79年前の8月15日、「あなたは、どこで……」“玉音放送”を聴いていた人々の暮らしを取材
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年8月15日 5時0分
いまから79年前の8月14日、日本の運命を左右するラジオ番組が収録されました。昭和天皇がマイクの前に立ち、初めて自ら肉声を届けた「玉音放送」。来年で100年を迎える日本のラジオの歴史においても、とても大きな出来事です。「玉音放送」を、当時の人たちはみんな、どこで聴いていたのかを取材した、ライターの方がいらっしゃいます。
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
埼玉・所沢ご出身のライター、和久井香菜子さん。学生時代の研究から少女漫画のエキスパートとして知られる一方で、テニスや障害者事情など、ジャンルを超えて幅広く取材されていらっしゃいます。
そんな和久井さんがライフワークの一つとされているのが、戦争体験の聞き取りです。
和久井さんは、小さい頃、漫画家・里中満智子さんの作品、「あすなろ坂」に出逢ったことで、戦争の時代を生きた人たちに興味を憶えます。やがて社会人として、特攻隊の体験者に話を聴く機会に恵まれたことで、その思いは、さらに強くなりました。
『学校で習った戦争は、空襲で爆弾を落とされたり、食糧難で食べるのに苦労をしたり、
みんな受け身の体験ばかりだった。でも、戦争の時代に生きていた1人1人にも、きっと、その人なりの意思や考えがあったのではないか?』
こう考えた和久井さんは、年配の方を取材する機会に恵まれる度に、その人の戦争体験を訊き出していくことにします。そして、こんな共通の質問も設けました。
『あなたは、どこで玉音放送を聴いていましたか?』
和久井さんに、この質問を設けた理由を聞いてみると、こう話してくれました。
「聴取率がほぼ100%だったとも云われるラジオ番組を、みんなどうやって聴いていたのか、とても興味があったんです」
和久井さんの「玉音放送」を軸に据えた、取材が本格的に始まりました。
「玉音放送」というと、昭和天皇のお声を、昔の大きなラジオの前に集まって聞いて、放送のあとは、パッと平和で明るい日々になったと思われる方が多いと思います。しかし、和久井さんは、そのイメージが全てではないといいます。
当然、そこには、1人1人違う、「日常」の暮らしがありました。
例えば、広島・江田島の海軍兵学校で8月15日を迎えた男性は、ノイズがひどく、冒頭の「朕」という言葉しか聞き取ることが出来ませんでした。このため、「陛下が我々を激励して下さったのだろう」と思った人も少なからずいて、先生方から敗戦を告げられるまでは、全く分からなかったといいます。
一方、東京・巣鴨の質屋で座って玉音放送を聴いたという女学校の生徒は、「ああ、やっと空襲がなくなる、よかったな」と、心からホッとしました。そして次に思ったのは、学徒勤労動員された川崎の工場で風船爆弾を作りながら出逢い、8月10日に出征したばかりの「彼」のこと……焼け野原にも「恋」はあったようです。
もう一つ、忘れてはならないのが玉音放送は、いまの日本領土、「内地」だけでなく、樺太や満州といった「外地」でも放送されていたということです。しかも、これらの地域では、玉音放送と共に平和な時間が終わり、戦争が始まります。旧ソ連による攻撃だけでなく、中国や朝鮮の人たちの日本人への反発も強まりました。
和久井さんは、玉音放送にまつわる聴き取りを続けるうちに、「いつか、形にできたらいいな」と思うようになっていきました。企画を聞いた編集者の方も、営業を買って出てくれます。
しかし、なかなか2人の思いを理解してくれる出版社に出会いません。すると、編集者の方がこう、申し出てくれました。
「普通の人の戦争体験だからこそ、本にする価値があります。大手がやらないのなら、私が出版社を作りましょう!」
こうして、和久井さんが聞き取りをした戦争体験談は、2021年の夏、「わたしたちもみんな子どもだった~戦争が日常だった私たちの体験記~」として、書籍化されて、日の目を見ることになります。若い世代にも読んでもらえるように、ライトな装丁にもこだわりました。
和久井さんは取材を振り返って、取材前には「私の話なんて……」と話していても、実際にお会いすると、とても饒舌な方もいらっしゃったといいます。そこから、戦争体験者ご自身の「話したい、伝えたい」という思いを強く感じ取ります。
「たぶん、皆さん、自分自身が生きるのに必死だったからはないでしょうか? 苦しい時代を生き抜いた体験を語りたい方は、きっと身近にもいらっしゃるはずです」
戦後79年、日本が戦争をしていた時代を知る人は、日に日に少なくなっていきます。もしも、身近に戦争を体験した世代がいらっしゃる方……この夏は、思い切って、こう聞いてみませんか?
「あなたは、どこで玉音放送を聴いていましたか?」
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