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【現地ルポ】シリア首都の今(前編)…ダマスカスへの道中で見た異様な光景

日テレNEWS NNN / 2024年12月21日 7時32分

日テレNEWS NNN

シリアで長年独裁体制を続けてきたアサド政権が今月8日崩壊した。政権崩壊後初の週末にNNN取材は隣国レバノンから、シリアの首都ダマスカスへと入った。圧政に苦しんだシリアの民衆の高揚と傷痕を現地で取材した。

(NNNニューヨーク支局長 末岡寛雄)

■「死から逃れるため避難した」…行方がわからない兄を探す家族

国境にあるレバノン側のマスナ検問所

今月11日。アサド政権が崩壊したとの報を受けて、我々はまずシリアの隣国レバノンの首都・ベイルートへと飛び、シリアとの国境を目指した。地中海に面するベイルート空港からシリアとの国境手前にある、マスナ検問所までは車でおよそ1時間半。つづら折りの道で山を越え、再び少し上るとあっけなくシリア国境手前の検問所に到着した。

両側を山に囲まれたマスナ検問所は人と荷物を満載した車がひっきりなしに行き交い喧噪(けんそう)に包まれている。クラクション、救急車のサイレン、タクシードライバーの勧誘、商店の売り子の声が谷あいにこだましていた。家財道具を満載したトラックのほか、子ども数人を乗せた家族のワゴン車の中には、女の子のシートの横で生きた鶏が静かに鎮座していた。車が進んでいく方向に目をこらすとチェックポイントとなるゲートがあり、これからシリアへ向かう車とレバノンに戻ってくる車がひっきりなしに行き交っている。

中継ポイントを決め、準備を始めた。ふと視線を落とすと、手持ちぶさたに座っている家族がいる。両親と男の子2人の4人家族だ。父親に声をかけてみると、13年前に「死から逃れるため」シリアからレバノンに避難したという。アサド政権の崩壊を受けて、「シリアを取り戻せて国が安全になってよかった」と笑顔で喜びを語り神に感謝した。一方で、13年間行方のわからない兄を刑務所に探しに行くと表情を曇らせた。

シリアに向かう人がいれば、シリアから出国する人もいた。話を聞こうとしたところ、一様に我々の取材に対しては口を閉ざした。現地の通訳に聞くと、アサド政権側の人々が反政府勢力による報復を恐れて逃れてきた可能性もあるという。

■国境で3日3晩留め置き・・・混乱を恐れ脱出する人々も

3日間国境に留め置かれているシリアから脱出してきた人々

レバノン側の出国手続きをしてゲートを越えて歩みを進めると、息をのむ光景が広がっていた。道路脇の平地に老人、大人、子どもら千人以上の人々が地べたに座って過ごしている。反政府勢力と宗派の違いから、混乱などを恐れてシリアからレバノンへの避難を希望している人たちだ。レバノン側が混乱を恐れて国境管理を強化したため、3日間検問所の手前で足止めになっているという。ある男性はカメラに顔を出さない条件で「反政府勢力が政権を握ったら虐殺が始まると思う。家族とレバノンで過ごしたい」と話してくれた。また、車中泊が3日間続いているという家族は、「助手席に座った主人が病気なんです」と訴えた。助手席には具合が悪そうにうつむく男性が座っている。

政権崩壊を受けシリアに戻る人と出る人が入り交じる混沌(こんとん)とした国境で、シリア問題の複雑さの一端をまざまざと感じさせられた。

■首都ダマスカスへ早朝の国境越え…シリア側はパスポートチェックなし

生々しくはがされたアサド親子の肖像画

政権崩壊から初の週末。我々はいよいよ国境を越え、シリアの首都ダマスカスを目指すことにした。夜明け前にレバノンの首都ベイルートを出発。東の空にはシリアの山の稜線(りょうせん)が朝焼けの空にくっきりと浮かんできた。夜明けとともに、レバノン側のチェックポイントでパスポートに出国印をもらい、車を乗り換えた。

検問所からシリアとの国境まではおよそ6キロ。緊張もあり一同静まりかえる中、車はアクセルをふかして坂道を上っていく。坂を登り切った分水嶺(れい)に、「ウェルカムトゥーシリア」とアルファベットとアラビア文字で書かれた青い看板が設置されている。シリア領内に入ったのだ。一転下り坂となりしばらく進むとシリア側のチェックポイントに到達した。監視小屋のガラスは割れていて誰もいない。道路をまたぐ看板にペイントされているアサド大統領の肖像画は、一部はがされ生々しい爪痕が残されていた。

国境を越えて3キロほど進んだ所で、最初の小さい町に到達する。ここでようやく人がいる検問所を通過することになる。武装した係員がいるが、ジャーナリストには簡単な質問のみでパスポートのチェックは全くない。

首都ダマスカスへと向け、ここからアクセルを踏んだ。幹線道路沿いには、所々でアサド政権軍のものと思われる黒焦げになった軍用車両や戦車が道の真ん中で放置されたままになっている。兵士を運搬していたと思われるトラックの横には、政府軍の兵士が逃亡の際、脱ぎ捨てたとみられる軍靴や軍服が散乱していた。我々が撮影をしていると、週末にレバノンからシリアに遊びに行くという家族が、捨てられて間もない生々しい軍服の前でスマホを取り出し、のどかに記念撮影を行っている様子が異様に感じた。

■筆者プロフィール

国境 マスナ検問所での筆者

末岡寛雄NNNニューヨーク支局長。「news every.」「news zero」のデスクやサイバー取材などを担当し、災害報道にも携わる。気象予報士。2021年から現担当。22年ウクライナ、23年イスラエルを取材。趣味はピアノ演奏。

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