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【懲役18年】「連絡返して、おかしくなっちゃうよ」…裁判で語られた男の“執着"と娘を救えなかった両親の無念 鶴見女子大生殺人事件裁判 

日テレNEWS NNN / 2024年6月22日 8時0分

日テレNEWS NNN

横浜・鶴見のマンションで女子大学生が殺害された事件。殺人などの罪に問われた元交際相手の被告の男(23)に、6月21日横浜地裁は懲役18年の判決を言い渡した。横浜地裁は「自分の気持ちばかりを優先させた短絡的な犯行」などと指摘。これまでの裁判で明らかになったのは、男の女子大学生への“執着”と、別れを決意した娘を救えなかった両親の無念さだった。(横浜支局・久保杏栞)

■「何もできなかった…」“最愛の娘”を守れなかった父親の悔恨

冨永紗菜さん 遺族提供

「どんな時も味方になり、何があっても必ず守ると思っていた」

「どこにいても必要とされればすぐ飛んで行った」

「何もできなかった。僕は守れなかった。助けられなかった。」

「毎日あの日を思い出し、悔しさと悲しみが込み上げてきます。」(父親の意見陳述より)

2024年6月中旬、冨永紗菜さん(当時18)の父親は、法廷で涙ながらにそう語った。

大学生になったばかりだった娘の命が突然奪われたのは約1年前のこと。大学に向かう紗菜さんを車で送ろうと、いつもの場所まで車をまわすと、紗菜さんが血だらけになって倒れていた。すでに意識はなかった。近くには、トラブルになっていた元交際相手の伊藤龍稀被告(23)が包丁を持って立っていた。

■紗菜さんが伊藤被告の“束縛”に抱いた恐怖心

弁護側の冒頭陳述によると、紗菜さんと伊藤被告は、伊藤被告の一目ぼれで交際がはじまった。また父親の証人尋問によれば、2人の関係は紗菜さんの両親も知っていて、両親は伊藤被告をクリスマス会などのイベントごとに招くなどしていたという。裁判で伊藤被告は2人の関係について、付き合ってまもなくお互いを束縛するようになったと述べている。異性と2人きりで会ったり、必要以上に連絡を取ったりしない、位置情報を共有するなどといったルールがあったという。

一方、父親は紗菜さんがこうした伊藤被告の“束縛”を嫌がっていたと証言。女友達と遊ぶ紗菜さんのもとに突然伊藤被告がやってきて、紗菜さんを無理やり連れて帰ることもあったという。紗菜さんは次第に伊藤被告に恐怖心を抱きはじめ、父親には「(伊藤被告とは)付き合ってはないけど一緒にいる」と話していた。

■事件1週間前に「もう完全に別れたい」…紗菜さんからのSOS

伊藤被告

2人の関係に大きな亀裂が入ったのは、事件の1週間前。きっかけは、伊藤被告が紗菜さんに車で送ってもらおうと頼んだのを断られたことだったという。腹を立てた伊藤被告は紗菜さんに暴力をふるった。助手席に座っていた紗菜さんの右肩を殴ると、ハンドルを動かそうとした紗菜さんの腕を強くつかんだ。車を降りようとした紗菜さんの背中を殴ると、抵抗してきた紗菜さんの腹を蹴ったという。紗菜さんはその場にうずくまったが、伊藤被告は気づかうことなく紗菜さんのスマートフォンを地面に投げつけた(被告人質問より)。

紗菜さんは車にバッグを置いたままその場から逃げ、警察に通報。連絡を受けた父親は急いで警察に駆けつけた。そのとき紗菜さんの腕にはあざができていたという。

「(紗菜は)もう完全に別れたいと言っていた」「別れるためにどうしたらいいかわからなかったようで私と妻に(伊藤被告から)来たメッセージを見せてどう返したらいいのか親に助けをもとめていたと思います」

父親は、伊藤被告を刺激しないように時間をかけて距離を取るようアドバイスした。

■「連絡返して、おかしくなっちゃうよ」

伊藤被告が乗っていた車

交際解消に向けて動き出した紗菜さんと両親だったが、簡単にはいかなかった。伊藤被告が拒み続けたからだった。検察側によると両親はまず、紗菜さんが伊藤被告の車に置いてきたバッグを返すよう頼んだという。バッグの中には自宅の鍵も入っていたからだ。紗菜さんの母親から連絡を受けた伊藤被告はこう返した。

「紗菜と会えるまでは厳しいです」「このまま終わるのはイヤです」

母親は「紗菜は少し時間が欲しいと言っている」「2人には今、時間と距離が必要」、そう言って諦めずに伊藤被告を説得した。

検察側によると、バッグはのちに返してもらったが中に入っていたはずの鍵はなくなっていたという。そして、紗菜さんのもとには伊藤被告から大量のメッセージが届くようになった。

「紗菜お願い、電話したい。うざくなったら途中で切っていいから」

「1分でいい、1分で強制終了でいいから。お願い神様」

「会いに行かないから連絡は取りたい。位置情報も共有して」

「男と会ってるんじゃないかって不安」

「連絡返して、おかしくなっちゃうよ」

紗菜さんは「そっとしておいて」などと返すと、伊藤被告からのメッセージを両親と共有。両親はしつこくても気にしないようアドバイスしていた。しかし、伊藤被告の“執着”はメッセージだけでは終わらなかった。

「紗菜、ずっと待ってるよ。店の横で3時間くらい」

父親の証言によると、“暴力事件”の直後には、伊藤被告が紗菜さんのアルバイト先に突然姿を現した。伊藤被告が来たことを紗菜さんから知らされた父親は急いで駆けつけた。店に入ろうとした伊藤被告の腕をつかんで制止。女性に暴力をふるうのはおかしいと伝え、病院に行って診察を受けるよう伝え、帰るよう諭した。

■娘を守るため... 被告の“執着”と向き合った両親

検察側によると、父親の忠告にも懲りることなく、伊藤被告からの執ようなメッセージは続いた。

「会えなくていい。電話しよう。」

「今日会えないならさすがに許さないよ」

「今日必ず家に行くから」

次第にエスカレートするメッセージに、紗菜さんは恐怖を感じていた。ただ、その執ような行動から父親が目を背けることはなかった。

「自分勝手に行動して、何も意味ないです。関わらないで」。

父親は伊藤被告にこうメッセージを送ると、再度病院に行くよう念押しした。しかし、この夜、伊藤被告の姿は再び紗菜さんのアルバイト先にあった。店内に入ると勤務中の紗菜さんに笑いながら手を振ったという伊藤被告。紗菜さんはおびえていたという。

紗菜さんから連絡を受けた両親はとっさに駆けつけた。紗菜さんに謝りたいと直接手紙を渡してきた伊藤被告。これで諦めてくれれば…そう願った両親は手紙を受け取った。

「会いに来ないで。こういう手紙を書かないで。連絡しないで」。

手紙を読み終わった伊藤被告に紗菜さんはきっぱり伝えた。

■「さなちゃんごめんね」…エスカレートした被告の行動

事件現場

「別れるくらいだったら包丁買って刺す、つか殺す」

「未遂で捕まったら紗菜がハッピーなだけでしょ」

伊藤被告が車内でこうつぶやく様子が、車のドライブレコーダーの記録に残っていたことを検察側は明かしている。伊藤被告は自宅近くのディスカウント店に向かうと包丁を万引きし、その包丁を持って紗菜さんの自宅へと車を走らせたという。

当時の心境について、伊藤被告は弁護側の被告人質問でこう述べている。

「諦めたんですが、もう一度話したい。普通にしたら無理、包丁で脅せば戻れる(復縁できる)と思いました」

伊藤被告は、家にあった紗菜さんの鍵を使い室内に入ると、寝ていた紗菜さんを起こした。紗菜さんは驚いた様子で部屋の外に移動し話をしたという。

父親によると、家に戻った紗菜さんは母親に報告。父親は連絡を受け急いで帰宅すると、伊藤被告の姿はすでになかった。「送って行く」―大学に行く時間が近づいていた紗菜さんに父親はそう声をかけたが、自宅のそばには伊藤被告がとどまっていた。

「帰ろうと思ったが、これ逃したらいつ会える?と考えてしまった」

「もうちょっと押せばよりを戻せるかな?と考える中で今までの思い出がよみがえった」

伊藤被告は、その「思い出」が殺意に変わったと述べている。「ここで(関係が)終わったら自分には何もない」などという気持ちと、耳にした紗菜さんの異性に関するうわさが、殺意に拍車をかけた。

「さなちゃんごめんね」

家から出てきた紗菜さんに背後からこう声をかけると、伊藤被告は包丁を手に犯行に及んだ。

■懲役が20年でも18年でも…

初公判時の伊藤被告 イラスト:宮脇周作

6月21日、横浜地裁は伊藤被告に懲役18年の判決を言い渡した。紗菜さんとの復縁が難しいとわかったことで伊藤被告が「悲しみ怒り、虚しさなど様々な感情からやり場のない思いを抱いたことは理解できる面もあるが、被害者を殺害する理由にはならない」とした。横浜地裁は「被害者に落ち度はない」とし、伊藤被告は「自分の気持ちばかりを優先させた」と非難した。

「毎日、ごめんねと無念の中で言い続けています」「お墓の前で手をあわせたいです」

伊藤被告は最終意見陳述でこう述べている。両親はどんな気持ちでこの言葉をきいたのだろうか。遺族は判決を受けてこうコメントしている。

「求刑通りの20年でも18年でも納得はできないです。」

■恋人への「嫌」…ためらわず専門機関に相談を

恋人間の身体的・精神的暴力=『デートDV』をなくす活動をする「NPO法人エンパワメントかながわ」の阿部真紀代表は、「被害者と両親はかなり相談し合えていて必要な対応はしていた」とした上で、「今回のような問題は特別なことではなく、誰しもが経験しうること。恋人に対して嫌なことが嫌だと言えなくなったり、嫌だと伝えてもやめてもらえなかったりしたら『デートDV』。遠慮せずに専門機関に相談してほしい」としている。当事者だけではなく、家族や友人など周りの人たちも、気づいたら積極的に専門機関に助けを求めることが大切だという。

また、「別れる決心をしたら、相手との連絡を完全に絶ち、身の危険を感じる場合は警察に相談し守ってもらうことが重要」だとした。

一方、「誰しもが交際解消を求められたら簡単に受け入れることは難しい」と指摘。伊藤被告も悔しさや寂しさなどの気持ちを誰かに吐き出すべきだったとし、助けてもらう必要があったとしている。

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