横浜駅弁「シウマイ弁当」が70年愛される、その理由とは?
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年3月31日 11時55分
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
1日2万7000食、人呼んで“日本一売れる”駅弁「シウマイ弁当」が、この4月で誕生70周年を迎えます。ファンも多く、おかずの変更1つでも、メディアの話題となります。この「シウマイ弁当」は、70年前、どのようにして生まれたのか。そして、どうして70年にわたって、売れ続けているのか。崎陽軒の野並社長にお話を伺っています。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第50弾・崎陽軒編(第4回/全6回)
横浜名物「シウマイ」の知名度を高めた、「シウマイ娘」が登場した昭和25(1950)年は、東京~沼津間に湘南電車が走り始めた年でもあります。茶色い車両が多かった時期に、オレンジと緑色の鮮やかな車両が登場したことは、シウマイ娘と同じように明るい時代の到来を感じさせたのかもしれません。東海道本線の普通列車は、東北本線や高崎線と直通運転を行うようになったいまも湘南色の帯をまとって横浜の街を駆け抜けていきます。
このシウマイ娘に続く形で昭和29(1954)年に登場した「シウマイ弁当」。崎陽軒4代目の野並晃社長に「シウマイ弁当」の食べる順番を伺うと、最初はご飯からいただいて、最後のあんずだけは決めているといいます。ただ、シウマイは最初何もつけずに、その後はしょう油だけつけたり、辛子だけつけたり、しょう油と辛子を両方つけるなど、“味変”を楽しむそう。人ぞれぞれのこだわりも多い「シウマイ弁当」の誕生秘話を伺いました。
●横浜市民の愛が育てた「シウマイ」「シウマイ弁当」
―昭和29(1954)年というタイミングで、「シウマイ弁当」を開発した理由は?
野並:戦後、シウマイ娘による知名度アップもあり、ようやく横浜名物として定着してきた「シウマイ」を使って幕の内弁当を作ってみようとなったようです。駅弁屋としては、自然な流れだったのではないかと思います。加えて、社会的背景を考えますと、戦争から復興が進んで、食材が安定して調達できる時代になったというところもあるかと思います。
―「シウマイ弁当」が70年続いている理由は、どこにあると分析していますか?
野並:横浜市民の皆様が、ずっと愛して下さっているからだと思います。社内でよく言っているのは、「シウマイ」や「シウマイ弁当」というものは、今や“横浜市民のもの”で、崎陽軒という会社が製造・販売する権利をいただいているのだと。ですから、横浜市民の皆様の同意なくして勝手に中身を変えることの出来ないもの……そのくらいの精神性で、弊社は毎日、「シウマイ」や「シウマイ弁当」の製造に当たっています。
●「蒸気炊飯」の背景にあった、ご飯1粒1粒を大切にしたい思い
―なぜ、シウマイ弁当のご飯は、おこわのような「蒸気炊飯」なのでしょうか?
野並:弊社も当初は、普通にご飯を炊いていたのですが、「おこげ」が課題になりました。おこげが出来るとその部分を捨てなくてはならないため、もったいないと考えられるようになったんです。そこで、おこげが出来ない炊き方を考えて出てきたのが「蒸気炊飯」だったんです。「シウマイ弁当」は、当初から“最高品質の米”を謡って発売しました。なお、現在、弊社の通常弁当における米は、ブレンド米を使用しています。
―記憶に新しいところで、令和4(2022)年には、鮪の漬け焼の調達が難しくなり、鮭の塩焼きとなった時期がありました。食材の調達にもご苦労が多いのでしょうか?
野並:弊社としては現在の「シウマイ弁当」が一つの完成形として製造に当たっています。ただ、どのタイミングで食材調達が難しくなるかどうかは全く分かりません。2023年も鳥インフルエンザの大流行で卵の供給不安があり、弊社の様々な弁当で変更を余儀なくされました。今後も社会変化に合わせて出来うる手段で対応を取り続けるしかないと思います。現在の950円という価格も、いまの時代に合わせた価格設定だと考えています。
●お客様との対話を重ねて、常にベストな「シウマイ弁当」をお届けしたい!
―「シウマイ弁当」を今後、“進化”させるとしたら、どこを進化させたいですか?
野並:もしも、進化させる答えを弊社が持っているとしたら、今すぐ進化に取り組んでいなければ、お客様に対して失礼ではないかと思います。いまの「シウマイ弁当」はベストだと思って販売しておりますが、例えば、今後も950円でお届けできる構成に変えていくのがいいのか、原材料費が上がっても今と同じ構成で1000円台くらいに価格を改めてお届けするのがいいのか。そこは、お客様との対話で決まっていくものだと思います。
―お客様との対話は、どのようにして行っていますか?
野並:弊社では、いまも多くの店舗で「対面販売」を行っています。例えば、コロナ禍では、お客様がお見えにならなくなったのが分かりましたし、シウマイ弁当で鮭の塩焼きを入れざるを得なくなった際は、大変多くのお客様に店舗にお並びいただきました。もちろん、弊社の商品・サービスについて、お客様がどのように感じていらっしゃるかを相対的に見たり、お客様の声が直接届く窓口もありますので、そういったところも活用しています。
首都圏から列車で出かけるとき、多くの方が手にしている崎陽軒の「シウマイ弁当」。ただ、神奈川エリア(一部、東京都を含む)と東京エリアでは、その包装が異なるのは有名です。神奈川エリアでは、職人さんが昔ながらの紐をかけた包装なのに対し、東京エリアでは、紙ぶたとなっています。ちなみに掛け紙のデザインも一部異なっており、東京工場製の「シウマイ弁当」には、スカイツリーをイメージしたイラストが入っています。
【おしながき】
・俵型ご飯 小梅、黒胡麻
・昔ながらのシウマイ
・鮪の漬け焼
・蒲鉾
・鶏の唐揚げ
・玉子焼き
・筍煮
・あんず
・切り昆布&千切り生姜
シウマイ弁当が誕生した翌年の昭和30(1955)年、「シウマイ弁当」に一つ、加えられたアイテムがあります。それは「お手拭き」。いまでは、当たり前のように付いている駅弁の「お手拭き」ですが、崎陽軒が最初だったそう。ちなみに同じ年、「シウマイ」の箱に入れるしょう油入れに漫画家の横山隆一先生が「目鼻をつけてあげよう」となり、「ひょうちゃん」と名付けられました。
昔、ラジオ番組のスタッフとして、ある歌手の方から聞いた話では、著名人の方の中には、東京から新幹線で西へ向かう時、どうしても紐をかけた「シウマイ弁当」を食べたいゆえに、新横浜で一旦降りて、神奈川エリアの「シウマイ弁当」を買い求める方もいたといいます。昭和39(1964)年の新幹線開業では、新幹線は横浜駅を通らず「新横浜」という新駅が設けられました。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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