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「マイナス金利政策解除」決定も 金利を上げて引き締めに進むのは「微妙な状況」

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年3月21日 17時30分

「マイナス金利政策解除」決定も 金利を上げて引き締めに進むのは「微妙な状況」

ジャーナリストの佐々木俊尚が3月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日銀が決定したマイナス金利政策の解除について解説した。

日銀のマイナス金利解除を受けて、記者団の質問に応じる日本銀行の植田和男総裁=2024年3月19日午後、首相官邸(関勝行撮影) 写真提供:産経新聞社

日銀のマイナス金利解除を受けて、記者団の質問に応じる日本銀行の植田和男総裁=2024年3月19日午後、首相官邸(関勝行撮影) 写真提供:産経新聞社

日銀がマイナス金利政策の解除決定、利上げは17年ぶり

日本銀行は3月19日の金融政策決定会合で、賃金と物価がそろって上がる好循環の実現が見込めると確認し、大規模な金融緩和策の柱であるマイナス金利政策の解除を決めた。政策金利の引き上げは平成19年以来、17年ぶりとなる。

飯田)マイナス金利の解除が決定しました。短期金利、政策金利は0~0.1%程度に誘導し、ゼロ金利政策に移行されます。

「マイナス金利の解除」は手段であり、最大の目標ではない

佐々木)どの新聞も1面トップが「マイナス金利解除」です。「金融正常化へ」という内容の記事もありますが、「金融正常化」とは何なのでしょうか。

飯田)いままではずっと異常だったのか。

佐々木)目標はマイナス金利解除ではなく、経済を軌道に乗せることであり、その上できちんと分配も行われるような状態に持っていくことが大事なわけです。「マイナス金利解除」が最大の目標ではありません。

飯田)手段に過ぎないはずですよね。

「金融緩和がなくなったわけではない」というマーケットの判断から円安が進行

佐々木)どうも手段と目的が入れ替わっている感じがする。実際、これだけ大騒ぎしている割には、なぜか円安が進行しているのです。

飯田)足元では1ドル=150円85銭前後(3月20日現在)での取り引きです。マイナス金利解除の理由として、「円安が進んで物価が上がっているから」だと言われていますが。

佐々木)そう言っていた割には何なのでしょうか。日銀の植田総裁は、「大規模な金融緩和の環境自体は続く」と言っています。マイナス金利がゼロ金利になっただけであって、せいぜいプラス0.1ポイントぐらいだから、決して金融緩和自体をやめたわけではない。だからマーケットは「金融緩和がなくなったわけではないのか」と判断したようです。

経済や企業経営への影響は限定的

佐々木)全国銀行協会(全銀協)の加藤勝彦会長(みずほ銀行頭取)は、会見で「急速な利上げは想定されず、当面は緩和的な金融環境が継続すると考えられることから、経済や企業経営への影響は限定的と見込んでいる」と言っています。銀行の普通預金の金利についても「マイナス金利が解除されても大きな動きは想定しづらい」と述べており、全銀協が「ほとんど影響はない」と言っているのです。

飯田)ほとんど影響がない。

佐々木)これだけ大騒ぎしている割には、日銀の金融緩和政策もあまり変わらないし、今後も大きな影響は見込まれない。新聞を見ると「金利のある世界がやってくる。これから住宅ローンがどんどん上がり、預金も増えていく」などと言っているけれど、そう簡単にはいかないと思います。

飯田)短期金利の部分は、直接的には変動型の住宅ローンに効いてくる。

佐々木)長い目で見ると金利が上がるので、少し負担が増えることは間違いないと思いますが。

飯田)その分、もしこのままインフレ状況が続けば、実質的な金利はインフレが進む分だけ上がるということです。

年内に実質賃金が上がることを期待 ~マイナス金利政策解除の背景

佐々木)ただ、コストプッシュインフレから、いわゆる賃金を上げるためのディマンドプルインフレに少しずつ移行してきたという話でしたが、インフレも落ち着いてきて、物価高もそれほど上昇しなくなっているという指摘もあります。一方、賃金は上がってきて、今回の春闘はバブル以来の(平均賃上げ率)5.28%でした。

飯田)第1次集計で。

佐々木)中小企業も4.42%まで上がっている。実質賃金はこの2年ずっと下がり続けているけれど、物価も落ち着いてきたし、もしかすると今年(2024年)、逆転に転じて実質賃金が上がるかも知れない。それを「日銀、あるいは岸田政権も期待しているのか」というところが、マイナス金利解除の背景事情として1つあるのだと思います。

飯田)3月19日の植田総裁会見のなかでも、中小企業の賃上げが後押ししたという話がありました。

低価格を求める消費者 ~この流れが加速するとデフレ時代に戻る可能性も

佐々木)ただ、インフレは収束しつつある感じもします。そうなると、実質賃金は上がるかも知れませんが、「経済成長に結びつくのか」と考えると微妙です。実質賃金が下がって2年間、「物価が上昇した」と大騒ぎでした。セブンイレブンは最近、500円以下のお弁当を増やしているのです。ローソンやファミリーマートは低価格路線ですが、セブンイレブンは強気で、600円台などの高級弁当路線だったのです。ところがコロナ禍以降、売り上げがローソンやファミマと比べて落ちてしまい、「物価高で安いものを消費者が求めているからだ」と分析した。そこで最近、低価格路線に切り替えつつあると報道されていました。

飯田)セブンイレブンも低価格になった。

佐々木)確かに物価が上がっているので、消費者が低価格な商品を求める気持ちはわかりますが、平成30年のデフレ時代を思い出します。この流れが加速してしまうと、また同じところに戻ってしまわないかという心配もあるのです。

飯田)公取委が下請け業者への取引価格について厳しく対応していますが、実際、大企業も稼げなくなってきたらどうしようもないですものね。

佐々木)そもそも政府が大企業に対して価格転嫁を求めるのもどうなのか。やはり自然に経済成長が進む状況が大事です。

ここで金利を上げて引き締めに進むのは、微妙な状況

佐々木)日本の株価は上がってきていますが、大企業中心です。大企業のなかでも日立製作所など、海外市場を持つところが強い。一方で、東証グロースのようなスタートアップの上場企業を見ると、国内市場が中心なので、株価があまり上がっていないという話です。投資家としては、海外市場で勝てるところは今後も売り上げが増えていくと予想できる。しかし、日本の人口が減り、生産人口も減っていくなかで、消費市場は今後あまり増えない。そうなると、国内市場だけを見ているような企業にはあまり期待できません。

飯田)マーケットはそう判断した。

佐々木)そういう部分があるのだと思います。とは言え、国外市場で食っていける企業はそれほど多くないし、まだ不安定な要因もたくさんあります。金利を上げて引き締めるには、まだ微妙な状況ではないかと感じます。

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