。そうだとすると、トランプさんが勝ったのは単に「白人が怒っている」というだけではなく、アメリカの社会や経済構造そのものが大きく変わった結果なのだと思います。
飯田)トランプさんが勝った理由は。
宮家)トランプさんは、それをたまたま上手く使ったのでしょう。逆に言うと、トランプさんがいなくなっても、そうした流れや現状は変わらないので、今後はトランプさんよりももっとタチの悪い人が出てくる可能性すらあります。実際にそのような記事が既に出ている。トランプさんの支持者のなかから、若い後継者、もしくはそれに続く人を育てようという動きもあるようです。つまり「トランプ運動の再生産」が始まっているのですよ。個人的には恐ろしい話だなと思っています。これが「なぜトランプ氏が勝ったのか」という問題です。
ヘイリー氏の負け方 ~無党派のなかの「トランプさんが嫌な人」の票がどれだけ伸びるか
宮家)その次に大事なのは、ヘイリーさんの負け方です。一方的にやられたように見えますが、ヘイリー陣営だけでなく、民主党陣営も「ヘイリーさんがどのように負けたか」を一生懸命分析しています。それはトランプ陣営も同じです。
飯田)両陣営が分析している。
宮家)どこを見ているかと言うと、先ほど説明したダウンタウン・郊外・田舎であれば、郊外の票なのです。郊外には知的レベルが高いかなり裕福な人たちが多く住んでいるのですが、よく調べると、ヘイリーさんへの票が大きく出ています。ヘイリーさんの地元であるサウスカロライナを覗いても、そのような結果が出てきます。なぜかと言うと、彼らは必ずしもヘイリーさん支持ではなく、むしろトランプさんが嫌だからだそうです。その一部が今回も票になって出てきているのでしょう。更に本選挙になると、無党派のなかにいるトランプさんが嫌な人たちの票はもっと増えるはずなので、この表の出方をよく見なければいけません。
飯田)なるほど。
宮家)トランプさんが圧勝したように見えますが、決してトランプさんは安泰ではないという見立てがあります。これはどちらかと言うと「ニューヨーク・タイムズ」や、リベラル系の「CNN」などが言っていることで、保守系の「FOX」などは大喜びで終わっていますが、いずれにせよ、もう少し分析しなければいけないと思います。
飯田)それもあってヘイリー氏は粘り続けてきたのでしょうか?
宮家)「トランプ前大統領ではダメだ。彼女には頑張ってもらおう」という一定の声が、実は共和党内にもあったのです。もしくはそのような支持者、献金者がいたということで、これは決して無視できない動きだと思います。
飯田)トランプさんはいろいろな訴訟を抱えており、コロラド州などもそうでしたが、「立候補自体を認めない。合衆国憲法修正第14条3項違反だ」という方針になった。しかし、米連邦最高裁が「出馬資格を認める」という判決を出しました。その辺りがきっかけで、ヘイリー氏は撤退を決めたのでしょうか?
宮家)判事たちは全会一致で退けたわけですが、これは当たり前です。州レべルの裁判所が連邦のシステムを、自分たちの判断で「この人には立候補の権利がない」などと言い出したら、連邦は機能しなくなってしまいます。この結果自体は、関係者は織り込み済みだと思います。
バイデン氏の悲劇 ~他に民主党をまとめられる人材がいない
宮家)3つ目はバイデンさんがなぜ勝ったかです。民主党の候補者選びで対抗できる人がいないため、バイデンさんが勝ったのはいいのですが、勝ち方に若干の問題があると思います。簡単に言えば、あまりに「人気がない」ということですよ。
飯田)バイデンさんについては、メールやX(旧ツイッター)などでもリスナーの方々から意見をいただいており、「なぜこれほど人気がないのに降ろせないのだ?」という声があります。
宮家)バイデンさんは前から人気がないのです。上院に何十年もいて、しっかりとした政治家なのですが、最近まで1度も大統領候補にならなかった。なぜかと言うと、要するに彼は人気がない。それほど強い候補者ではないのです。オバマさんがいて、ヒラリーさんが出てきたから、結局バイデンさんは最後になってしまった。
飯田)もともと人気がないのですね。
宮家)もし他に対抗馬がいたとしたら、民主党はもっと活気付いていますよ。全然活気付いていないのは、民主党・共和党ともにそうなのですが、まともなことを言う穏健で中道な政治家の息が苦しくなっているのです。民主、共和両党に言えることですが、最近は左も右も極端なことばかり言う人たちがいるため、まともな人たちが潰されてしまうのです。バイデンさんの前はヒラリーさんが出てきて、その前はオバマさんだった。こういう候補が出てくると共和党側は怒りますよね。
飯田)共和党の方は。
宮家)一方、民主党内にも左派がいる。その人たちは「もっとあれをやれ、これをやれ」とうるさく言う。そのうち段々と民主党内が分断されていき、党全体をまとめる人がいなくなってしまった。そのとき、周りを見て「あれあれ、バイデンさんが残っていたか、じゃあ、これで行くか」となったのです。今やバイデンさんくらいしか民主党をまとめられません。前回は上手くトランプさんに勝ちましたが、バイデンさんはもう80歳です。「そろそろ交代の時期だけれど、他に民主党を纏められる候補者はいないから」という悲劇なのです。
飯田)これは悲劇。
宮家)80歳の人しか党をまとめられないとしたら、それって悲劇でしょう。
飯田)そうなると、いまのところは2大政党制で選挙を行っていますが、多党制に変わる可能性もあるのでしょうか?
宮家)選挙制度が違うので、欧州のようにはならないと思います。小選挙区制で、比例代表などはないため、当分今の形が続くと思います。ただ民主、共和両党とも内部は割れているので、実際には2大政党ではなく「4大政党」だといつも言っています。
飯田)4大政党。
宮家)極端な右、中道の右、中道の左、極端な左という流れですよね。決していいことではないのですが、これがアメリカの民主主義です。民主主義は完璧な制度ではありませんからね。何十年か経って「あのような間違った決断をしなくてよかったな」と言えれば良い制度なので、その意味では健全なシステムです。でも、短期的にいいことをしようと思うなら、独裁制の方がはるかに効率がいい。もちろん独裁になれと言っているわけではありません。民主主義は決してベストなシステムではないけれど、他にいいものもないということですね。
飯田)一応、長い目で見るのであれば、周りから考えるとベターではあります。
宮家)そういうことです。
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