【パリ五輪】難民選手団へ東京から贈るエール 「衣装」に込めた選手への願いとは
日テレNEWS NNN / 2024年8月7日 20時0分
かつてミャンマーからの政治難民として来日し、現在はファッションデザイナーとして活動する渋谷ザニーさん。ザニーさんは今回、パリオリンピックに出場している「難民選手団」のメンバーに、自らデザインした「衣装」を贈ります。東京からパリへ、エールとして贈られる衣装に込めた思いとは…。
■世界で活動するファッションデザイナー 難民として日本へ…
ファッションデザイナーの渋谷ザニーさん(39)。東京を拠点に上海、バンコク、パリなど世界各地で活動し、過去には総理大臣や国賓、皇族の服も仕立てた経験もあるという、一流デザイナーだ。現在は1歳6か月の子どもと妻と仲むつまじい家庭を築き、日本で暮らしている。
そんなザニーさんだが、今の人生を歩むまでに大きな困難があった。
ビルマ(現ミャンマー)では1988年、民主化を求める全国的なデモにより、26年間続いた社会主義政権が崩壊した。しかし、国軍がデモを鎮圧し、クーデターを起こす。ソウマウン国防相兼参謀総長を議長とする国家法秩序回復評議会(SLORC)が政権を掌握した。
両親が民主化活動家だったというザニーさんは、1993年、8歳の時に家族と日本へ亡命。政治難民として日本に来ることとなる。
■幼少期からともに過ごした“ファッション”が力に…
日本に来たばかりの頃は日本語も分からず、いじめられるのではないかという不安もあったという。そこで、心がけたのが、幼少期から好きだったという“ファッション”だった。毎日、自分で服にアイロンをかけ、毎週のように靴を磨く。身なりを整えることが当時のザニーさんなりの“いじめ対策”だったのだ。ファッション効果は大きく、言葉は通じずともクラスメートから一目置かれるようになり、人気者になっていった。
そして高校2年生の17歳の時、ザニーさんはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)で難民認定を受けた。
■31年間、過ごした東京 「渋谷は自分の人生を変えた場所」
2005年、東京・渋谷では若者のストリートファッションが次々と流行を生み、街中が「世界を代表するようなファッションスポット」だった。日本の大学に通っていたザニーさんは、渋谷センター街を拠点にモデルとして活動するようになった。雑誌や、街のアイコン的存在である「SHIBUYA109」のビルボードにも掲載されたことがあるという。
ファッションデザイナーとしての今の自分を形成したのは、紛れもなく「渋谷」という街があったから――
「(当時)UNHCRのオフィスは渋谷にありました。(自分の存在を)見つけてくれたのも渋谷センター街。当時の雑誌出版社も渋谷にオフィス構えていて、僕がビルボードに映った『109』も渋谷。初めてデザインの契約したのも渋谷でした!」
日本国籍を取得する際、名字を「渋谷」に決めたのも、それが理由だとザニーさんは語る。ザニーさんにとって渋谷という街は、必ず戻ってくる場所。“空母”のような存在だと話す。
■東京からパリへ…ザニーさんこだわった“心の贈り物”
ザニーさんの人生に寄り添ってきた「ファッション」。いつしかそれは、仕事になっていた。現在はファッションデザイナーとして世界を股にかけ、活動するザニーさん。現在、行われているパリオリンピックを、ある特別な形で応援しようと考えている。
今回のパリオリンピックには「難民選手団」が出場している。リオデジャネイロオリンピック、東京オリンピックに続き、今大会で3回目の出場となる難民選手団には、過去最多となる37人の選手が参加する。ザニーさんは「難民選手団」の団長を務めるマソマ・アリ・ザダさんに、衣装をプレゼントすることになった。ザダさん自身もアフガニスタンからの難民だ。
衣装の色は、淡いピンク。アフガニスタンでよく知られているという「アフガンライラック」という花を彷彿(ほうふつ)とさせる色にした。また襟元には、ミャンマーの少数民族が職業訓練の際に作ったという貝殻でできたお花型のボタンをあしらった。ザニーさんこだわりのポイントの1つだ。
■衣装に込めた思い…難民を知る自分だからできる応援を
東京からパリへ、エールとして送られた衣装には、元難民のザニーさんだからこその思いを込めた。
「政治難民というバックグラウンドを持った自分が、自身の個性を保つのに手助けしてくれた『ファッション』を使って応援したい」
戦争や紛争が絶えない今の世界情勢の中でも、晴れ晴れとした気持ちでいられるよう思いを込めて仕立てたという。
また、ザニーさんは「難民選手団」がオリンピックに存在していることについても、こう話す。
「難民選手団がオリンピックに出なくなる… 個々の国で、自分が望む国家や国旗のもと出場するということが理想です。今回が3度目(の出場)で最後であってほしいんです。それが僕の思いです」
難民選手団の選手1人1人が、自国を背負い、国を代表して大会に参加できる――そんな世界を望んでいると語った。
◇◇◇
ザニーさんは現在、故郷ミャンマーの学校、数百校にサッカーボールを贈るなどスポーツ支援を行っているという。
「スポーツって贅沢品なんですよ。スポーツって人権、権利じゃないんですよね。“スポーツを楽しめる日常”というものが、平和の象徴だと思います」
戦争下で開幕したパリオリンピック。1人でも多くの選手が自国を背負って出場できる…そんな平和な世界を願って、ザニーさんはほほえんだ。
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