性的マイノリティーの人が生きやすい環境作り 企業ができることは?
日テレNEWS NNN / 2024年11月18日 20時58分
性的マイノリティーの人が働きやすい環境を作るため、企業などができることを考えるイベントが11月14日、東京の経団連会館で行われました。
毎年開催されているwork with Prideというイベント、今年は「企業から変える。」というタイトルのもと、企業の人事担当者や性的マイノリティーの当事者らが集まり、企業の取り組みや社会のあり方などを話し合いました。
冒頭には、歌手で作詞作曲家、役者の中村中氏(トランスジェンダー女性)が登壇し。最近、テレビドラマの現場では、性的マイノリティーの役がある場合、専門家が入り、表現などを監修することが多いと話しました。そして専門家の導入にとどまらず、現場にいる1人1人が性的マイノリティーへの理解をしていくことが必要ではないかと述べました。
また、中村氏が知人で性的マイノリティーの人が、ある会社の採用に際して、取引先に理解してもらえるかわからないといった理由で不採用になったと話すと、聞き手を務めたwork with Pride代表理事・松中権さんは「今日のテーマでもあるが、取引先含め、企業の協働で、社会を変えていくことが必要だ」と訴えました。
次に、日本テレビの取締役執行役員の山田克也氏と日本文学研究者のロバート キャンベル氏のトークセッションも行われました。山田氏は「自分の性的指向を言わないのが当たり前の人生になっていた」が、日テレのカラフルウィークエンドという多様性を考えるキャンペーンのリーダーを務めた際「一生懸命議論して番組を作っている仲間に、自分の当事者性を言わなくていいのかな」と思い、カミングアウトしたと語りました。
そして、以前、夕方のニュース番組立ち上げの際「ミンナが生きやすく」というキーワードを掲げたことについて、性的マイノリティーなどとカテゴライズされていなくても、何らかの生きづらさを抱える人もいて、そうした人たちが生きやすい社会はマジョリティーにとっても生きやすいはず、と考えたと説明しました。そして山田氏は「今後も今までと同じスタンスで仕事をしていきたい」と述べました。
キャンベル氏が「日本に足りないのは、性的マイノリティー当事者がその属性を持ったままで、特に(理解促進などの)活動をしないで、近所で、企業で、生きていること。そういう姿が見えないと、周りには、そうした人はいないと思わせてしまう」と話すと、山田氏は「多くの人は(性的マイノリティーだとは)言えない。取引先を含めて、気持ちが伝わっていくような環境作りの一端を担うのが企業の役割ではないか」「うちの取締役にもゲイの人がいますよ、と会話に出てくるくらいになるといい」と思いを語りました。
■企業の取り組みは…
次に企業の事例報告のセッションでは、トランスジェンダー当事者でもあるJR東日本の佐川海氏が、職員用の休養室は、(大部屋ではなく)現在はホテルタイプ(個室)が整備され、制服も男女の性差がないと報告。同性カップルも社内制度適用の対象になると説明した上で、「制度があるのは嬉しいが、申請時にカミングアウトする必要がある。システムとして難しいだろうが、カミングアウトが少なくて済む仕組みやカミングアウトを壁と感じないような風土作りをしてもらえると当事者としてはありがたい」と述べました。
dentsu Japan DEIオフィスの杉山優氏は当事者として、社内制度を同性カップルにも適用すると聞いた時は「涙が出るほど嬉しかった。でも上司や同僚に隠すため、感情を出せず複雑な気持ちだった」と当時の思いを吐露。「初めて自分の存在を認知してもらえたと感じた。この会社にいてもいいんだと初めて思えた」と述べ、制度創設が心理的安心性にもつながると語りました。
そして取り組みとしては、社内研修で当事者従業員に登壇してもらうことを大切にしていて、「うちの部署には、LGBTQの人はいない、などと言われるが、周りに当事者がいるんだと可視化されると一気に自分事になる」と説明しました。
そして「企業は性的マイノリティー向けに制度を作っても利用者が少ないと嘆くが、めげないでほしい。今の日本ではオープンにできない空気があるし、パートナーが親にカミングアウトしていないなど、様々な事情がある。でも、制度ができることは、経営層からの大きなメッセージであり、当事者には励みになる」と訴えました。
P&Gジャパンの市川薫氏は、性的マイノリティーに特化せず、汎用性のある制度で柔軟に対応していると報告しました。たとえば、性別適合手術を受けるので休むというよりは、普通に休暇がとれるようにしている、とし、上司に相談しやすい環境作りのため、管理職への研修などソフト面の充実を計っているということです。
さらにアライ(性的マイノリティー当事者ではないが支援する人)を増やすため、社員研修の際「LGBTQの人は左利きと同じぐらいの割合でいる」などと伝えるとともに、研修後のアンケートに「アライとして活動に参加したいか」という欄を作ったところ、びっくりするほど参加希望がいたということです。
そして、社内でアライが自発的に色々なプロジェクトを立ち上げ、業務の一環としておこない、人事評価にもつながると述べ、ボランティアではなく業務としているのは、会社の経営戦略として取り組んでいるからだ、と解説しました。
一方、dentsuではアライと当事者の活動は業務とはしておらず、最近はスケジュール表が部内に共有されるため、活動のグループ名を、LGBTQ関連とわからないものにするなど配慮しているということです。JR東日本でも、業務外で当事者が集まる機会を作っているが、開催時期を公表すると、そのタイミングで休みを申請した場合、職場の人に知られる恐れがあるため、申し込んだ人にのみ日程を伝えているということです。
■企業がなすべきことは
次のセッションではパナソニックコネクトの山口有希子氏が「企業は従業員がいきいきとパフォーマンスできる環境作りに取り組まなくてはいけない。そして、社会にインパクトを与えることができる。企業は(多様性推進の)活動を経営戦略として、必要だからやるのであり、クレームには動じないという意思の強さがないと継続は難しい」と述べました。
そして、トップ1人の思いでなく「複数の経営者の責任として、システムを含め、多様性を認めるカルチャーを作ることが大切。そのためには、常日頃から、一生懸命続けるしかない。さらにそれを内外に開示して、皆で学び合う姿勢が大切だ」と語りました。
一般社団法人fair代表の松岡宗嗣氏は「企業側が当事者の思いを知ることや専門的な知見を集めることが重要だ。性の多様性への批判や差別、偏見のような意見が寄せられた場合でも、知見があれば、この意見は受けとめるけど対応はしないなど判断できる。知見が企業内のカルチャーに染みこんでいると経営陣が動じないのではないか?また性的マイノリティー当事者が企業の経営や企画立案にかかわれる立場になっていくと変わっていくのかもしれない」と述べました。
さらに「大統領選挙の取材でアメリカに行っていたが、トランスジェンダーへのバッシングが激化し、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)への逆風が吹き始めている。生活や企業活動も政治と無関係ではなく、つながっている。1人1人が安全に生きられるため、何ができるかに立ち返り、様々な人権を守っていきたい」と話しました。
■PRIDE企業認定とは
このイベントを主催した一般社団法人work with Prideは、LGBTQの人々が自分らしく働ける職場づくりを進めるための情報を提供する団体で、2016年には「PRIDE指標」を策定しました。指標には、企業として性的マイノリティーに関する方針を明文化し公開している、このテーマで意見交換する社内コミュニティがある、全従業員への研修、社内制度整備など様々な項目があり、応募してきた企業などのうち、これらの項目を満たした場合に認定しています。
今回は、一番厳しい条件を満たした「ゴールド」認定が、日本テレビ含む823社、次に厳しい「シルバー」81社、「ブロンズ」53社、「ゴールド」の企業で、さらにセクターを超えた協働を推進している「レインボー認定」は36の企業・団体などと発表されました。
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