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「がん治療」に新たな光も…最新“iPS研究”山中伸弥教授が解説 「my iPS」で拒絶反応と費用の壁解消へ【バンキシャ!】

日テレNEWS NNN / 2024年11月25日 10時57分

日テレNEWS NNN

日本人の死因のおよそ4分の1をしめる「がん」。がんの中には治療が難しいものもある中、iPS細胞を使った新たな治療の研究が行われています。「バンキシャ!」は今回、iPS細胞の生みの親であり、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授に、最新のプロジェクトなどについて、解説していただきました。

 ◇◇◇

そもそもiPS細胞とは、皮膚や血液の細胞からつくられ、体の様々な細胞に変化することができる「万能細胞」ともいわれる存在です。生みの親である山中先生は、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

このiPS細胞を使って、いま、パーキンソン病、重い心不全、脊髄の損傷、そして、抗がん剤が効きにくい一部のがんなど、これらの病気を治そうとしています。これらは、すでに臨床試験などで実際に患者への効果の確認が始まっているものです。

桝 太一キャスター

「実用化へ向けて今、さまざまな研究が進められているのでしょうか」

山中伸弥教授

「たくさんの研究者や企業と協力して、頭から足まで全身のあらゆる病気やケガの治療法の開発を進めています」

松丸亮吾さん

「心臓や脳は難しそうなイメージがありますが、特に難しい細胞はありますか」

山中教授

「基本的にどういった細胞もできるようになっていますが、体の中にある細胞と全く一緒というところまではできていない場合が多いですね。そこが各研究者の腕の見せ所、研究が進められています」

後呂有紗アナウンサー

「『卵巣明細胞がん』は女性特有のものですが、乳がんや子宮がんなどの『がん』の研究は進んでいるのでしょうか?」

山中教授

「いろいろながんに対するいわゆる免疫療法、免疫細胞でがんをやっつける、その免疫細胞をiPS細胞からつくるという研究開発が、ものすごい速度で世界中で進んでいます」

 ◇◇◇◇

いま「がん」の話がありましたが、山中先生に聞く「最新プロジェクト」の1つ目が、日本人の死因のおよそ4分の1を占める「がん」についてです。その治療に新たな光か――。

がんの中には治療が難しく、新たな治療法の登場が期待されているものもあります。そこにiPS細胞を応用しようという研究を特別に桝キャスターが取材させていただきました。

今回、京都大学iPS細胞研究所を案内してくれるのは、iPS細胞を使ったがん治療研究のトップランナー、金子新教授。向かったのは――

金子新教授

「ここが培養室になります」

桝キャスター

「緊張感のあるものが張られていますけど」

この先で、新たながん治療の研究が行われている。金子教授の指導のもと、入室前にカメラなどの機材を除菌シートで拭き、手袋・マスクをつけて、いよいよ中へ。そこで桝キャスターが見たものは――

金子教授

「この中に“がんと戦う免疫細胞”が入っています」

桝キャスター

「オレンジ色の液体の中に、つぶつぶの細胞がいっぱい入っている?」

金子教授

「免疫細胞、Tリンパ球(=T細胞)です 」

この液体を顕微鏡で見たときにうつった黒い部分が、iPS細胞からつくったT細胞のかたまりだ。

金子教授

「がんであったり、外敵と戦ってやっつけてくれる細胞になります」

実際にT細胞ががん細胞と戦う映像を見ると、黒いT細胞が緑色のがん細胞を攻撃している。すると、がん細胞の1つがT細胞に倒され黒に。同時にT細胞は力を失い弱ってしまう。この弱ったT細胞を“復活”させようというのが、金子教授らの研究だ。

iPS細胞を使った新たながん治療とは――

1.患者本人からがん細胞と戦う“T細胞”を取り出す。戦ったあとのT細胞は、弱っている状態だ。

2.これに手を加えiPS細胞にすることで、若返らせる。

3.そして、それを増殖させたあと、

4.再びT細胞へと変化させる。元気に生まれ変わった大量のT細胞を患者に戻し、がん細胞と戦わせるのだ。

本来の力を取り戻したT細胞は、がん細胞だけを次々とつかみ、倒していくようすが映像からわかる。弱ったT細胞との違いは一目瞭然。

桝キャスター

「がん治療というと、抗がん剤や放射線が思い浮かびますけど、それとは違うアプローチ」

金子教授

「放射線、抗がん剤、手術。それは以前、3本柱と言われていました。いまは免疫を使った治療が“4本目の柱”だと言われています」

 ◇◇◇◇

桝キャスター

「再生医療というイメージが強かったiPS細胞が、こういう応用もあるんですね」

山中教授

「この10年くらいで一気に注目を浴びています」

桝キャスター

「山中教授がiPS細胞を発見された当時は、こういった応用のされ方を想像していましたか」

山中教授

「2007年にiPS細胞を発表した当時は、免疫療法が科学者の中でもそれほど注目されていませんでした。本庶先生によるオプジーボという薬の登場から、一気に“第4の治療”と言われるようになり、そこでiPS細胞をがんの免疫療法に流用しようという研究者が増えました。金子先生(教授)は、世界のトップを走る研究者の一人です」

松丸さん

「僕自身、10年以上前に乳がんで母親を亡くしています。当時は、まさに3本柱でしたが、あのときiPS細胞を使った治療法があったら命が助かっていたかもしれないと考えると、いまがん闘病中の方たちにいち早く届けたいという思いになります。そのために、なにが必要となるんでしょうか」

山中教授

「iPS細胞だけでなく、免疫療法はいままで治せなかった多くのがんを治せるようになる可能性があります。そんな時代がすぐそこまで来ていると思います。早いものは5年後、10年後を目指して各企業が頑張っています」

後呂アナウンサー

「治療費はどうなっていきそうでしょうか」

山中教授

「そこは大きな問題となっています。治療費がどんどん高くなるため、なんとか低く抑えて誰でも受けられる治療にするため、いろいろな活動をしています。その一つとして私たちは『iPS財団』を作りました。治療用のiPS細胞をできるだけ、良心的な価格で企業に提供することを使命としています」

 ◇◇◇◇

iPS治療を誰でも受けやすくなるための最新の研究が進められています。そこで「最新プロジェクト」2つ目のテーマ、治療は自分のiPSで、「my iPS」とは?

そもそも、現在、患者に移植されているiPS細胞のほとんどは、本人のものではないドナーの細胞から作られたものが使われています。

ただ、課題となっているのが、

1.自分の細胞でないため、どうしても拒絶反応が起こってしまう可能性が拭えない。

2.自分の細胞でiPS細胞を作ろうとすると、これまで半年という期間と5000万円のコストがかかった。

この2つの壁を同時に解消しうるのが、開発中の自動培養装置を使った「my iPSプロジェクト」です。

山中教授

「いま行われている臨床試験のほぼすべては、私たち財団から提供したドナーから作ったiPS細胞を使って行われていますが、どうしても患者の状態や移植の部位によって拒絶反応が起こる可能性があります。my iPSプロジェクトでは、患者自身から採血して、そこから自動培養装置で自身のiPS細胞を作ろうというものになります」

「5年前ぐらいの技術ですと、一人のiPS細胞を作るために半年ほどの時間と5000万円ぐらいのコストがかかりましたが、そこをおよそ1か月、100万円程度で作ろうというプロジェクトが完成に近づいています」

松丸さん

「治療としても現実的になってきていますね」

山中教授

「病気の種類や患者さんの状態によっては、既にあるiPS細胞で十分な場合も多いです。ただ、特殊な免疫型などではmy iPSが良い場合がありますので、そういった方には良心的な価格でご自身のiPS細胞を提供しようというふうに考えています」

後呂アナウンサー

「この培養装置が完成したら、誰でも自分のiPS細胞の治療を受けられるようになるんですか?」

山中教授

「my iPSが必要な場合においては、この装置で作ることになります。ただ必要ない場合には、既にあるもので十分な場合もあります。それらを使った方が価格を抑えることができるので、ケースバイケースで患者さんにとって、一番良いiPS細胞を国産で良心的な価格で提供しようというのが、iPS財団の使命となっています」

後呂アナウンサー

「新しいものというと、どうしても体にとって安全なのか不安を感じてしまう面もあるのですが」

山中教授

「どんな科学技術も両刃の剣、良い面も問題もあるので、大切なのは透明性高く、私たちが行っている研究活動を一般の方、患者さんに正確に、わかりやすくお伝えするということです。これはとても難しいことで、研究者ではなかなかできないので、この間を取り持つ仕事をするサイエンスコミュニケーターが今後、さらに大事となってきます」

桝キャスター

「最新の技術を作るのは科学者の方たちですが、それをどう受け入れていくかなどは、社会全体でルールを考えていくものですよね」

山中教授

「私たちは研究のプロではありますが、コミュニケーションのプロではない、別の仕事のため、そのためのプロが必要になってきますね」

松丸さん

「いまこの技術を必要としている人たちに届けるために、世間全体での正しい理解が大切だと思いました」

桝キャスター

「想像が膨らみますね」

後呂アナウンサー

「もしかして、寿命がどんどんのびていくということもありますか」

山中教授

「ある程度のびていくと思います。研究者によっては、500歳までいくのではないかと言っている人もいます。それはなかなか難しいと思っていますが、寿命というより健康寿命をのばすというのが私たちの目標となっています」

*11月24日放送「真相報道バンキシャ!」より

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