六代目三遊亭圓楽が眠る、群馬・前橋の釈迦尊寺 その記憶とご縁を未来へ繋ぐために
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年12月5日 5時0分
12月、またの名を「師走」。
その語源は、「お坊さんが走り回るほど忙しい」ことに由来するとも云われます。なかには今、実際に全国を飛び回っているお坊さんの方もいらっしゃるかもしれません。ある事情で全国を奔走中の、噺家さんゆかりのお寺の住職の方がいらっしゃいます。
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
「赤城おろし」と呼ばれる冷たい空っ風が吹き荒れる、冬の群馬・前橋。JR上越線・新前橋駅の西口から歩いて15分ちょっとの所に、聖徳太子から授けられたという伝説が残るお釈迦様をまつったお寺があります。名前は、「釈迦尊寺」という曹洞宗のお寺です。
住職の山崎奎一さんは、1943年生まれの81歳。山崎さんは、前橋で代々、お寺の住職を務めてきた家で育ちました。お父様が戦死されたこともあって、ご自身は23歳で、釈迦尊寺の住職となり、今もかくしゃくとして、全国各地を飛び回る日々を送っていらっしゃいます。
お寺では昭和の頃、12月になると、地元の同じ宗派のお寺の皆さんと一緒に、恵まれない方たちのために、街かどで「托鉢」を行っていました。しかし、マイカーが普及し、地元の皆さんのライフスタイルが変わってくると、なかなか思うように浄財が集まらなくなります。
山崎さんは一計を案じて、チャリティーコンサートを企画しました。ところが、当時の群馬は、上越新幹線も無ければ、関越自動車道も通っていません。なかなか、前橋まで足を運んでくれる歌い手さんはいませんでした。来てくれた歌い手さんのなかには、公演の途中で「帰る」と言い出す方もいたといいます。
そのなかで、二つ返事でチャリティに協力したいと言ってくれた噺家さんがいました。五代目三遊亭圓楽、後に「笑点」の司会でおなじみになる、あの圓楽師匠です。チャリティ落語会を開くと、地元の皆さんは大いに笑って、喜んでくれました。ところが、圓楽師匠が寄席に出られなくなった、一連の落語協会分裂騒動が起こります。
「ホール落語の時代じゃない。これからは落語家が外へ出ていく時代だ!」
そう力強く話した五代目圓楽さんの思いを意気に感じた山崎さんは、のちの圓楽一門会を群馬から応援します。
圓楽一門会が参加した前橋でのゴルフイベントは、じつに40回以上も続きました。そして、五代目圓楽さんの「お茶くみ」として付いてきた一人の男性と出逢います。
その男性とは、三遊亭楽太郎、のちの六代目三遊亭圓楽師匠です。
山崎さんは、そのお茶の出し方に目を見張りました。相手がどんなに大物でも、物怖じすることなく、気を配ってお茶を出していきます。お茶を出した相手からは、「楽ちゃん、楽ちゃん」と呼ばれて、可愛がられていきました。
もちろん、山崎さんとの親交も自然と深まっていきます。いまも思い出されるのは、六代目が好きだった焼肉のシーンだといいます。
「シャカさん、肉は焼き目がちょっと付くくらいがいいんだよ。」
釈迦尊寺にちなんで、山崎さんを「シャカさん」と呼んでくれるようになっていました。山崎さんも、気軽に頼みごとが出来るようになっていきます。
「楽さん、まくらにちょっと、仏様の有難いお話を入れてくれないかな」
「はいよ!」と快く引き受けてくれると、その噺からは、仏教の世界をよく勉強している様子が伺えました。その勉強熱心な様子と、「圓楽」を襲名して落語にも磨きがかかっていると感じた山崎さんはある日、六代目にこんな提案をします。
「楽さん、坊さんにならないか?」
得度、僧侶となるための儀式を勧めたのです。
お坊さんとしての名前は、「泰通圓生」。六代目圓楽さんの本名と、落語界のために名前を残したいと願っていた大名跡、「圓生」を組み合わせたものでした。しかし、六代目圓楽さんは病に倒れ、襲名は叶わぬまま、72歳で帰らぬ人となりました。
「せめて、80歳まで頑張ってほしかった」
そう悔やむ山崎さんに、さらに困難が降りかかります。去年11月、釈迦尊寺の本堂が全焼、長年にわたって開催してきた落語会も一旦休止となりました。
それから1年、山崎さんは、今の心境をこう語ります。
「何とか、全国の皆さんの支えで、本堂再建へのめどが立ってきました。新しい本堂が出来たら、また地元の皆さんのために、ここで圓楽一門会を招いて、落語会をやりたいです」
六代目三遊亭圓楽さんが眠る、群馬・前橋の釈迦尊寺。その記憶とご縁を未来へ繋ぐために、山崎住職は師走の今日も走り回ります。
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