「生活できない」……沖縄の“崖っぷち”もずく漁 救世主は「ファーストペンギン!」のモデル “坪内方式”の革命で再建へ
日テレNEWS NNN / 2024年7月1日 10時4分
もずくと言えば沖縄県。うるま市のもずく漁師(36)は毎日6時間潜り、ほぼ休まず働いても年間所得53万円という過酷な状況にありました。これを打開しようと、各地の浜を再建してきた女性経営者に依頼。厳しい指導の下、“もずく革命”を進めています。
■愛するもずくで「食べていけない」
沖縄・うるま市。上空から見ると、エメラルドグリーンの海には長方形のものがいくつも広がっています。その正体は、張られた網に養殖されていたもずくです。農林水産省によると、もずくの収穫量(2023年)は全国の99.5%を沖縄県が占めています。
長いホースを巧みに操って収穫する、もずく漁師の東卓弥さん(36)。「この子たちに種を吐いてもらって」「今の時期の子たちっていうのは…」と、もずくを我が子のように愛します。
毎日約6時間、海の中を潜りっぱなしで駆け回りますが、収入面でも過酷でした。東さんは、去年分の確定申告の資料を手に「(年間所得)53万7300円って書いてあります。どう…どうする!?みたいな」と言います。
漁に使う道具やメンテナンス費が高騰していく中、もずく漁は利益が出にくくなっています。365日ほぼ休みなく働いても、手元に残ったのは53万円でした。
東さん
「生活ができない。借りていたアパート(の家賃)も払えなくなったので、どうにかしなきゃいけない。食べてもいけない」
■しつこい電話で“救世主”にアタック
このどん底な状況を変えようと助けを求めた先が、20代から全国の港を立て直してきたSENDANMARU代表の坪内知佳さん(38)です。崖っぷちの東さんは、ドラマで坪内さんを知りました。
東さん
「思いっきり(電話を)かけたのが(去年)10月」
坪内さん
「『電話が鳴りやまないんです』って事務員からの連絡が…」
東さん
「1日1回かけてたので」
坪内さん
「もう半泣きだったもんね。『もう、来てもらわんとどうにもならんのですよ!』って」
東さん
「首の皮一枚つながった」
1か月近く続いたという“しつこい電話攻撃”を受け、今年1月、坪内さんは沖縄の港の現状を目の当たりに。「これだけじり貧というか、最悪の状況になっている彼らを見て、沖縄の浜でこの浜を再建できたら、日本中やれない浜はないと思った」と振り返ります。
■手間暇かける“坪内方式”の中身
二人三脚の浜おこしが始まりました。注目したのは、鮮度を保つのが難しく希少な、とれたてのもずくを生で売ること。これまでは、とったもずくは最長で2年間長期保存ができるよう塩漬け。県外の加工業者に原料出荷し、消費者に届けていました。
坪内さんが編み出した“坪内方式”では、原料出荷する前に、早い時期から収穫をスタート。船上では常に海水に漬けておくことで酸化を防ぎます。
港に着くと、陸での仕事です。その日のうちに、手作業で丁寧にパッキング。手間暇をかけ、消費者まで全て自分たちの手で届けます。
■徹底的に“生”にこだわった新商品
東さんを船団長として、水産会社「沖縄うるま船団丸」が今年2月に立ち上がりました。東さんは「このメンバーで今までずっといたんで。大貧乏しているときも。ケンカはするんですけど」と笑います。
そして今年4月、その“生意気”なもずく漁師たちが徹底的に“生”にこだわった新商品「生粋海蘊(なまいき・もずく)」が生まれました。
取引先などを含めた試食会を実施。「とれたてのもずくは緑色になります」「できるだけ鮮度を保った状態」とアピールして提供すると、「茶色いのしか今まで見たことがなかったので、すごい衝撃」「めちゃめちゃうまい。全然違いますね」と好評でした。
■先走って営業し、注意を受ける場面も
今年4月、東さんの姿が東京都内にありました。「今から営業です。アポの電話初めてで、20件くらい電話して全部ダメで」。慣れないスーツ姿で初めての営業に挑みました。
時間配分がうまくいかず、次の営業先に遅刻する場面も。移動中の車内で「まず謝ることからですね…。まず『申し訳ありませんでした』って」と東さんは言いました。
またある時は、坪内さんに相談なく勝手に営業先に売り込みに行き、注意を受けました。「売りたい気持ちが先走って、先に売りに行っちゃおうとした」とのこと。
坪内さん
「私がダメって言ってんの。ダメよ! 隠れて行くって。本当にダメでしょ!?」
東さん
「はい…そうですね。反省してます」
坪内さん
「反省はいいんだけどさ…」
■怒られても「最高のもずくを届けたい」
坪内さんは東さんの印象について「我が道を行っちゃう。待てって言っても待たない。この15年やってきましたけど、過去一番のトラブルメーカーのわがまま男」と語ります。一方の東さんは坪内さんについて、「怖い」と漏らします。
坪内さん
「何が怖いの? 何がどう怖いの?」
東さん
「なんか、ぴりつくというか。悪魔が降りてきたみたいな」
どんなに怒られても、自分たちの手で最高のもずくを届けたい──。その思いが通じたのか、販売開始から2か月後には、今季のもずくはほぼ売り切れました。「売れました。今のところで2~3トンくらい」と東さん。売り上げは前年の1.5倍に増えたといいます。
■地域を盛り上げ…新たな取り組みも
東さんは今、もずくの“その先”を見据えた新たな取り組みを始めました。収穫の現場を体験できる生産地ツアーを本格化させることです。
東さん
「初めてなんで、本当に。漁師がまさか、こういうことをやるとは思わなかった。手元に届けるもずくがこういうものだと、自分たちの手で発信できる。その形を作ってくれた坪内さんにはすごい感謝です」
もずくで地域全体を盛り上げようと動き始めたばかりの「沖縄うるま船団丸」。東さんはこう話します。「ずっと下を向いて歩いていたところから、上を向いて登るようになって。そういった意味ではひとまず、一つの山は登ったかなって」
(6月28日『news zero』より)
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