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ウクライナ 子どもの心癒やす“リハビリキャンプ” 親と死別 遊びや語りを通じ「また人生を楽しめるように」

日テレNEWS NNN / 2024年9月28日 16時10分

日テレNEWS NNN

ロシアによるウクライナ侵攻は開始から2年半が経過し、民間人の死者は国連機関が確認しただけで1万1520人(2024年8月発表)、ウクライナ軍の戦死者は今年2月にゼレンスキー大統領が3万1000人にのぼると発言している。こうした中で、親を失った子どもの心のケアを行うキャンプ「Gen.Camp」が民間団体により継続的に開催されている。21日間の期間中、カウンセリングや様々な遊びを通して心の傷を癒やし、「子供らしさ」を取り戻すことを目指している。

今年6月、NNNはウクライナ西部で行われたキャンプを取材した。なお、子どもたちへのインタビューにはキャンプの心理学者が立ち会った。(国際部・坂井英人)

■受け入れられない突然の死別 語りを通じ“現実に気付く”

キャンプに参加した子どもたち

今回のキャンプに参加したのは6歳~16歳の子ども50人で、これまでにのべ450人が参加した。国連機関などから出資を受けていて、参加費は無料だ。

キャンプの心理学者によると、あまりにも突然の死別を現実として受け入れられず「親の死を悲しむこと」ができない子どもが多いという。そうした子どもたちは、個人やグループでのカウンセリングを受け、他の子の体験を聞いたり、自身について語ったりすることを繰り返す中で、徐々に親の死という現実に「気付いて」いくというのだ。

心理学者・ワヌイ氏

「(親の死という)現実を理解したとき、難しい感情に直面します。深い悲しみや怒りが入りまじり、誰とも話したくないと思う子もいます」

「この感情がやがて薄れると、癒やしのステージが始まります」

段階を経て、親の死を自らの歴史の一部として受け入れていく。こうして気持ちを整理することで、子どもらしく遊びを楽しんだり、将来の夢を描くことが可能になるという。

■父を語る笑顔は「精神の防衛的なメカニズム」

両親とおじを亡くしたアンドリーさん(12)

アンドリーさん(12)は軍事侵攻が始まった直後の2022年3月、チェルニヒウ州内を両親・おじとともに避難している最中にロシア軍の車列に遭遇した。

突っ込んできたロシア軍戦車がアンドリーさんたちの乗る車を押し潰して破壊し、去り際に燃料タンクに発砲して火をつけた。直前に車から出されたアンドリーさんだけが生き残った。今回が2回目の参加で、感情的にマヒした当初の状態から回復し、現在は両親のことを「いい思い出」と振り返ることができるようになった。

ロケット弾で父を亡くしたイワンさん(14)

南部・ザポリージャから来たイワンさん(14)の父親が亡くなったのは取材のわずか2か月前、今年4月のことだった。

勤務していたガラス工場にロケット弾が直撃したという。それにもかかわらず、イワンさんは淡々と、時には笑顔も交えて父親について語ってくれた。担当の心理学者は、こうしたふるまいを「内面の弱さを守るための、精神の防衛的なメカニズム」だと分析している。カウンセリングでは感情に向き合い、「父の死を悲しむ」プロセスを始めることに取り組んでいるという。

■「前は『楽しいふり』をしていましたが、今は本当に…」

志願兵の父を亡くしたアナスタシアさん(11)

アナスタシアさん(11)の父は志願兵として軍に入り、激戦地だったバフムト近郊で2023年5月に戦死した。葬儀の際、母親には家で待つように言われたが、行くといって譲らなかったという。「ママを一人にしたくない」と思ったからだ。キャンプでの時間を経て「前は『楽しいふり』をしていましたが、今は本当に笑っています」と笑顔を見せた。

両親と祖父母を亡くした兄・ドミトロさん(16)と、妹・アナスタシアさん(11)

北東部・ハルキウ州のフロザ村で暮らすドミトロさん(16)と妹・アナスタシアさん(11)は2023年10月、ロシア軍のミサイル攻撃で両親と祖父母を失った。ミサイルが着弾した村のカフェでは戦争犠牲者の追悼集会が行われており、50人以上が死亡している。

妹のアナスタシアさんにやりたいことについて聞いてみると「引っ越したい」と答えた。具体的に行きたい場所があるのではなく、「環境を変えたい」のが理由だと話した。2人は両親と祖父母を失った村で今も暮らしている。アナスタシアさんの「環境を変えたい」という言葉には、彼女がこれまで感じてきた辛さと閉塞感が凝縮されているようだった。

■喪失を経験した子どもが「また人生を楽しめるように」

キャンプを企画したレベデワ氏(左)と参加者の子ども

キャンプは親との死別という心の傷を癒やし、子どもらしい日々を取り戻すことを目標にしている。キャンプを企画したGen.Ukrainianのレベデワ氏は、究極的にはこうした傷をなかったことにはできず、「奪われた子ども時代は戻ってこない」としたうえで、それでも活動には大きな意義があると力を込めた。

レベデワ氏

「喪失を経験した子どもたちとの2年間の経験から分かったのは、彼らが子どもらしい積極さを取り戻すことは可能だということです。(戦争の)影響を減らし、彼らがまた人生を楽しめるようにしたいのです」

■親愛なる日本の人々へ 取材したウクライナ人コーディネーターの思い

最後に、今回の現地取材を担当したNNNの現地コーディネーターであるビタリー・ジガルコ氏が寄せてくれたメッセージを紹介する。取材者として、1人のウクライナ人として率直な思いをつづった彼のメッセージが一人でも多くの人の心に届くことを強く願う。

撮影を担当したカレン・メスロピャン氏(右)
現地で取材したビタリー・ジガルコ氏

【ビタリー・ジガルコ氏のメッセージ】

私たちがGen.Campを訪れたのは日差しの降り注ぐ暖かな夏の日でした。そこではロシアがウクライナの土地で始めた戦争のため、親を失った子どもたちが参加していました。

戦争のために、子どもたちは片方の親を失うか、両親を失って孤児となりました。ロシアは子どもたちにとって最も大切な存在である家族や親を殺したのです。

子どもたちに、親の死について話を聞くことは私にとって本当に困難なことでした。

私の心を強く動かしたのはアナスタシアの答えです。

彼女の父親は戦争で死に、遺体が運ばれ、葬儀が行われることになりました。アナスタシアの母は彼女に家で待っていたほうがよいと言いましたが、アナスタシアは父の葬儀に参加すると言って譲らなかったのです。

私が「なぜ葬儀に行くと言ってきかなかったのですか?怖くはなかったのですか?」と聞くと、彼女は答えました。「ママを1人にしたくなかった」と。

この答えを聞き、私は涙がこみ上げ、言葉に詰まりました。

残念ながら、戦争は子どもたちを猛烈な速さで大人にしてしまいます。残念ながら、戦争は彼らの「子ども時代」を奪い、魂と精神にトラウマを植え付けるのです。

ウクライナはロシアの侵略に2年半以上、抵抗し続けています。ウクライナ人は自らの土地で自由に、独立して生きることを求めていますが、そのためにウクライナ人が払っている代償はとても大きいのです。

多くの子どもたちが父や母を抱きしめることができなくなり、そして残念ながら、多くの親たちが子どもを抱きしめられなくなりました。こうした人々はこれからも増え続けるでしょう。

私は日本の人々に強く願いたい。この記事を読み、動画を見て、戦争が1日ごとにウクライナの子どもたちを孤児にし、親たちが最も大切にする存在である我が子を奪っていくという事実を知ってほしいのです。これは言葉で説明したり表現したりすることのできない痛みです。

親愛なる日本の人々へ、平和を愛し、家族と過ごす時間を愛してください。これらは皆さんにとってしばしば当たり前のことに思えるかもしれません。しかし我々ウクライナ人にとっては、これこそが何よりも心から願う夢なのです。

(※年齢は全て2024年6月の取材時)

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