【解説】今の40代・50代の老後の年金底上げをどう実現?
日テレNEWS NNN / 2024年11月27日 7時15分
今の40代50代の人たちが将来受け取る年金額を底上げするために、どうするか、厚生労働省が検討しています。
■公的年金の仕組み
日本に住む人は、20歳になると年金制度に加入しなくてはならず、学生でも無職でも会社員でも、毎月決められた保険料を納めていて、こうして集められた保険料と税金をもとにして、高齢者などに毎月の年金が支払われています。
年金の制度は、働き方によって違っていて、会社員や公務員は厚生年金に入り、それ以外の人(自営業、フリーランス、フリーター、無職、学生など)は国民年金に入ることになっています。その2つの制度では、保険料や将来受け取る年金の額が違いますが、どちらも、保険料を必要な期間納めると、障害を負った時や高齢になった時に年金を受け取ることができます。
■物価や賃金が上がれば、年金も増えるが……
高齢者らが受け取る年金の額は、物価や賃金と連動して毎年度政府が決めています。(2024年度の基礎年金額は月に6万8000円、前年度よりも+1750円、+2.7%。厚生年金の人は、この基礎年金に加えて、働いていた時に納めた保険料に見合う年金額が上乗せされます)
しかし物価や賃金が増えるのと同じ割合で、年金がどんどん増えるわけではありません。保険料を負担する現役世代は、物価も上がり、納めるべき保険料も上がり続ける、となると大変なので、この世代の負担を増やしすぎないために、高齢者らの年金の上げ幅を物価や賃金が上がる率よりも少し低くする制度が導入されています。(ちょっと難しいですが、この制度は「マクロ経済スライド」といいます。)
これは若い世代の負担を抑えるためでもありますが、年金制度の中で、今の高齢者で資金を使いきってしまうのではなく、今の若い人たちが高齢になった時に年金をもらえるよう、必要な資金を残しておくためでもあります。
この「年金の増額を抑える」仕組みは、物価や賃金が上がる場合に使われますが、これまでデフレ経済(物価が下がる)の中では、しばらく使われないままでした。そのため、もともとの予定よりも、「年金の増額を抑える期間」つまり高齢者らに低めの年金で我慢してもらう期間が長引くことがわかっています。
■年金が低めの「我慢期間」が30年以上続く?
では、この「我慢期間」がどれほど続くのか、厚労省が試算したところ、会社員などが加入する「厚生年金」では、2026年度でこの期間が終わりますが、会社員のほか、自営業、フリーランスなど含め、条件を満たした加入者みんなが受け取る「基礎年金」については30年以上、「我慢期間」が続くということです。
つまり、今の高齢者に我慢してもらうだけでなく、今、40代50代の人も、年金を受け取り始めてから5年間や10年間、低めの年金になってしまうのです。特に老後に基礎年金しか受け取れない自営業の人や、会社員でも給与が低い人は老後にもらえる厚生年金が少ないため、基礎年金が低めの時期が長引くと、老後の生活が苦しくなってしまいます。
■元会社員の高齢者に約10年我慢してもらい、今の40代50代が受け取る年金を増やす?
そこで、厚労省の年金部会は、この「我慢期間」が30年以上続く状態を変えようと議論しています。
11月25日に議論されたのが、会社員らが過去に納めた厚生年金保険料の積立金の一部を使って、将来、会社員や自営業など皆が受け取る「基礎年金」を底上げする案です。
具体的には、今後約10年間、元会社員の高齢者には我慢してもらい、年金額の伸びを物価や賃金の上昇分よりも低く抑えます。そこで浮いた年金の資金を将来に回し、今の40代、50代の人が、高齢になり、年金をもらい始める頃に、基礎年金を底上げするのに使おうというのです。基礎年金は皆が受け取るものなので、この改正で基礎年金が増えれば、自営業者やフリーランスの人だけでなく、会社員も恩恵を受けられるということです。
年金部会では、多くの委員が「今の若い人たち、特に就職氷河期世代などが将来受け取る年金が低い状態は変える必要がある」などとして、この「基礎年金底上げ」の案に賛成しました。個人レベルでみると、自営業やフリーランスの人でも一時期、会社員として厚生年金保険料を納めていた人も多く、厚生年金の積立金を、会社員以外も含めたみんながもらう基礎年金の底上げのために使うことは問題ないといった意見も出されました。
しかし、課題もあります。実は、高齢者らに配る基礎年金は巨額で、保険料や積立金だけでは足りないので、基礎年金の半分は国からの資金(つまり税金)でまかなっています。将来受け取る基礎年金が増えるのは朗報ですが、基礎年金を増やすとなると、それだけ多くの税金が必要になります。厚労省の試算では、基礎年金を底上げする制度改正を行うと、たとえば2037年度には年間2000億円、2060年度には年間2兆5000億円もの税金がさらに必要になるということです。
厚労省は、どのようにこれを確保するか、増税が必要なのかなど、具体的な方策は示しておらず、年金部会では「これだけ巨額の税金を本当に確保できるのか」などと複数の委員が懸念を示しました。厚労省は、この改正だけでなく、いくつかのテーマを盛り込んだ年金制度の改正案を年末までにまとめる予定です。
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