自民党総裁選前半終えて……その本質は?
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年9月20日 9時39分
「報道部畑中デスクの独り言」(第384回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は「自民党総裁選」について。
自民党総裁選挙が9月12日に告示されました。史上最多の9人が立候補、27日の投票日に向けて、現在は全国で演説会などに臨んでいます。
12日の告示日には所見発表演説会、翌13日には記者会見、14日には日本記者クラブ主催の討論会が開かれました。所見発表演説会と記者会見は通常同じ日に開かれてきましたが、今回は9人という候補者の多さから、日を分けて実施されました。また、これに先立つ出馬会見、政策発表会見では各候補が「会場探し」に苦労したようです。国会内、議員会館の会議室やホールで行われたところもあれば、国会外の貸会議室を何とか押さえたケース、選対事務所のスペースを先着順や抽選とする候補もあり、異例づくめの前哨戦となりました。特に8月下旬は台風10号の迷走で、日時変更を強いられる候補もいて、困難な会場探しに拍車をかけたようです。
候補者は9人。ちょうど野球のメンバーと同じで、それになぞらえる候補者もいました。また、それぞれのイメージカラーがあるようで、アイドルグループのサイリウムのようでもあります。12日の演説会ではジャケットやネクタイでそれぞれの”カラー“をアピールしていました。
高市早苗氏はややくすんだ青のジャケット、人呼んで「さなえブルー」。小林鷹之氏はオレンジ基調のレジメンタルタイ。林芳正氏は緑のネクタイ。小泉進次郎氏は濃い青=「横須賀ブルー」。上川陽子氏はホワイト、加藤勝信氏はライムグリーン、河野太郎氏は深みのある青=「湘南ブルー」、石破茂氏もブルーを基調としたストライプタイ、茂木敏充氏はライトブルーのネクタイでした。9人のうち、5人が青を基調としていました。さわやかさやエコな印象を与える流行りの色のようです。
日本記者クラブ主催の討論会で各候補が色紙にしたためたのは。高市氏「経済成長」、小林氏「世界をリードする国へ」、林氏「実感できる経済再生」、小泉氏「政治改革」、上川氏「誰一人取り残さない日本の新しい景色」、加藤氏「国民の所得倍増」、河野氏「改革の実績 熱さと速さ」、石破氏「全ての人に安心と安全を」、茂木氏「増税ゼロの政策推進」でした。総じて、「経済」「改革」を訴える候補が目立ちました。
19日、自民党の“聖地”東京・秋葉原で開かれた街頭演説会では9人中7人が、中国・深圳で日本人学校に通う男子児童が刺殺された事件に触れました。また、秋葉原という土地らしく、若者や子育て世帯へのアピールが目立ちました。
「若い世代の手取りを増やし、保険料の負担を減らすことを約束する」(小林氏)、「今のままの自民党の進め方をしていても次の世代に間に合わない」(小泉氏)、「日本列島を強く豊かにして、次の世代に送る責任がある」(高市氏)、「リモート、副業など、自分の力で稼いでいく、若い人たちに選択肢を増やすチャンスを」(林氏)。
茂木氏は「増税ゼロ」を掲げて「負担を増やさずに子育て支援も充実する」と述べたほか、「所得倍増」を提唱する加藤氏は「賃金を上げる新しい流れをつくる責任を果たす」と強調しました。
そのほか、石破氏は「東京対地方の二極対立ではない。ともに幸せに生きていけるような日本をつくる」と主張。河野氏は今回の総裁選について「世界のカタチを議論しなければならない」と訴えました。一方、上川氏は国連総会出席のため、訪米することを明らかにし、「大切な外交の場を空白にするわけにはいかない」と理解を求めました。
これまでに様々な政策論争も繰り広げられていますが、一つ気になったのが「解雇規制の見直し」、小泉進次郎氏が提唱して物議を醸しました。日本記者クラブの演説会で小泉氏は「リスキリングや再就職支援を企業に課すことで、労働移動を促し、非正規の人が正規として雇用されやすい社会をつくっていきたい」と訴えました。これに対し、石破氏は「解雇4要件をどのように見直していくのか、精査しないとイメージがわかない」と慎重な姿勢を示しました。この時、小泉氏は石破氏を一瞥、間にいた加藤氏はうなずいていました。
解雇4要件とは、どうしても人員を整理しなければならない経営上の理由がある「人員整理の必要性」、希望退職者募集や役員報酬カットなどの「解雇回避努力義務の履行」、解雇の人選が合理的かつ公平とあるとする「被解雇者選定の合理性」、解雇対象者らと十分な協議の上、納得を得る努力を尽くす「解雇手続きの妥当性」を指します。
「働き方改革」が道半ばの中、企業が政府の都合よく動くとは考えにくい状況です。再就職支援と言っても企業は派遣会社を紹介する程度でしょう。そうした中で、政府が企業に圧力をかけたり、過大な期待を寄せたりすることを疑問視する人も少なくないと思います。立憲民主党の代表選に出馬している野田佳彦元首相は「落選しない地盤もらって、自分がピンチになることのない連中が、人の人生不安にすることを言うな」と厳しく批判しました。
前半を終えて、9人という候補者の多さも一長一短というのが正直な感想です。多様な意見が交わされるのはいいことですし、「多士済々」「個性豊か」とも言えますが、議論がふわふわして、地に足が着いていないという印象も持ちました。候補者は自身にとって有利な主張はするものの、党員らが本当に知りたいことを説明できているのか……後半に議論が収斂されていくかが注目されるところです。また、9人いると候補者や議員も集中力が切れてくるようで、12日の所見発表演説会では、会場を上から見ていると、出席議員の席からちらほらと液晶画面の光が……スマホをいじる姿が見られました。
さて、勝敗の行方です。メディアの情勢調査では石破氏、小泉氏、高市氏が先行(順位はメディアによって違う)という報道が目立ちますが、決定的と言えるような差はついていないもようです。何よりも9人の候補者乱立で、議員票の「勝敗ライン」が下がり、混とんとしています。
今回の構図は重層的です。若手・中堅のフレッシュさか、ベテランの経験か、女性候補はどこまで健闘するか、ほとんどが解消されたとはいえ派閥の影響は残るのか…そして、注目されるのは麻生太郎氏、菅義偉氏、岸田文雄氏の総理経験者の動向です。“キングメーカー”と称される人物がどのような動きを見せるかもポイントになるでしょう。
ただ、キングメーカーの動きは目立てば目立つほど、院政や傀儡政権というイメージは免れず、選挙戦が白けたものになりかねません。それを配慮してか、表立った動きはあまりみられません。例えば、小泉進次郎氏の支持を明言した菅元首相も、横浜で行われた街頭演説ではスピーチ時間はわずか1分でした。
今回の総裁選、開かれた選挙、活発な政策論争……などという建前はあるものの、各候補者の発信方法、メディア対応をみれば、総裁選の本質はやはり権力闘争ということが疑いありません。最終目的にはいかにして勝ち、自民党としての政権を維持するということ。そういう意味でのエネルギーはすさまじいものを感じます。9人の候補の一部が「一本化」することもあり得るでしょうし、政権維持のため、つまりは議席を守るため、「勝ち馬」に乗るには誰が有利か……見極めている議員もいることでしょう。
投票権を持つのはあくまでも議員と自民党員。ほとんどの国民は蚊帳の外です。秋葉原で行われた演説会は各候補の“応援団”が候補のスピーチに歓声を挙げていたものの、国政選挙のような人出や熱気には及ばないというのが正直なところ、これは致し方ないかもしれません。
ただ、そうした自民党の姿勢をチェックし、総選挙で判断する権利を持つのも国民です。私は以前、小欄でお伝えしたように、国を背負っていくには「器量」と「人徳」が必要と考えます。9人の中で、この2つを誰がバランスよく兼ね備えているのか…そんな視点で改めて、この総裁選を見つめています。
(了)
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