世界パラ陸上 日本勢は計21個のメダル獲得も金メダルはゼロ
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年5月31日 17時55分
パリ2024パラリンピックの代表選考を兼ねた「神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会」が5月17日から9日間にわたり、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で開かれた。104カ国・地域から選手1,073人が参加。日本からは史上最多の66人がエントリーし、銀9、銅12の計21個のメダルを獲得した。
女子は初出場の29歳の新星・鬼谷が円盤投げで銀メダル!
今大会は、2位以上の成績をおさめればパリ大会の出場枠が所属する国に与えられるとあって、ハイレベルな戦いが展開された。そのなかで、今年4月に日本パラ陸上競技連盟(以下、日本パラ陸連)の強化指定選手になったばかりの鬼谷慶子(関東パラ陸協)が、女子円盤投げ(車いすF53)で結果を残した。鬼谷はアジア新となる14m49をマークして銀メダルを獲得し、日本パラ陸連が定めるパリ大会の代表選考基準を満たした。鬼谷は20歳の時に病気で車いす生活になり、昨年4月にパラ陸上を始めたばかり。背もたれのない椅子に座れないなど重い障がいがあるが、投擲台に工夫を凝らし円盤を投げる。学生時代の投擲競技の経験も生き、一気に代表の座へと駆け上った。「パラリンピックは憧れの舞台。しっかりと準備したい」と語った。
女子の走幅跳は各クラスで好成績をあげた。下肢障害T42/T61/T63 はコンバインドで行われ、片大腿義足T63の兎澤朋美(富士通)と前川楓(新日本住設)がともに4m66をマーク。2番目の記録が上回った兎澤が銀、そして前川が銅メダルを手にした。なお、女子100m(T63)でも兎澤が2位、前川が3位に入る好パフォーマンスを発揮し、観客席を大いに盛り上げた。
片大腿義足T64の中西麻耶(鶴学園クラブ)は、5回目の跳躍で5m25の今季ベストをマークし、前回大会に続いて銅メダルを獲得した。視覚障害T12の澤田優蘭(エントリー)は5m00で3位だった。澤田も2大会連続で銅メダリストとなり、「2位以上を目指してきたので悔しい」としながらも、「メダルが獲れて一安心」と笑顔を見せた。
また、上肢障害F46の女子砲丸投げは、前回大会3位の齋藤由希子(SMBC日興証券)が2投目で今季ベストの11m72を記録し、銅メダルを獲得した。5投目まで2位につけていたが、最後の一投でニュージーランドの選手に逆転を許した。5月上旬に右脚を痛めた影響もあって目標の12mには届かず、「力不足だった、悔しい」と振り返り、パリ大会までに投擲の精度を上げることを誓っていた。
車いすT34の女子100mで小野寺萌恵(北海道・東北パラ陸協)、視覚障害T13の200mで佐々木真菜(東邦銀行)が3位に入った。
アルペンスキーの世界女王で、夏・冬二刀流に挑んでいる村岡桃佳(トヨタ自動車)は、車いすT54の女子100m決勝で6位、同800m決勝で4位。今大会でのパリ大会の出場枠は得られなかった。今後は選考対象レースが限られるなか国内外の大会に出場し、記録更新を目指すことを明かした。
男子は川上、大島が新たにパリ大会の出場枠を獲得
男子でも2人が新たにパリ大会の出場枠を獲得した。世界選手権初出場の川上秀太(アスピカ)は、視覚障害T13の男子100m決勝で10秒70のアジア新記録を樹立。銀メダルを獲得してパリ行き切符をつかみ取り、「ようやくパラリンピックのスタートラインに立てた」、と安堵の表情を見せていた。
そして、もう一人が義足のスプリンター・大島健吾(名古屋学院大学AC)だ。大島は、最終日に行われた片下腿義足T64の男子200m決勝で23秒13の自己ベストで2位に入った。スムーズなスタートからコーナーでの加速につなぐテクニカルな走りを披露。大島は「東京パラリンピックで海外の選手との差を痛感して、義足と走りを変えて臨んだ3年間だった。パリまでにもっとタイムを上げていきたい」と、力強く語った。
前回大会で4位入賞を果たし、すでにパリ大会出場枠を獲得している若手選手も奮起した。24歳・石山大輝(順天堂大)は、視覚障害T12の男子走幅跳で7m08を跳び、銀メダルを獲得。自身が持つ日本記録を1センチ更新し、「べらぼうに嬉しい。120%の力を出せた」と笑顔を見せた。
また、脳性麻痺T37 の男子円盤投げで日本記録保持者の23歳・新保大和(アシックス)が自己ベストとなる52m13を投げ、銅メダルを獲得。兵庫県出身の新保のパフォーマンスには、観客席からひときわ大きな声援が送られていた。
前回金メダリストらは連覇ならず
前回大会の金メダリストらは、惜しくも連覇はならなかったが、存在感を示した。車いすT52の佐藤友祈(モリサワ)は、開幕前に輸送時のトラブルでレーサーが破損するアクシデントに見舞われ、急遽古いタイプの代車で臨むことになったが、男子1500mと同400mで銀メダル、同100mで銅メダルを獲得した。
また、前回大会は男子400mで優勝、同走幅跳で2位に入った視覚障害T13の福永凌太(日体大)は、今大会は同400mのみにエントリー。世界記録を更新したアルジェリア人選手に次いで2位となり、福永は「パリでは彼にしっかりと勝負できるようにしたい」と話した。
視覚障害T11の男子5000mに出場した唐澤剣也(SUBARU)は、15分3秒25で3位に入った。優勝した東京パラ金メダリストのエリツィン・ジャッキス(ブラジル)に唐澤が持つ世界記録を塗り替えられ、連覇も阻まれた唐澤は、「昨年のパリ大会で優勝して油断があったかもしれない。気を引き締めて、パリでは金メダルを狙う」と語った。
男子はそのほか、車いすT52の伊藤竜也(新日本工業)が男子400m決勝で3位に入った。知的障害T20の男子1500m決勝は、今季世界ランキング3位につけている十川裕次(オムロン太陽)が3分55秒94で銅メダルを獲得した。
宍戸強化委員長は「パリに向けてさらに強化体勢を組んでいく」
大会終了翌日の26日、日本パラ陸連が会見を開き、世界選手権の個人種目において前回大会で4位以内、今大会で2位以内に入りパリ大会の出場枠を獲得した計16人が代表選考基準を満たして日本代表に内定したと発表した。
宍戸秀樹強化委員長は、「世界選手権で実績を残したポテンシャルの高いアスリートが選ばれた。ただ、今大会で金メダルがゼロだったことは重要な問題であると捉えており、パリに向けてさらに戦略分析を行い、強化体勢を整えていく」と語った。なお、7月上旬には第2次の内定発表を行うとしている。
文・荒木美晴
写真・植原義晴
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