営業マンからクジラ専門店店主に 縄文時代から続く日本の食文化を次の世代へ
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年7月4日 10時0分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
5月下旬、新しい捕鯨母船「関鯨丸」が、初めての操業に向けて、出航したというニュースがありました。そのニュースに、「ああ、クジラ、食べたいなぁ」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
多摩地域の西部、東京都あきる野市。東京サマーランドがある場所で知られていますが、板花貴豊さん(41)は、ここで生まれ育ち、大学を卒業後は、薬品関係の会社で営業マンとして働いてきました。
板花さんには、幼稚園からの親友がいて、二人ともお酒が大好き!
ある日、その友人が「これ、食べみて」と酒の肴を持ってきたんです。
「何、この肉?」、黒い肉の塊を見て首を傾げる板花さん。
「クジラ肉だよ」
「え、これがクジラなんだ!」
板花さんが初めてクジラを食べたのは22歳、その美味しさにハマります。
「クジラは旨いだけではなく、栄養がとても豊富なんだよ」という友人の話によると、クジラは、高タンパク・高鉄分・低カロリー・天然コラーゲンもたっぷり。哺乳類なのに、青魚のDHAやEPA、さらに海の哺乳類に特有のDPAといった「必須脂肪酸」を豊富に含んでいます。数千キロを泳ぎ続けるクジラは、体内に「バレニン」という疲労回復成分も多くて、まさにスーパーフード。
なぜ、その友人がクジラについて詳しいのか?
実は、捕鯨会社「共同船舶」に就職したからなのです。新しい捕鯨母船「関鯨丸」は「共同船舶」の所有です。
飲んで食べて語り合ううちに、クジラに魅せられてしまった板花さんは、「クジラ肉専門のお肉屋さんを開きたい」と思うようになります。そのためにも捕鯨船の乗組員になって、クジラを捕ることから始めるほうがいい、その思いを妻に打ち明けると、「あなた、うちに何人の子供がいると思っているのよ!」と言われてしまいました。
当時、板花さんには幼い子供が3人いました。
大反対する妻を、「食糧危機、環境危機を救うために、そして子供たちの未来のためにも、クジラを食べる食文化を広めたいんだ」と説得して、捕鯨母船「日新丸」に乗り込んだのは、32歳の時でした。
板花さんが捕鯨船に乗って向かった先は、南極近くの南氷洋。流氷が浮かぶ海で、体長7mほどのミンククジラを捕りました。母船に引き上げられたクジラは、甲板で解体され、それぞれの部位に分けられて冷凍保存されます。
捕鯨船の乗組員として3年間勤め上げた板花さんは、6年前の35歳のとき、地元・あきる野市で、くじら専門店「らじっく」を開きました。
しかし、まったくお客さんが買いに来てくれません。
そこでキッチンカーでイベント会場を回って、串カツや唐揚げのお弁当を販売。すると、クジラ肉を懐かしむ中高年だけではなく、若い人がクジラに興味を持ってお弁当を買ってくれました。新しい食材に見えたそうです。
みんな口を揃えて「クジラってこんなに美味しいんだ」と目を丸くします。
そのうち、リピーターも増えて、お店が軌道に乗ったある日、お客さんから、こう質問されます。「なんで、昭島市で、お店をやらないの?」と。
あきる野市のお隣、昭島市は、実は「クジラの街」として知られています。1961年(昭和36年)、JR八高線の多摩川鉄橋の下流で、ほぼ完全な形の、クジラの化石が発見されました。このあたりは、二百万年前、海だったのです。市内を歩くと、くじらロード商店会、クジラが描かれたマンホール、8月は、くじら祭で盛り上がります。
クジラの街なのに、クジラ料理店がない……。
板花さんも、そのことが気になっていました。お客さんの後押しもあって、2024年2月、JR青梅線、「昭島駅」南口にクジラ料理店「昭島くじらのらじっく」を開きました。昼間はランチ、夜は居酒屋になります。
お店に入って、さあ、クジラ料理、何を食べよう!
まず勧められたのは、「クジラの刺身」。生姜醤油に付けて食べると、さっぱりして、臭みがまったくありません。舌の上で、溶けるような柔らかさで、美味しいんです。
次に「クジラの唐揚げ」。ひと口食べると、ジュワッとクジラの旨みが口の中に広がります。そうそう、小学校の給食の味です!
締めくくりは「クジラのステーキ」。外はこんがり、中はレア。ジューシーなクジラの旨みが味わえる絶品です。
「こんなに体に良くて、美味しいお肉は他にありませんから、もっともっとクジラを広めたいんです」
縄文時代からクジラを捕って食べてきた日本人。その食文化を、次の世代へ繋げていくことが、板花さんの使命です。
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