歴史的な衆院選 選挙戦から見えてきたもの
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年10月30日 9時58分
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第390回)
衆議院選挙が終わりました。結果は与党で過半数を下回る215議席という歴史的なものに。自民党は200の大台を割り込む191、公明党も伸び悩み、9月に就任したばかりの石井啓一代表が落選するという大誤算がありました。与党全体で減らした議席は73、その分を立憲民主党が50増やして148、国民民主党は4倍増の28議席を獲得し、公明党を上回りました。
今回の選挙とはこれまでと違う様々なものが見えてきました。小欄では大きく3つに分けて論じていきます。
◆自民党への「トドメ」となった「2000万円問題」
投開票日当日、ニッポン放送でも開票特別番組を放送。私は今回も自民党を担当しました。党本部9階に設けられた開票センター、厳しい結果に幹部の笑顔はなく、終始、重たい空気に包まれました。幹部席の後ろに設けられた候補者のボードのバラは空白が目立ち、特に北海道・東北、愛知、大阪は大苦戦が一目瞭然でした。バラをつけた石破茂総裁は憔悴しきった表情、多くのメディアに出演した小泉進次郎選挙対策委員長は、口を堅く結び、厳しい表情でバラつけの様子を見つめていました。どこか「抜け殻」のようにも見えました。
「政治とカネ」「経済政策」が焦点となった衆院選ですが、自民党にとって今回の戦略はことごとく「裏目」に出たと言わざるを得ません。
石破総裁が「日本を守る」と打ち出した選挙戦は「裏金事件」のおわびに追われました。「守る」というフレーズは「防戦一方」の選挙戦を象徴してしまったようです。また、「議論を行った上で解散すべき」と言っていた総裁就任前の発言を翻し、政権発足からわずか26日という史上最短での総選挙に踏み切りました。こうしたブレた姿勢が選挙に影響したことは否めません。
裏金事件の対応については公示直前、関係した議員46人のうち、12人が非公認、34人が重複立候補禁止という措置が取られました。公示前の勢力が256。仮に関係議員が落選したとしても公明党の議席を加えれば、何とか過半数に達するだろう……いわば「賭け」だったわけです。確かに、裏金事件に関係しない候補の陣営からは、有権者の反応が良くなったという声が複数聞かれ、一定の効果があったのは事実です。しかし、逆風を跳ね返すまでには至りませんでした。
何よりも、終盤になっていわゆる「2000万円問題」=非公認候補の総支部に2000万円が支給されていたという報道が「トドメ」となったようです。党側は「党勢拡大が目的であり、非公認候補はそのお金を使うことができない」と釈明、石破総裁が演説で色を成して反論する場面もありました。ただ、ある自民党候補の陣営からは「裏金が問題になっている時に、こんなもの配ってどうするんだ」とあきれる声も聞かれました。
◆裏金事件だけではない! 自民党敗北、最大の理由
自民党にとっての厳しい選挙戦は、裏金事件の影響だけではなかったようです。有権者に話を聞いてみると、「クリーンな人を選びたい」「政権交代を望む」という声があった一方で、裏金事件そのものに関心がないという人もいました。若い人の中には石破総裁が下した裏金関係議員の処遇方針を知らないと話す人もいたぐらいです。
では、何を投票の基準にしたのでしょうか。キーワードは「政策本位」、子どもを持つ母親からは「子育て政策」「次世代に向けた政策」という声が聞かれました。高齢者からも「もっと経済対策が聞きたかった」という声もありました。
しかるに、自民党の街頭演説はどうだったか、終盤の演説では、石破総裁は裏金問題のおわびから始まりました。「ルールを守る」と言いますが、これ自体は政策でも何でもないわけです。さらに、政権交代を訴える野党に対し、「日本の国を任せるわけにはいかない」と批判しました。いわば「批判合戦」となり、他党の仕掛けに乗ってしまった感があります。経済対策についても、補正予算に言及したものの、具体策には乏しい内容でした。党側は「言うべきことを言わない」、有権者は「聞きたいことが聞けない」……負のスパイラルに入ってしまったことが、自民党の最大の敗因だったと私は考えます。
野党は躍進を果たしましたが、中でも国民民主党は4倍の28議席を獲得しました。「手取りを増やす」というわかりやすいフレーズで展開した経済対策こそ、有権者が知りたいこと、聞きたい政策だったのではないか…それが如実に現れていたと言えます。比例代表の総得票数に限れば、国民民主党は日本維新の会、公明党を抜き、同じく経済対策を前面に押し出したれいわ新選組は共産党を上回りました。
◆街頭演説で繰り広げられた“異様”な光景
今回の選挙戦、街頭演説では異様な光景が展開されました。特に自民党幹部が応援に入った演説はどこに行っても警察官の群れがありました。制服警察官に私服のSP。演説会場は鉄の防護柵で聴衆のゾーンが区切られ、演説を聞く人はゾーンに入る前に、金属探知機による手荷物検査を強いられました。これはもちろん報道関係者も含まれます。検査は街頭演説だけでなく、会議室などを使った個人演説会でも同様でした。東京・豊洲で行われた選挙戦最後の石破総裁の演説では、前の道路=公道が蛇腹型のバリケードで封鎖されるという徹底ぶりでした。
警視庁によりますと、これまでの国政選挙とは比べ物にならないほどの警察官が警戒・警備にあたったということです。人員だけではなく、防弾用の板や防弾マット、さらに、不審なドローンが近づかないように妨害電波を発する機材も用意されました。自民党本部に火炎びん、総理官邸に車が突っ込む事件があってからは、警察庁から全国の警察本部に対し、警備のさらなる徹底を図るよう緊急の指示があったということです。
安全第一を期すために集った警備関係者の尽力には頭が下がります。ただ、物々しい警備体制のため、遠巻きに演説を見ようとしても、「立ち止まらないで」と言われる有様。ゾーンに入る人はもともとの支援者、動員をかけられた人も多く、候補者陣営の中には「本当は街ゆく人に声を届けたいのだが」とぼやく声も聞かれました。
「練り歩き」と言われる選挙活動は、通称「桃太郎」とも呼ばれます。のぼりを持ちながら、商店街を歩くというような姿がその所以ですが、ある候補の練り歩きでは、警備上の問題を理由に、メディアの同行が禁止されました。また、沿道に待ち構える聴衆に“グータッチ”をして歩く姿は、コンサートの握手会かと見紛う雰囲気でした。黄色の規制線のテープが、候補らが歩くのに合わせて、警察官がずらしていく様子は、異様でした。
厳しい警備が選挙にどのような影響を与えたかはわかりませんが、このような街頭演説自体が選挙手法として、もはや「曲がり角」にきているのかもしれません。折りしもアメリカでも大統領選挙が大詰めですが、あのような大規模集会のような形も将来、日本にも導入されてくるのかもしれません。もっとも日本は大統領制ではありませんし、そうした大規模な集会が日本の政治風土に合うのかというと、それはまた別の話ですが……。
◇ ◇ ◇
さて、今後は特別国会で、誰が首班指名されるかが最大の焦点になります。石破総裁は投開票日翌日の記者会見で、「国民の批判に適切に応えながら、現下の厳しい課題に取り組み、国民生活と日本を守ることで職責を果たしたい」と述べ、続投の考えを示しました。自民党はなりふり構わない「帳尻合わせ」に走りそうです。裏金関係議員の当選者の追加公認はもちろん、政界で「寝技」といわれる、保守的な考えを持つ議員を引っ張り込むことも予想されます。ただ、裏金関係議員の追加公認については「結局、裏金問題は終わっていない」というそしりは免れず、納得のいく説明が必要になるでしょう。
15年前の政権交代と大きく違うのは、どこも過半数を取った政党がないということです。立憲民主党が政権を取るとしても連立が必要になる…自公以外となると、共産党が政権の中枢に参画する可能性が出てくるわけです。事の良し悪しはさておき、日本の国のカタチが変わる可能性もあります。立憲民主党は政権交代へ野党結集を目指しますが、連立の枠組みについて、難しい選択を迫られることになります。
政策や法案ごとに連携する「パーシャル連合=部分連合」の声も聞こえてきます。パーシャルというと、昭和生まれの世代はどうしても冷蔵庫のCMを思い出してしまいます。まさに「時代はパーシャル」なのか……。
現状維持か、政権交代か、漂流か。11月中旬開会といわれる特別国会に向けて、与野党で水面下の駆け引きが続きます。
(了)
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