「注文をまちがえるカフェ」 みんなが一緒に作り出す温かい思いが包むお店
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年6月7日 17時50分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
東京・調布市、京王線の仙川駅近くに毎月1回、こんな名前のカフェが開店します。
「注文をまちがえるカフェ オレンジデイSENGAWA(センガワ)」
お店のパンフレットには、こんな一言が書き添えられていました。
「注文を間違えても、どうかあたたかい目で見守ってください」
じつはこちらのお店、認知症の方が接客を担当しているカフェなんです。
お店を開いているのは、地元出身の漢那亜希子さん(52)です。亜希子さんのお父様は、運転免許を更新出来なくなって、認知症と診断されました。しかし、お父様は、自分が元気であることを証明したいと、クルマを運転しようとしたり、アルバイトに応募しようとします。
お父様の姿を見て、亜希子さんはふと考えました。
『たとえ、認知症と診断されても、体が動く限りは働きたいと思う人はきっといるはず。ならば、間違いが許される仕事があればいいのに……』
さっそく、亜希子さんは、担当の包括支援センターの支援員さんに相談します。すると、思わぬアイディアを提案してくれました。
「じつは、認知症の方が参加して接客をする“注文を間違える料理店”という取り組みは、各地で行われているんです。この取り組みを調布でもやりませんか?」
亜希子さんは栄養士として、ずっと飲食業に従事していたこともあって、飲食店の仕事の流れは、何となく分かっていました。なかでも、カフェの仕事は、そんなに難しいものではないと感じていました。
『注文をまちがえるカフェなら、ハードルが低いかもしれない』
そう思った亜希子さんは、カフェを開こうと、一歩踏み出すことにしました。
漢那亜希子さんは、お店を立ち上げるに当たって、二つのことにこだわりました。一つは、認知症の方がやりがいを持てるように、「本物のお店」で開催すること。もう一つは、毎月1回、定期的にカフェを開いて、取り組みを継続していくことでした。
そのなかで、仙川駅近くにある「うくらいま食堂」というお店のオーナーの方が、亜希子さんの取り組みに共感して、お店を貸し出してくれることが決まります。また、亜希子さんのお友達も「運営委員会」という形で参加してくれることになり、誰かが体調不良などで休んでも、カフェを開催できるような体制を作っていきました。
しかし、開催に当たって、最大のハードルが立ちはだかります。それは「お客様の安全確保」です。もしも、認知症のスタッフや運営スタッフが、お客様に飲み物をこぼしてしまったり、お店の備品を壊してしまったら……そこで亜希子さんたちは、様々な工夫を重ねます。
例えば、食器は自前で、介護施設などで使われている軽いものを揃えました。また、こぼした時のことを考えて、温かい飲み物は、少しぬるめに作ることにしました。さらに、万が一のことを考え、カフェの開催ごとに保険に加入して、トラブルに備えることにしました。
カフェの前に次々と立ちはだかるバリアを、一つ一つ乗り越えること、およそ2年。2023年春、注文をまちがえるカフェ「オレンジデイSENGAWA」は開店を迎えます。
「無我夢中過ぎて、開店の日のことはほとんど憶えていません。ただ、認知症のスタッフの皆さんとそのご家族の皆さんが、とても喜んでくれたことは憶えています」
それから1年あまり、5月に開催されたカフェにお邪魔すると、エプロン姿を決めて、かくしゃくとした男性の方が、「いらっしゃいませ!」と、お出迎えしてくれました。ゆっくり、ゆっくりと、笑顔で注文を取ったり、飲み物やケーキを出す男性のそばで、奥様とお店の常連さんが温かいまなざしで見守ります。
ただ、お店のスタッフに応募してくれる認知症のスタッフは決して多くないといいます。「お店に立つ」ことが、認知症であることを本人が受け入れて、カミングアウトすることになるため、二の足を踏んでしまう方が多いのではないかと亜希子さんは考えています。そして、安定的な運営を行うためには、より多くの売り上げや寄付金も必要です。
「それでも夢は大きく常設店です! 認知症への理解が、もっと広がってほしいんです。そして、図らずも弱い立場になってしまった人にもっと優しい社会になってほしいんです」
認知症の方とご家族、そして地域の方が一緒に作り出す温かい思いが包むお店のなかで、漢那亜希子さんはやさしく、そして力強く語ってくれました。
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