自民党総裁選から見えた様々な景色
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年9月30日 12時22分
「報道部畑中デスクの独り言」(第386回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は「自民党総裁選」について。
9月27日、自民党総裁選挙、長い1日が終わりました。大逆転と番狂わせもあり、スリリングな展開となりました。決選投票に勝利を収めたのは石破茂元幹事長、初出馬から「5度目の正直」で勝ち取った総裁のイスです。
12日の告示後、党員票、議員票含めて石破氏に高市早苗経済安全保障担当相、小泉進次郎環境相の「三つどもえ」となる各メディアの情勢分析が示され、決選投票に進む2人が誰になるかが最大の焦点となっていました。
総裁選にはこのほか、小林鷹之前経済安全保障担当大臣、林芳正官房長官、上川陽子外務大臣、加藤勝信元官房長官、河野太郎デジタル大臣、茂木敏充幹事長が立候補しています。午後2時6分、1回目の投票結果が逢沢一郎選挙管理委員長から発表され、どよめきが起こります。
議員票と党員票を合わせた数は高市氏181、小林氏60、林氏65、小泉氏136、上川氏40、加藤氏22、河野氏30、石破氏154、茂木氏47……どよめきが起きたのは高市氏の優勢が判明した瞬間でした。議員票72票はトップの小泉氏に3票差。党員票も109票で、石破氏の108票を上回りました。議員票でトップの75票を得た小泉氏は党員票が61票と伸び悩み、3位に沈みました。
1回目の投票で壇上に上がった3人の表情、石破氏は柔らかな表情だったのに対し、高市氏は硬い表情。投票を終えて議員席に戻る時は1人1人に細かく会釈していたのが印象的でした。一方、小泉氏は口を硬く結んでいました。党員票の伸び悩みが伝えられたこともあり、敗北を悟ったかのような表情に見えました。小泉氏は政治改革を訴え、世論調査では常に「次の政治にふさわしい人」の上位にありました。しかし、提唱した解雇規制の見直し、選択的夫婦別姓への言及が保守層の反発を招きました。討論の未熟さも票の伸び悩みにつながったとみられます。
決選投票では候補2人による5分間の演説という異例の対応がとられました。「ルールを、守る自民党でなくてはならない」と主張する石破氏。「選挙を勝ち続ける自民党をつくっていきたい」と訴える高市氏。政治改革に対する姿勢に温度差がありました。
議員票、党員票ともに高市氏が上回っていたため、決選投票は一時、高市氏が優勢とみられていました。前日には麻生太郎副総裁が決選で高市氏に投票することを表明。1回目の投票で当初30前後と分析されていた高市氏の議員票は、大きく増えて72票に。麻生氏の影響があったことは想像に難くありません。しかし、決選で大逆転が起きます。議員票が高市氏173、石破氏189。都道府県票は高市氏21、石破氏26。合計高市氏194、石破氏215、21秒差で石破氏の勝利。決定の瞬間、石破氏は大きくうなずき、はにかむような笑顔を見せました。一方の高市氏は表情が固まり、放心状態……こちらも対照的な表情でした。
15日間の選挙戦に史上最多9人という候補者、これまでの総裁選にはなかった景色がありました。それは一長一短だったというのが正直な感想です。
高市氏「経済成長」、小林氏「世界をリードする国へ」、林氏「経済再生」、小泉氏「政治改革」、上川氏「日本の新しい景色」、加藤氏「国民の所得倍増」、河野氏「改革の実績」、石破氏「安心と安全」、茂木氏「増税ゼロ」を訴えました。
以前、小欄でもお伝えしましたが、9人の候補者乱立、よく言えば「多様な人材」「多士済々」「個性豊か」。一方、人気投票的な色彩が強まり、議論がふわっとして、地に足が着いていないという印象もありました。候補者は自身にとって有利な主張はするものの、党員らが本当に知りたいことを説明できていたのか、疑問が残ります。
一方、9人の候補者乱立で、議員票の「勝敗ライン」が下がり、比較的党内基盤が弱く、固定票を持つ候補にも活路が見えてきました。1回目は議員票よりも党員票がモノを言う投票で、党員票に強い高市さんと石破さんの躍進につながったといえます。
石破氏は「党内野党」的な存在で、特に安倍政権の時には顕著でした。「味方が後ろから弓を引いてくる」と批判を浴びましたが、地方では地道に「正論」を展開しました。一方、高市氏は選挙戦では一貫して「経済成長」と訴え、中国に対する厳しい姿勢、靖国神社の参拝など、「岩盤保守層」と呼ばれる方々には絶大な支持がありました。
一方、決選投票では議員票がモノを言います。結局、多くの票を動かすことが期待される重鎮、キングメーカーと呼ばれる人物がカギを握るという状況になりました。各候補が選挙戦終盤になって、麻生太郎副総裁、菅義偉前首相、岸田文雄首相、二階俊博元幹事長への「重鎮詣で」をしたことがその象徴と言えます。
党内基盤の弱い候補同士であり、積極的に推すというよりも、どちらかと言えば「消去法」で選んだ議員も少なくなかったとみられます。高市氏はいわゆる「岩盤保守層」に根強い人気がありますが、強硬な対中姿勢や支持に回った麻生氏を敬遠する動きもありました。「バランス感覚」「敵と敵は味方」……そんな発想で投票した議員もいました。
派閥なき選挙、活発な政策論争、自民党を変える、改革など…当初は耳障りのいい言葉が躍りましたが、本質はやはりエゴむき出しの権力闘争ということに尽きます。特に、今回は3人の候補が有力とみられ、このうち2人が残るという、「椅子取りゲーム」の状況が、終盤になってその苛烈さに拍車をかけることになりました。最終目的にはいかにして勝ち、自民党としての政権を維持するということです。各議員にとっては、自分の議席を守るため、「勝ち馬」に乗るには誰が有利か……あるいは党内で「冷や飯」を食わないためにはどうするか……様々な思惑が交錯していたことは否めません。
派閥は多くが解消されたものの、新しいグループができたに過ぎず、何も変わっていない、一方、重鎮の動きは以前よりもグリップしなかった、党が変わる過渡期にあるのか……様々な見方ができるでしょう。
15日間の総裁選はまさに「起承転結」の景色が展開されました。権力の中枢が決まる経緯が、これまでと比べて目に見える形になったという点では、今回の総裁選は一定の成果はあったように思います。
総裁選の投票権を持つのは議員と自民党員で、ほとんどの国民は蚊帳の外でしたが、さて、これまでで見えてきた自民党(もちろん立憲民主党などの他党も)の姿勢については、遠くない時期に行われる総選挙で判断する……いよいよ国民の出番となります。
(了)
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