“日本一売れる駅弁”を作る駅弁業者が語る、「ものづくりで大切なこと」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年4月2日 11時55分
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
2024年で誕生70周年を迎える、横浜駅弁「シウマイ弁当」。1日およそ2万7000食が作られている、人呼んで“日本一売れる駅弁”です。しかも、この弁当はナショナルブランドを目指さずに、“真に優れたローカルブランド”を目指すことを経営理念としている会社が、製造しているところも大いに注目すべき点です。いったい、どんな思いで駅弁・弁当作りに臨んでいるのでしょうか?
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第50弾・崎陽軒編(第6回/全6回)
横浜を発車した特急「踊り子」号が、東海道本線を下っていきます。横浜駅から10分と経たないうちに、緑のある風景が広がるのも横浜の魅力。東京への通勤・通学に便利で、港町の開放感もあり、都会のいいところとローカルのいいところが組み合わさっています。長年、不動産メディアの首都圏の住みたい街ランキングでもトップを走っているのも納得。とくに地方出身者にとっては、世代を超えて、まぶしく見える街ではないでしょうか。
駅弁業界でも長年、けん引役を務めていると言っても過言ではないのが、横浜が拠点の株式会社崎陽軒。2000人あまりの社員がおり、新人研修では現場を理解しておくため、製造ラインで弁当を詰める作業を行っているそう。令和4(2022)年に就任した4代目の野並晃社長も新人時代、研修では1カ月間、ひたすらご飯を炊き続けたといいます。そんな野並社長のインタビューも今回が完結編。駅弁作りで大切なことを伺いました。
●ものづくりとは、常に「お客様が何を求めているか」を考え続けること
―野並社長にとって、「駅弁作り」で一番大切なことは何でしょうか?
野並:常に「お客様が何を求めているのか」ということを考え続けることだろうと思います。それが現時点で崎陽軒として販売しているものになっていると思いますし、常にお客様との対話を続けて、何をお求めになっているのか、常にこの状態でいいのかと確認していくことが、物を作って販売させていただく者として、大切なことなのかなと思っています。
―ご自身がトップになってから間もなく2年、変えたところはありますか?
野並:企業というものは、社会環境が変わるから変わるものだと考えています。(自分が)社長になったから「変える」というのは、おかしな話です。例えば、コロナ禍で世の中が変わったことに対し、会社の仕組みを変えていくわけであって、これから先も、それをどう上手くやり続けられるかという話だろうと思います。そもそもお客様にとって、崎陽軒の社長が(先代の)野並直文であろうと野並晃であろうと、大したことではないのかなと(笑)。
●人の口に入るものは、人の命を左右する!
―ニッポンの駅弁、駅弁文化、今後はどうあるのがいいと考えていますか?
野並:駅弁には、お客様が現地へ行って楽しまれたり、旅の思い出だったり、地域にとっての誇りだったり、いろいろな要素があると思います。「駅弁」はこれからもあり続けてほしいと思っています。ただ、社会環境の変化や技術的な進歩のなかで、お客様への(製品・サービスの)提供の仕方も変わっていくことがあるのかもしれません。やはり、「お客様が何を望まれているのか?」というところがポイントだろうと思います。
―「食の安全」については、どのように考えていらっしゃいますか?
野並:人の口のなかに入るものは、人の命を左右するものだと考えています。食に関する事業者としては「安全・安心」が非常に大事なポイントだと考えています。これから先も守り続けていきたいと思います。現会長も社長在任中に食中毒を出さなかったことが誇りと話していました。弊社の弁当は常温販売で、消費期限を非常に明確にさせていただいて、「安全・安心」という観点で「ここまでは大丈夫です」というところでやらせてもらっています。
●崎陽軒の味をお供に北陸新幹線で、北陸をぐるっと巡ろう!
―崎陽軒を、今後どんな会社にしていきたいですか?
野並:これからも、いまの事業は大事にしながら、「崎陽軒ってこんなことをするんだ!」と思ってもらえるような面白い会社であり続けたいと思っています。野並晃は、天才でも何でもなくて2000人を超える社員が、日々いろいろなことを考えてくれています。今年は「シウマイ弁当70周年」企画もありますし、来年1月には「ひょうちゃん」が70歳・古希を迎えますので、崎陽軒ならではの企画をお客様に対して提供させていただけたらと思います。
―野並社長お薦め、崎陽軒の駅弁を美味しくいただくことが出来る、鉄道の車窓は?
野並:この春、福井・敦賀まで開業した北陸新幹線にぜひ乗っていただいて首都圏から北陸へ足を運んでいただく際に召し上がっていただけたらと思います。北陸では5つの駅弁業者と弊社との「北陸新幹線弁当」も販売されております。そしてぐるっと東海道新幹線へ回って新横浜までお戻りになる頃は、日も暮れてお疲れでしょうから、夕飯代わりに弊社店舗でまた弁当をお求めいただけたら、大変嬉しいです。
昭和の初め、「横浜名物を作りたい」という思いから「シウマイ」、そして中華料理の道を歩み出した崎陽軒。鉄道構内営業だけでなく、レストラン事業なども手掛けるなか、中華へのこだわりがたっぷり詰まったのが、「横濱中華弁当」(1160円)です。当時の横浜には、中華だけでなく、西洋料理もあったはず。そのなかで崎陽軒が中華料理という選択をして、「シウマイ」に着目したからこそ育まれた味といえましょう。
【おしながき】
・俵型ご飯(黒胡麻)
・昔ながらのシウマイ3個
・海老のチリソース
・野菜と黒酢の酢豚
・彩りチンジャオロースー
・油淋鶏(ユーリンチー)
・風味蒲鉾とクラゲの酢の物
・ザーサイ
蒸気炊飯で炊かれて成形された俵型ご飯に、昔ながらのシウマイ3個をはじめ、酢豚やエビチリなど、人気で定番の味を存分に楽しめます。令和元(2019)年のリニューアルで、より一層、彩り豊かで見た目も華やかな中華弁当となりました。全国の数ある駅弁でも、ここまで本格的な中華料理は、ほとんどありません。しかも、それが“冷めてもおいしい”。時間の都合で中華街へ足を運ぶことが出来なかった方にも有難い存在ですね。
この春、「シウマイ弁当」が70周年、秋には東海道新幹線が開業60周年、2025年には、駅弁が140年の節目を迎えます。全国50の駅弁業者を巡って感じるのは、駅の立地は工夫次第で乗り越えられるということ。そのベースには、鉄道構内営業にルーツを持つ会社の“旅人をもてなす心”から生まれた“お客様ファースト”の精神があります。そんな駅弁の心を感じながら、この春も鉄道の旅を楽しんでみませんか?
(平成28(2016)年から8年間お届けしてきた、ニッポン放送NEWS ONLINEの「ライター望月の駅弁膝栗毛」は、今回が最終回です。お読みいただきありがとうございました)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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