モスクワ・テロ事件の背景にある「SCOの近年の動き」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年3月26日 17時35分
乱射事件から一夜明け、焼け落ちたモスクワ郊外のコンサート会場を捜索する救急隊員ら(ロシア当局提供)
戦略科学者の中川コージが3月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。モスクワ郊外のコンサート会場で起きたテロ事件について解説した。
モスクワ・テロ事件、タジキスタン出身の容疑者4人を拘束
モスクワ郊外のコンサート会場で多数の死傷者が出た襲撃事件で、モスクワの裁判所は実行犯とされる容疑者4人の逮捕・勾留を認めた。地元メディアによると4人は10~30代で、全員が中央アジアのタジキスタン出身だという。
今回のテロは上海協力機構(SCO)案件であるとも言える
飯田)イスラム国ホラサン州(ISIS-K)に拠点を置く組織が犯行声明を出していますが、どうご覧になりましたか?
中川)米国が事前に情報を出していたとか、プーチン大統領がウクライナ関与を示唆するなど、メディアからはいろいろな情報が流れています。中国・インドの観点から言うと上海協力機構(SCO)がありますが、もともとは反テロのためにできた組織なのです。アメリカで同時多発テロ事件が起きたときくらいに、あの地域を反テロの観点から安定化させようと、ロシアと中国を発起人として、中央アジアも含めて組んだものです。その意味で、今回の件はSCO案件とも言えます。
飯田)SCO案件。
中川)「イスラム国(IS)」と「イスラム国ホラサン州」自体が、統一的な集団であると捉えられるかどうかの問題もありますが、いずれにしてもイスラム国とタリバンだと考えると、対立関係にある。米国からの話によれば、2023年4月にタリバンはイスラム国の指導者を殺害しており、仲がいいとは言えないと思います。
対立するタリバンをオフィシャルに承認する方向にあるロシアに反体制派勢力として攻撃するIS ~テロを防げなかったSCO
中川)今回、事件を起こしたのはイスラム国ですが、タリバンの方はどうかと言うと、2023年にロシア連邦のカザン(タタールスタン共和国)へ行っています。また中国は、アフガンのタリバン政権を2024年1月にオフィシャルに承認しました。もともとはインドもタリバン政権をテロとみなしていましたが、2023年からインド外務省は「いろいろな形での協力の仕方がある」と言い方を変えています。段々とロシア、中国、インドなどが、タリバン政権をオフィシャルな方向に進めている構造が見えます。
飯田)なるほど。
中川)イスラム国としては、敵陣がオフィシャルにそのような国とつながるなら、まさにテロという形で、反体制派勢力として襲撃する。そういう背景があり、「これをSCOとして止められるのか」が大前提になっていました。
コロナ禍の間は信頼醸成ができず、ISのテロ行為を防ぐことができなかったSCO ~一方で各国がタリバンに手を差し伸べる背景も
中川)SCOが今回、機能を発揮せず止められなかったのは、コロナの影響が大きかったと思います。また印中対立の影響も大きく、サミットもしばらくの期間はオンライン開催になってしまった。2000年代初頭からSCOは毎回、サミットで顔を付き合わせて「どうしようか」と考えてきたのに、最も大事なこの期間にコロナでみんなが会えなくなり、信頼醸成ができずにいた。その意味ではリアルで会うべきなのですが、2023年の議長国がインドだったので、印中対立の影響もあり微妙な感じになっていたのが、ここ半年~1年の流れです。
飯田)タイミングが重なってしまったのですね。
中川)イスラム国とタリバンの対立関係が前提にあって、本来ならSCOはそれを防ぐ機構だったのに、機能していなかった。なおかつ、各国がタリバン側に手を差し伸べるような状況だったのが最近の構図だと思います。
飯田)もともとSCOはインテリジェンスを共有する組織なのですよね?
中川)基本的には反テロなので、「反テロのためのインテリジェンス共有を準軍事組織も使って行いましょう」ということが含まれており、決して経済連盟ではありません。
飯田)日本では経済面で報道されることが多いですよね。
中川)軍事や経済などではなく、「反テロ」が基本的なラインです。声明文を見ても、明らかに反テロの声明が多い。日本に伝わってくる文脈では、どうしても「中露の悪の枢軸連合」という感じですが、基本的には中央アジアを安定化させる反テロのための組織です。
2023年のSCOがインド開催であったため、コロナの影響もあって連携が外れてしまった
飯田)モスクワのテロ事件に関して、アメリカは事前に情報を掴んでおり、ロシアに対しても警告していたと言われています。ロシアにあるアメリカ大使館はアメリカ人に対し、退避などの警告をしていたそうです。SCOの中国やロシア側も情報としては取れていたけれど、共有できなかったのでしょうか?
中川)まさかロシアがウクライナのせいにしたいがために、黙認してあの事件を起こさせたわけではないと思いますが。
飯田)偽旗作戦のような。
中川)「国民の犠牲者を出してでも」という考えかどうかは流石にわかりません。2022年9月に対面で開催されたSCOのサミットでは、習近平国家主席とプーチン大統領がウズベキスタンでリアルに会っています。ここまでは、ある程度の情報を共有できていたのでしょうが、アフガンと各国との関係は2023年を転機に変わってきました。その意味では、2023年7月のSCOがインド開催だったので、そこで連携が外れ、インテリジェンス上の交流も途絶えたのかも知れません。この辺りでSCOを通じたロシアのインテリジェンス力が若干落ちていた可能性があります。
今回のテロ事件を重視する中国
中川)今回のテロに関して、中国側の反応を見ると、かなり自分事のように考えています。国営新華社通信というプロパガンダメディアがありますが、ここでは特設ページをつくって大きく扱っています。ウクライナ侵攻やイスラエル・ハマス衝突についても特設ページをつくっていたので、同じくらいの扱い方でモスクワのテロを自分事のように考えています。SCOが反テロであること、また中核国の片方であるロシアで起こったという状況を、中国としても重視しているはずです。
飯田)中国も。
中川)もし、中国が事前に知っていてロシアに言っていたとしたら、勝手に泳がせてロシアに攻撃させるなど、そもそも中国側としてもないだろうと思います。そう考えると、単純にロシアが防げなかったのかも知れません。
飯田)ロシア国内でも若者の人手がウクライナ侵攻に取られていたり、警戒監視が緩んでいたという説もあります。
中川)真相はともかく、背景情報としてはアフガンとイスラム国の関係、SCOの関係、SCOの近年の動きなどがあり、このような悲惨な事件につながった可能性があります。
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