【皇室コラム】「東南アジアとの架け橋に」 天皇皇后両陛下に会って来日を決意したインドネシア人女性
日テレNEWS NNN / 2024年10月5日 8時1分
去年の6月、インドネシアを訪問された天皇皇后両陛下と話をしたことで日本行きを決意し、この春から長野県松本市で働き始めたインドネシア人女性がいます。
メリー・クリスティナさん(24)。長野県を中心にバスや鉄道を運行するグループの旅行部門「アルピコ長野トラベル」で働く研修スタッフです。
去年のインドネシア訪問。両陛下はジャカルタ近郊の「ダルマ・プルサダ大学」を訪ね、日本語や日本文化を学ぶ学生10人と日本語で懇談されました。男子学生のひとりが好きなアニメを聞かれて「ナルト」と答え、天皇陛下が「私の名前はナルヒトです」「特に関係はないんですけれども」と返され、笑いに包まれた懇談です。
その懇談で2人目のメリーさんは、皇后さまから「日本に来たことがありますか」と聞かれ、3年生の時に1か月ほど日本のIT企業でインターンを経験し、日本の歌の翻訳をテーマに卒業論文に取り組んでいることを話しました。皇后さまは「卒論がんばってくださいね」、陛下は「これからも日本語を勉強して、夢に向かってがんばってください」と励まされたそうです。
懇談が終わって印象を聞くと、メリーさんは「最初は緊張しましたが、お二人の優しい話し方と笑顔に緊張が解けていきました。とっても光栄です」と、興奮がさめやらない様子でした。
あれから1年3か月。先ごろ松本駅前の営業所にメリーさんを訪ねると、企業から注文を受けたJRのチケットの発券に忙しそうでした。入社して半年、外国人旅行客の日程作りや添乗の補助、資料の翻訳、インターンシップの手伝いをしながら、さまざまな業務を学んでいるということでした。
3月末に松本へ来た時の気温は1度。赤道のインドネシアとは30度も違う温度差に不安もありましたが、北アルプスの山々を望む、落ち着いた雰囲気の松本の街が気に入り、間もなくやって来る紅葉の季節を楽しみにしているそうです。
日本との“接点”は、小さい頃にテレビで見た「ドラえもん」や「ちびまる子ちゃん」などのアニメ。日本の音楽やドラマ、映画が好きになり、高校の時に「日系企業が日本語のできる人材を求めている」と聞いて、大学で日本語を学び始めました。
会話は流ちょう、メールの文章も自然で、日本語のスキルはかなりです。日本の歌を歌って発音に慣れ、難しい漢字を覚えていったそうですが、「もっと日本語の力をつけないと仕事の会話についていくのは難しいです」となお前向きです。その仕事は丁寧で、真面目。先輩たちとの会話から期待の新人であることがわかりました。
メリーさんが日本で旅行の仕事を選んだ理由は明快でした。
「ずっとたくさんの人と出会える仕事がしたいと思っていました。旅の特別な時間に関わる旅行の仕事からも人との絆が生まれます。海外で働きたいと考えた時、日本でなら成長できると思いました。両陛下にお会いしたことで、日本に行く思いが固まりました」
令和の両陛下の外国親善訪問は、コロナ禍を経て、去年のインドネシア、今年のイギリスと回を重ね始めましたが、そこに強く感じられるのは、相互交流に向けて若い人たちに期待し、そっと背中を押される姿勢です。それはインドネシア訪問を終えた「感想」からよくわかります。
「日本語や日本文化など我が国に関心を寄せるインドネシアの学生・生徒さんや、インドネシアで暮らす日本の子ども達や若い人々と交流する機会を通して、両国の友好親善と協力関係における若い世代の可能性を感じました。若い世代の人々が、お互いの国に対する関心を深め、両国の相互理解と友好協力の一層の深まりに大きな役割を果たしていってくれることを期待いたします」
メリーさんはすでに自分の進む道を思い描いていました。
「日本の人でもまず会えない両陛下にインドネシア人の私がお会いできたことは、とても貴重なことだったと日本に来て知りました。あの体験を日本での仕事のモチベーションにして、日本と東南アジアとの架け橋になりたいです」
最近はインドネシアでメリーさんお薦めのスポットを案内するツアーを考え始め、将来は旅行の国家資格の取得も目指すそうです。
両陛下に接したダルマ・プルサダ大学の学生10人は、わかるだけで、卒業後に2人が日本で働き始め、2人が1年間留学して帰国しています。また、両陛下が訪問された職業専門高校では、150人が技能実習生として日本へ行くことを希望して順に送り出し、来春、2人が専門学校と大学に留学しようと準備しているそうです。日本で夢に向かって歩き始めたメリーさんの姿に、両陛下が播(ま)かれた“友好の種”の確かな成長を見るようで、とてもうれしい再会でした。がんばって、メリーさん!
(日本テレビ客員解説員 井上茂男)
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