17歳の時に発見した小さな土器の破片、越谷の歴史ロマンに魅せられて……
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2025年1月16日 5時0分
蔦屋重三郎の生涯を描いた大河ドラマ「べらぼう」が始まりましたが、その蔦重が見出した浮世絵師「写楽」の菩提寺が埼玉県越谷市にあります。越谷にまつわる歴史ロマンと、ある郷土史研究者がいらっしゃいます。
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。『あけの語りびと』
埼玉県越谷市に住む宮川進さんは、御年85歳。滋賀県近江八幡市のご出身で、歴史に興味を持つようになったのは、高校2年生の時。ひょんなことがきっかけでした。
「田舎道を歩いていたら、植木鉢の欠片のようなものを見つけたんです。歴史の先生に見せると、古墳時代の土器だと分かって、へえ、こんな何気ない場所に落ちているんだと、歴史の身近さに興味をそそられましたね」
大学で考古学を学ぼうと考えた宮川さんですが、「考古学では飯は食えぬ」と大阪市立大学法学部に進学し、信託銀行に入行。その後、埼玉りそな銀行に勤務されました。定年後は、郷土史研究者として、越谷ゆかりの人物を調べ、様々な説をまとめ、発表会を開き、『さいたま古墳めぐり』も出版されています。
さて、蔦重が見出した浮世絵師の一人、「写楽」といえば、大胆なデフォルメで役者の個性を描き出す作風で知られています。しかし、活動期間はわずか10ヵ月、その間に、およそ145点の作品を残し忽然と姿を消してしまいます。長く謎とされていたその正体は、四国・徳島藩に仕える能役者の、斎藤十郎兵衛であるというのが定説となってきています。菩提寺が越谷にあることから、宮川さんもこのミステリーを調べています。
なぜ10ヶ月で筆を折ったのか、そのことを伺うと……。
「写楽は、斬新なアイデアで浮世絵の世界に登場しましたが、末期の作品になると、あの斬新さがなくて、魅力に欠ける作品ばかりです。私は、アイデアが枯渇して引退したと睨んでいます」
では、たった10ヶ月で姿を消した理由は?
「斎藤十郎兵衛は、徳島藩の蜂須賀家お抱えの能役者でした。参勤交代で、殿様が徳島に帰っていた十ヶ月間、絵心のあった斎藤は、浮世絵を描いたと思われます。能役者は世襲で侍の身分を与えられています。浮世絵を描いていることが殿様に知れたら、安定した身分を剥奪されるかも知れない、ということもおそれて、10ヶ月で筆を折ったのではないでしょうか」
続いて、こんな歴史ロマンが越谷にあります。日本一の力持ち、三ノ宮卯之助を、宮川さんに紹介していただきました。
三ノ宮卯之助は、江戸後期に活躍した「日本一の力持ち」で、写楽や北斎と同じ時代に生きていました。言い伝えによると、小さい頃は、ひ弱で力もなく、子ども相撲で投げ飛ばされて、泣いて帰るような子どもでした。
「力」が男の価値だった江戸時代、卯之助は、河原の石を持ち上げて、体を鍛えていきました。当時、舟を使った運送が栄えていて、越谷を流れる元荒川は、大小の運搬船が行き交い、活気を呈していました。
ある日、米俵を積み過ぎた小舟が浅瀬に乗上げ、動けなくなっている……。それを見た卯之助少年は、川に飛び込み、小舟と川底の隙間を見つけて、そこへ仰向けになり、両手両足を使ってグイッと力を込めて舟を動かした、そんな逸話が残っています。
お祭りになると、村の神社では、男たちの力自慢が行われます。使うのは、100キロを超える「力石」です。それを卯之助は、軽々と片手で持ち上げるので、誰もかないません。卯之助が持ち上げた「力石」は、これまでに38個が発見されています。力石には「卯之助」の名前と「重さ」、「年月」が刻まれていて、地元・久伊豆神社に奉納された力石は50貫(およそ187キロ)。他にも、60貫、70貫、百貫、百二十貫(450キロ)の力石もあります。
「江戸力持ち番付」で、最高位「東の大関」にのぼり詰めた卯之助は、46歳の時、日本一重い「力石」に挑みます。
埼玉県桶川市の稲荷神社に奉納された「大盤石」。その重さ、なんと610キロ! 人間の力で持ち上げるのは不可能な重さです。この歴史ミステリーを、宮川さんに伺うと、ニコニコしながら、こう教えてくれました。
「卯之助は一座を組み、両国や浅草で見世物として、さまざまな担ぎ方を披露して、庶民を楽しませていました。また、地方興行にも出かけて、遠くは大阪、さらには姫路にも卯之助の名が残る力石が見つかっています。さて、610キロの力石をどのように持ち上げたか? 当時の力比べには、手も足も使えるルールがありました。そこで卯之助は仰向けになり、
610キロの力石を両手両足で受けて、さし上げた……。これが真実だと思います。足の力というのは、結構あるようですよ」
こぼれんばかりの笑顔で、楽しそうにお話をされる宮川進さん。17歳の時に小さな土器の破片を発見して以来、歴史ロマンに魅せられ、来月2月8日で86歳に! その探究心は、ますます旺盛です。
「埼玉の古墳めぐり 謎とロマンの70基」(さきたま出版会)
https://sakitama-s.com/books/classification/history/entry_3037/
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