【板垣李光人が取材】地震で存続危機も……「能登上布」唯一の織元、伝統を守る思い 前を向くベテラン職人の“心の支え”は
日テレNEWS NNN / 2024年6月22日 10時0分
上質な麻織物として知られる、石川県の文化財「能登上布」。1月の能登半島地震で、唯一の織元が大きな被害を受けました。伝統を守ろうと奮起した織元や前へ歩き始めた職人を、俳優で『news zero』パートナーの板垣李光人さんが取材しました。
■今も傷跡が…古い木造家屋が残る町
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金沢から車で約1時間の場所にある石川・羽咋市。
板垣さん
「これだけ倒壊している建物が…。その時の被害の大きさや状況がすごく伝わってきます」
古い木造家屋が多く残るこの町には、今でも地震の傷跡がありました。
6月1日に訪れたのは「山崎麻織物工房」。石川県の指定無形文化財「能登上布」を製造する、日本唯一の織元です。手織りの麻の独特な素材感に、「雨絣」「雪輪」など雨や雪が多い石川県の風土を柄にしたのが能登上布です。
板垣さんはドラマや映画で着物に触れたことから興味を持ち、取材しました。4代目織元の姪でもある、久世英津子さんが迎えてくれました。
板垣さん
「軽いですね」
久世さん
「初めて持った時に、軽さに感動されるんです」
■真っ先に浮かんだ、伝統が途絶える不安
![](https://image.typeline.play.jp/74d83cb6d70c4499a51e0d516f73b40c/articles/12e2cea73b224e85998d2d2876068241/e926b2d1-2789-4300-8aee-a820342ac5da.jpg?w=550)
4代続くこの工房は、1891年に創業。今では、ここでしか作られていません。1月に起きた地震で大きな被害に遭いました。
久世さん
「築89年の古民家で、古い建物ですのでヒビが入っていたりとか」
板垣さん
「ダメージが見えていると不安ですよね」
久世さんは地震発生当時、自宅から工房に駆けつけ、被害を目の当たりにしました。余震が続く中、真っ先に思い浮かんだのは「このままでは伝統が途絶えてしまう」という不安だったといいます。
久世さん
「タテ糸を巻き取る、整経機と呼ばれる機械とかが全部倒れて。その光景を見た時は、このまま続けられないと思って…」
工房は、一時停止に追い込まれました。
■被災した織子たちが続々と工房に
![](https://image.typeline.play.jp/74d83cb6d70c4499a51e0d516f73b40c/articles/12e2cea73b224e85998d2d2876068241/d6a6f259-c669-465b-94c2-334072a7c6b5.jpg?w=550)
そんな中、久世さんの元に、さまざまな声やSNSなどのメッセージが届きました。
「地震に負けないで能登上布を守ってください」「これからも魅力を伝えてください」「次世代にも継承してください」「復活 応援してます」
多くの声に背中を押され、地震から10日後には壊れた整経機を応急処置。最低限、動かせる状態にしました。すると、同じく被災して大変な状況にいるにもかかわらず、織子さんたちが続々と工房に戻ってきてくれました。
久世さん
「道がしばらくガタガタで怖い状況の中でも皆さん来てくださって、ありがたく、感謝しています」
■久世さん「前に進んで行きたい」
![](https://image.typeline.play.jp/74d83cb6d70c4499a51e0d516f73b40c/articles/12e2cea73b224e85998d2d2876068241/b5383b5f-c0c0-44d5-ac52-d06c3d93f35c.jpg?w=550)
以来、必死で前を向いてきた久世さんに、今の思いを聞きました。
「目の前の景色が変わっていないということが、メンタルに残像としてずっと残り続けていて、しんどいというか…。だからこそ、職人さんの織ってくれる能登上布をこれからもっと大事にして、お客さんに伝えたいと思いました」
板垣さん
「1本1本にその思いが込められていく…」
久世さん
「とにかく後ろを向いたらあかん。前に進んで行きたいという思いがあるので」
■機を織る気持ちになれなかった織子も
![](https://image.typeline.play.jp/74d83cb6d70c4499a51e0d516f73b40c/articles/12e2cea73b224e85998d2d2876068241/f4641a4e-fd07-46e6-8952-bdd782ed61bb.jpg?w=550)
そんな久世さんの思いに触れ、少しずつ前に歩き始めた織子さんもいました。七尾市に住む、長尾和美さん。25年間、久世さんのところで能登上布を織ってきたベテランです。
七尾市は、特に大きな被害が出ました。もともと両親の介護をしながら働いていましたが、地震で自宅が被害に。余震の恐怖から、しばらくは車や納屋で暮らしてきました。つらい状況が続き、どうしても機を織る気持ちにはなれなかったといいます。
「危ないガラスとか見ると(地震を)思い出したり、自分ではどうにもできないので。皆さん一人ひとり、いろんな気持ちとかありますから」。長尾さんはそう振り返ります。
今でも、余震が起きると当時のことを思い出すといいます。それでも心の支えになったのは、日々少しずつ復旧していく工房の姿でした。
長尾さん
「(工房が)早い段階で再開しているのを見て、自分もすごく機を織りたいという気持ちが強くなりました。工房の女将さんや職人の方も皆さん一生懸命仕事をされているので、そこは見習いたくて」
■自宅で織り、工房に搬入する形で再開
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板垣さん
「長尾さんの心を突き動かすものは何でしょうか?」
長尾さん
「ワクワクドキドキする時間が機を織っている時間なので、それは大事にしたいです」
長尾さんは現在、自宅で機織りを行い、出来上がったものを工房に搬入する形で再開しています。
地震からまもなく半年。長尾さんは「あっという間です。これから(毎年)1月を過ごすのは今は恐怖でしかないですけれど、季節が進むと気分も変わりますし、勇気を持って1日1日を大事にしていきたいと思っています」と語りました。
(6月19日『news zero』より)
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