倉本聰 89歳、伝えておきたい「常に心の中にある言葉」 “創る”極意~富良野ロングインタビュー
日テレNEWS NNN / 2024年11月16日 6時35分
テレビドラマ『前略おふくろ様』『北の国から』『やすらぎの郷』など、数々の名作を手がけてきた脚本家の倉本聰さん(89)。高倉健さん主演の『海へ ~See you~』以来36年ぶりとなった新作映画『海の沈黙』の公開を前に、北海道・富良野のアトリエでロングインタビュー。約70年にわたり書き続けてきた“創る”原動力や、若い世代を含めて伝えておきたいという“常に心の中にある言葉”などを語ってくれました。
■原動力は“怒り”のエネルギー
――約70年にわたり書き続けられた原動力はなんですか?
原動力って言えるかどうかわかんないけど、自分の体内のエネルギーですね。だいたい怒ることが多いので自分の性格的にも。怒りを抑え込んで、それをエネルギーにして書くということが、今までの創作習慣としては強いですね。
――何に対しての怒りですか?
いろんなものに対してです。もちろん世間一般に対してもそうだし、人間に対してもそうだし、政治に対してもそうだし、社会に対してもそうです。怒りっていうと、腹が立った怒りって単純に思われるでしょうけども、いろんな怒りがありますからね。自分に対する怒りもあるし。何をバカやってるんだっていう怒りもあるし、あらゆるものに対する怒りですよね。
■“海抜ゼロ”から根本的に考える
――倉本さんの思考法“海抜ゼロから考える”とは
我々ともすると社会のレベルでね、表面的なことで怒ってみたり、歩みを考えてみたりしちゃうんだけど、もっと根本的なところで考えようよっていう。だんだん世の中で暮らしてると、流されちゃうっていうかな。あるレベルでいいかげんに物事を見ちゃったり判断したり、そういうふうになっていくわけですよね。ですから、そういうものを拒否して、もっと一番その原点に立って物は考えるべきじゃないかということですね。
“海抜ゼロ”っていうのは常に思ってますけども。例えば、そもそも書くって何だろうか。そもそも国って何だろうか。そもそも俺はどうやってここに今、なぜここにいるんだろう。そもそもってことですよね、海抜ゼロっていうのは。
■創作活動で一番大切にしていること
――創る時に一番大切にしていることは何ですか?
利害関係を持たないことですね。何かこれ誰かのためになるとか、これを書くとどう得をするとかね。そういったことの考えを、たぶん僕にとっては邪心というものなんだろう。それをなくすということは一番でしょうね。
――それは難しいことですか?
難しいです。意外と難しいです。
■倉本聰さん “ 常に心の中にある言葉”
インタビューの最後に、倉本さんに若い世代を含めて伝えておきたい言葉を色紙に書いてもらいました。
「森の時計はゆっくり時を刻む」と書いたんですけど。つまり人間の時計はどんどんスピードが速くなってる気がするんですね。こんなにスピードが速くなっちゃうと、新幹線に乗っていたって、ホームから駅の名前が見えないでしょ。だから今の新幹線に乗ったら、芭蕉は俳句が作れなかったと思うんですよ。
これでリニア新幹線なんかできて、もっと速くなるでしょ。1時間早く名古屋に着いて何をするんですか。パチンコするんですか。ここら辺がわかんないんですよね。もう少し長く書けば、「森の時計はゆっくり時を刻むけど、人の時計はどんどん速くなる」って書くこともありますね。
――人の時計がどんどん速くなって本当にそれでいいのか、立ち止まって考える大切さでしょうか?
そうですね。ちょっと立ち止まるんじゃなくて、長く立ち止まって、じっくり考えなさいっていうことですよね。
構想60年。倉本さんが「どうしても書いておきたかった」と力を込める物語『海の沈黙』が映画化(11月22日全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ)。きっかけのひとつは、1959年に国の重要文化財に指定された永仁時代(鎌倉時代)の作とされる瓶子が、実は明治生まれの陶芸家の作とわかり重要文化財指定を解除された『永仁の壺事件』。倉本さんは永仁時代の作でないと判明した途端に価値がなくなる風潮にずっと納得がいかなかったといいます。
主人公の孤高の画家を本木雅弘さん(58)が演じ、小泉今日子さん(58)、中井貴一さん(63)、石坂浩二さん(83)ら豪華な俳優が集結。美とは何か、権威とは何か。もし目の前の絵が人気画家のものではないとわかった時、あなたの評価は変わるのか。1枚の“贋作”(がんさく)から浮かび上がる人間模様、大人のラブストーリーを通して、“本当の価値とは何なのか”を現代に問いかけます。
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