食品ロスを減らすため――平日夕方池袋に並ぶ旬の野菜たち
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年9月27日 7時8分
東京・池袋駅で夕方になると並ぶ、新鮮で格安な「野菜」。平日の夕方6時過ぎ、東京・池袋駅の東武東上線・南改札口の脇に行列が。
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
『TABETEレスキュー直売所』
そう書かれたのぼりのもとに並んでいる皆さんのお目当ては、ナスやきゅうり、旬の栗など、ズラッと陳列された新鮮な野菜や果物。夕方6時半前、スタッフの方の「お待たせいたしました!」の声が聞こえて販売が始まると、列に並んだ皆さんが、野菜や果物を手に取って、緑色の買い物かごに入れていきます。
この野菜や果物は、埼玉県東松山市・滑川町・嵐山町・小川町・鳩山町の5つの市と町で生産されて、近くにある5つの直売所に、夕方4時過ぎまで並んでいた物です。残念ながら直売所では売れ残ってしまった商品を集めて、池袋駅で販売しているのです。
ただ、夕方4時に埼玉のお店にあった野菜が、夕方6時に池袋に並んでいる……。普通に考えれば、「えっ、間に合うの?」と思うかもしれません。実は、この野菜を運んでいるのは車ではなく、東武東上線の「列車」なんです。
埼玉の5つの直売所で売れ残った野菜は、まず、滑川町にある森林公園駅に運ばれて、上りの「川越特急」池袋行に、およそ4分の停車時間を使って積み込まれます。午後5時ちょうどに森林公園を発車した列車は、途中、東松山、坂戸、川越市、川越、朝霞台の5駅に停まり、終着・池袋には、午後5時49分に到着します。田園風景が広がるのどかな埼玉の郊外から、家やビルがひしめき合う東京23区まで、およそ50分の「旅」をしてきた野菜というわけなんです。
いったい、これらの野菜や果物は、どのようにして、東京・池袋の人たちに届いているのか。
「TABETEレスキュー直売所」には、6つの団体や会社が参加しています。東松山市、JA埼玉中央、東武鉄道、大東文化大学、大塚応援カンパニー。そして、もう一つ、これらの団体や会社を結び付けている会社があるのです。
「株式会社コークッキング」という食品ロスの削減に取り組んでいるベンチャー企業です。「TABETEレスキュー直売所」の運営を行っています。
トップを務める川越一磨さんは、1991年、東京生まれの33歳。川越さんは、大学時代にまちづくりについて学びながら、和食のお店で料理人の修行をしたのち、大手飲食店に就職して店舗経営を経験します。そのなかで、多くの食品が捨てられていることに心を痛めました。
飲食店を退職した川越さんは、株式会社コークッキングを創業。2017年からは、デンマークでの取り組みをヒントに、日本で初めてのフードロスに特化したスマートフォンアプリ「TABETE」を作り、テイクアウトのお店や飲食店の食品ロスの削減に取り組みます。
そして2020年、コークッキングが東松山市の起業家を応援するファンドの支援を受けたことをきっかけに、市の担当者の方からこんな提案を受けました。
「東松山市では、新たに農業を始める方や若い農家の方を応援したいと考えています。野菜や果物のロスを減らすために、ぜひ一緒にやりませんか?」
東松山市の農産物直売所も他の地域同様、農家の方が野菜や果物を持ち込んでいます。しかし売れ残ってしまうと、農家の皆さんは自ら再び直売所へ出向いて、丹精込めて作り上げたものを引き取るのが通例となっていました。
しかも、この野菜や果物は、鮮度の問題で廃棄されてしまうこともありました。農家の方にとっては、引き取りに行く手間が、精神的苦痛に感じられたり、直売所へ納める商品を少なくする、「納品控え」が悩みのタネとなっていたんです。
『新たに農業を始めた人たちを含め、農家の皆さんが、野菜の回収を気にすることなく、思いっきり野菜を作ってもらって、収入を増やすことにつなげてほしい』
川越さんたちと東松山市役所の皆さんと共通の思いに、次々と賛同者が現れます。野菜を集めるJA埼玉中央、野菜を運ぶ東武鉄道、食品ロスを学ぶ大東文化大学が参加、この5つの団体と、5~6軒の農家の方の協力の下で、2021年8月、池袋駅の「TABETEレスキュー直売所」は、スタートにこぎつけました。
そのオープンから3年あまり、現在では200軒以上の農家の皆さんが参加。お店のリピーターも増えて、新鮮な野菜への満足の声が寄せられています。なかには、川越さんをはじめスタッフの皆さんにとっても、ちょっぴり報われた気持ちになれる声もありました。
「駅で野菜を買っただけですけど、食品ロスの問題に関われたことが嬉しいんです!」
農家の人の思いがたっぷり詰まった朝採れ野菜を載せた列車が、きょうも、黄昏時の関東平野を駆け抜けて、池袋にやってきます。
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