春闘で「満額回答」を得たことは組合側の「失敗」 専門家が指摘
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年3月25日 17時35分
経済アナリストのジョセフ・クラフトが3月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。春闘2回目の集計結果について解説した。
春闘2回目の集計結果、平均賃上げ率は5.25%
連合は3月22日、2024年春闘の第2回集計結果(21日時点)で基本給を底上げするベースアップと定期昇給を合わせた平均賃上げ率が5.25%になったと公表した。また中小企業でも交渉が進んでおり、21日時点では平均賃上げ率4.50%としている。
飯田)第1回集計とほぼ変わらなかったようです。
実質賃金がプラス転換したときに消費がどこまで回復するか
クラフト)日銀や政府が掲げる「賃金とインフレの好循環」を示す指標は、デフレ脱却の1つのシグナルでもあると思います。実質賃金はまだマイナスですが、ようやく夏から秋にはプラス転換しそうなところまできました。プラスに転換したとき「消費がどこまで回復し、なおかつ好循環が達成できるか」というところがポイントになると思います。
飯田)賃金は伸びているけれど、物価がそれ以上に伸びてしまったら、買えるものが少なくなる。だから「実質賃金はマイナスだ」という考え方ですよね。
クラフト)実質賃金がずっとマイナスだったので、可処分所得が減り、消費も弱かった。しかし、いよいよ何十年ぶりかのプラス転換になります。デフレ脱却の大きな1つの象徴でもあります。
飯田)リーマンショック後のように「額面は上がっていないけれど物価がマイナスだから、買えるものが多いため実質賃金はプラスだ」という状態になると、昔に戻ってしまう気がしますが、いかがですか?
クラフト)同じ実質賃金のプラスでも、賃金が伸びてパイが大きくなったプラスと、物価が下がって賃金が変わらない状態のプラスでは質が違います。いまガソリンの補助金を除くと、日本のインフレ率は3%台です。これを2%台に下げ、賃金が毎年3%以上伸びれば、実質賃金のプラスが達成できる。そういう意味では、経済が好循環を持って成長できるので、守りではなく攻めの経済で動けるのです。バブル以来、日本ではなかなか見られなかった状況なので、とても重要だと思います。
飯田)そこに行けるかどうかですよね。
下請法違反の再発防止に本腰を入れる公取委
クラフト)今年(2024年)の賃金はいいかも知れないけれど、「来年も」というところが大事で、企業の収益構造が確保できなければいけません。特に中小企業は苦しいですから、日産のような下請法違反は取り締まっていく。大手企業は記録的な収益を挙げているのだから、下請け企業にも還元するべきです。そして経済を回していくことが重要です。
飯田)公取委は日産だけでなく、下請けとの価格交渉に適切に応じなかった企業名を公表したり、コストコなどの外資であっても容赦せず勧告するなど、最近は積極的です。
クラフト)本腰を入れているのだと思います。デフレから脱却できそうな状況なので、政府も腰折れしないために取り締まりを強化する。企業だけでなく、一般の認識も変わり始めました。昔は「大手企業の言いなりになるしかない」というような雰囲気でしたが、いまは「還元しなくてはいけない。(違反を)許すべきではない」という認識が広がっています。
飯田)日本商工会議所の会頭が「今回の料金交渉に関しては、中小企業の皆さんは勇気を持って交渉して欲しい」と踏み込んだ発言をしています。
春闘での「満額回答」は組合側の失敗
クラフト)そこは期待したいと思いますが、労働組合に関して今回、「満額回答」がたくさんありました。しかしアメリカ的に言うと、これは組合側の失敗です。本来なら満額回答を得てはいけません。「高く出して、どこかで見合う」というのが本来の流れです。満額回答を出したということは、企業側はもっと払う気があったかも知れないのに、企業に「そこでいいのだ」と思わせてしまった。実際、連合の要求以上に払った企業もいるわけです。
飯田)確かにそうですね。
クラフト)労働組合の交渉術としては大失敗です。もっと引き出せたかも知れないのに、低く言ってしまった。日本はずっとデフレが続いたので、満額回答で「勝った」ような感じになっていますが、アメリカでは負けなのです。本当は5%もらいたいところを「10%」と吹っ掛け、結果的に「6%で折り合いがついた」というのが勝ちの状態です。「6%はちょっと無理そうだから、いけそうな5%で要求しよう」と考えて5%を取るのは間違いです。
飯田)我々は値切り交渉に慣れていないから。
クラフト)怒られるかも知れませんが、アメリカではそういう感覚で労働組合と交渉します。
飯田)海外旅行で市場に行き、商品を買うときと同じですね。
クラフト)同じことです。
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