齊藤工 児童養護施設を映画に 劇場では“手紙”を配布「できることが必ずある」
日テレNEWS NNN / 2024年12月19日 23時15分
齊藤工さんが企画・プロデュースを務めたドキュメンタリー映画『大きな家』(竹林亮監督)が20日、全国公開されます。「きっかけを生むことは、映画っていうものの責務なのかも」と語る齊藤さんに、映画に込めた思いを聞きました。
映画は、死別や育児放棄、虐待、経済的理由など様々な理由から、親元を離れて東京にある児童養護施設で暮らす子供たちの日常を描いたドキュメンタリー作品です。齊藤さんは、以前、児童養護施設のイベントに出席。そこから「彼らの日常を知ってもらうことが第一歩」と、映画を企画しました。
現在、社会的養護のもとで暮らす子供は、全国で約4万2000人いるといわれています。(こども家庭庁による)
通常、様々な背景から施設の子供たちの顔は 隠されることが多いですが、この映画では素顔のままで出演しています。そのため、鑑賞できるのは映画館のみ。配信やDVD化は行われません。
■「施設に対して、マイナスな要素を生み出さない」撮影へのこだわり
――映画では、子供たちの赤裸々な日常が映し出されています。どのように撮影を進めていきましたか?
齊藤さん:彼らはいたって自分の幼少期、学生時代と変わらない日常に一見見えるんですけれど、やはりそれぞれのビハインドには、言葉にしづらいような状況を抱えている子も多く、そういったことをこちらから無理に聞くことはしないという決め事は当初からありました。まずは心を開いてもらう時間を十分に設けた。そして今回、被写体に映画の中ではなっていない子供たちにもカメラを後々向けて、この撮影が行われた後にその施設に対して、何かマイナスな要素を生み出さないかってことは、慎重に竹林亮監督のチームが心を寄り添わせて丁寧に撮影してくださったので、すごくそういった心根みたいなものが、この作品の一つのトーンになっているんじゃないかなと思います。
■観客全員へ手渡す“手紙”へのこだわり
劇場では観客全員に、映画に関する“手紙”が配られます。児童養護施設を取り巻く現状についてなどが記載され、「この映画に登場する子供たちや職員は、これからもそれぞれの人生を歩んでいきます。登場するひとりひとりの暮らしに良い影響だけがあるように このように、映画館で手渡しのように届けていきたいと考えています」とのメッセージが添えられています。そこには、映画に出演する子供たちが描いたイラストがあしらわれています。
――映画のチラシやパンフレットには、出演者の子供たちが描いたイラストが取り入れられています。なぜこだわったのでしょうか?
齊藤さん:やはり彼らの表現、写真とかもそうだと思うんですけど、表現っていうものが一番体温みたいなものが伝わるんじゃないかなと思いました。パンフレットにもたくさん彼らの作品を記載させてもらったんですけど、映画を見る前と見た後で、その作品たちの意味合いというか、エネルギーみたいなものも受け取り方が変わっていくんじゃないかなと思っております。
■配信やDVD化は行わず“劇場”だからの価値を
――近年、劇場公開後は配信が行われたり、DVDになったりしますが、映画『大きな家』は、映画館のみでの公開です。映画館だからこそできることはどんなことですか?
齊藤さん:テレビがこれほど浸透する前の時代は、もっと細かく各地域に映画館というものがあって、そこが地域のハブのようなかたちで、ただ映画を見るだけじゃなくて、大いなる情報だったり共有する娯楽として意味を持っていたと思うんですね。
それからテレビが各家庭に入っていって、またそのエンタメの意味合いが変わっていって、さらに今SNSだったり配信も含めてさらに広がっている中、“その場所でしか味わえないものの価値”っていうものが、映画産業にとってはとても重要なんじゃないかな。例えば4D上映とかサラウンドとかIMAXとか、自宅で味わえるものと劇場でしか味わえないもののすみわけっていうものを、よりしていくというのも、一つ映画の未来なのかなと思います。
同時に、この作品はやはり出演者ファーストということは、何より優先するということは未来永ごう変わらないので、劇場で出会ってくれた方たちと一緒に(出演者を)守っていくっていう形をとっていく。もしかしたらほかのこれから生まれる作品だったりというものの、何か一つの選択肢になっていったらいいんじゃないかなと。それは劇場さんに対しても一つ大きな訴えになると思っています。
■映画を通して伝えたいメッセージ「当たり前の言葉っていうものに耳を傾ける」
――SNSでは、いい意味でも悪い意味でも個人の主張が強く反映される時代です。その中でこの作品を世に出すというのはどんな思いがありますか?
齊藤さん:この時代、公の人間のメリット・デメリットっていうもののデメリットっていう部分が、ある意味SNSを通じて、非常にデメリットの方が大きくなっていってしまっているっていう体感は、20年以上多分この世界に僕いるんですけど、あの頃とはもう全く違う現状があるなと。この映画に登場してくれた人、映像にまつわる職業の人たちをどう守っていくか、どの職業も“見直しの時代”にあると思いますので、そういう意味ではこの作品の行く末というのは、本当に是非が問われるんじゃないかなと思いますし、僕は守る側の人間なので、そこは何に変えても守っていこうと思っています。
――映画を通して伝えたいメッセージはなんですか?
齊藤さん:この映画に出会っていただきたい一番は、自身の日常の世界線に彼らの日常がある。そしてその施設という場所に対してできることが必ずあるということで、そのきっかけみたいなものをこの作品が手渡しでお渡しできていけたらいいなと。
声なき声だと、彼ら自身、 彼女ら自身がどこか思っている節を感じました。大々的なメッセージじゃなくてもいいんですよ、普通の言葉。彼らの当たり前の言葉っていうものに耳を傾けるっていうことが何より大事だなと思いました。そういうきっかけが、きっかけを生むっていうことは、もしかしたら映画っていうものの責務なのかもしれないなと思いました。
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