「強盗が怖くなったがやめたいと言えず」“ルフィ事件”安易に闇バイトに応募した26歳の実行役に待っていた結末とは【#司法記者の傍聴メモ】
日テレNEWS NNN / 2024年12月21日 7時3分
「被害者が意識不明の重体になったと知り、強盗をするのが怖くなっていたが、やめたいとは言えなかった」
金銭目的で安易に闇バイトに応募し、強盗に加担した男は、途中で「強盗が怖くなった」にもかかわらず、犯行を繰り返した。
全国で相次いだ指示役「ルフィ」らによる一連の強盗のうち、東京・狛江市で当時90歳の女性が亡くなった強盗致死事件など、3つの事件で起訴された実行役・加藤臣吾被告(26)の裁判。実行役のリーダーの指示に従う立場で、被害者の命に関わるような激しい暴行には加担していないという加藤被告に待っていた結末とは。
■謎のアカウントから突然DM…指示役「リスクないから安全。安心して」
2022年の秋ごろ、加藤被告のツイッター(現X)に突然DMが送られてきた。
「高額で短期の仕事あります。興味ありませんか」
送り主は“ブラックボックス”という見知らぬアカウントだった。この頃、個人でソフトウエアを販売したり、ゲームのアカウントを転売したりして金を稼いでいたという加藤被告。ただ、月収は5万円ほどしかなく、てっとり早く金を稼ぐために“運び”と呼ばれる闇バイトを探していたところ、このDMが届いたという。返事をすると、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導され、「Kim」と名乗る人物を紹介された。
それから間もなく、「Kim」から広島市の時計店兼住宅に強盗に入る計画を持ちかけられた。当初、強盗をすることに「抵抗はあった」というが、「Kim」から「捕まるリスクはないから安全。あなたたちのことを大切にしているから安心してください」などと説得され、金に困っていた加藤被告は参加することを決めたという。
犯行当日の2022年12月21日。加藤被告は東京駅で面識のない“共犯者”の男らと合流し、新幹線で広島駅に向かった。所持金は1000円ほどしかなかったが、合流した男の1人が新幹線代を支払ったという。座席はバラバラだったため、移動中に男らとの会話はなかった。
現場付近に到着した実行役6人。指示役から宅配業者役を命じられた加藤被告ら2人がまず、高齢の夫婦と息子が住む住宅に向かった。もう1人の宅配業者役がインターホンを押し、玄関から出てきた70代の女性を押し倒した。「押さえとけ」と言われた加藤被告は、指示通りに倒れた女性を押さえつけていると、他の実行役が次々と住宅に押し入り、現金約250万円や腕時計など137点・約2439万円相当を奪って逃走した。加藤被告は最初から最後まで女性を押さえ続けていただけで、「一切暴行は加えていない」という。
この事件では、別の実行役にモンキーレンチで頭を殴られた40代の息子が一時意識不明の重体となり、現在も脳に障害が残る大けがをするなど、住人3人がケガをした。加藤被告は報酬として60万円を受け取った。
■「時計さばける?」狛江事件で奪った高級腕時計を…
広島の事件から約1か月後。東京・狛江市での強盗計画に参加することを決めた加藤被告。
加藤被告「家には確実に現金はあるんですか」
指示役「Kim」「ありますよ」
加藤被告「寒い結果にならないように祈っています」
“犯罪だけして何も得られないのが一番嫌だ”と考え、指示役「Kim」にメッセージを送り“確実に現金があるのか”事前に確認したという。
そして、犯行当日の2023年1月19日。宅配業者を装った他の実行役が住宅に押し入ると、加藤被告も続いた。加藤被告は「金のありかはどこや」などと住人の当時90歳の女性を問い詰めて体を小突くように1回蹴ったり、外に声が聞こえないように女性を住宅の地下室に連れて行ったりした。その後は、女性を他の実行役に任せて住宅の中で金品を物色。見つけた腕時計3個を持ち出したという。現場から逃走した後、仲間の1人にある計画を持ちかけた。
加藤被告「時計さばける?」「2階にあったんだよね」
実行役のリーダーだけに腕時計を奪ったことを話し、他の実行役や指示役を出し抜いて、多くの利益を得ようとしていた。
この事件では、住人の女性が両手を結束バンドで縛られたまま、別の実行役からバールで約10回殴られた末、亡くなった。加藤被告は翌日にも足立区の住宅で窃盗未遂事件を起こし、翌2月に逮捕された。
■「誘いをスルー」したら指示役から電話が…
1人の命が奪われ、3人がケガをさせられた、3つの事件に関わった加藤被告。途中で犯行を思いとどまることはなかったのか。
実は加藤被告は、広島で強盗事件を起こした後、「Kim」から千葉県のリサイクルショップに強盗に入る計画に誘われていたが、ある理由から参加しなかったのだという。
加藤被告「広島事件のニュースを見て、被害者が意識不明の重体になっていると知った。それで強盗をするのが怖くなったが、やめたいとは言えず、誘いを無言でスルーした」
テレグラムのグループトークに送られてきた「Kim」のメッセージを無視したという。さらに、狛江事件の約1週間前にも、「Kim」から「今後タタキ(=強盗)やる人、やらない人を知りたい」と再びグループトークにメッセージが送られてきたが、この時も同じ理由で明確な返事をしなかった。
では、なぜ狛江事件に参加したのか。誘いを無視していると「Kim」から電話がかかってきたという。
指示役「Kim」「(狛江市の強盗計画で)人数が足りないから行ってくれないか」
参加することをためらっていた加藤被告。すると、こう脅されたという。
指示役「Kim」「最悪、人をさらうことも容易だ」
最初に「Kim」から闇バイトを紹介してもらう際、「個人情報を教えないと仕事をさせられない」と言われ、実家の住所などを伝えていた。
加藤被告「当時Kimさんがどんな人かわからなかったが、別の組織をつかって何らかの方法で人をさらうんだと思った。自分もそうだし、実家の住所を教えていたので家族も被害をうけるかもしれないと怖くなり、狛江事件に参加した」
しかし、狛江事件を起こした翌日にも、犯行を続けた加藤被告。実行役のリーダーから「金とれなかったから明日も行くよな」と言われ、断ることができなかったと弁解した。
加藤被告「狛江事件で人が亡くなってしまった現実から、行くところまで行ってしまったと思い、後にひけなかった。怖くて行きたくなかったが、断れないし、Kimさんに脅されているし、色々な事がごちゃごちゃになっていた」
■加藤被告「金は裏切らない。金だけを信じてきた」
裁判では、加藤被告の生い立ちについても明かされた。
加藤被告「中学2年の時に親が離婚し、父親に引き取られた。父親は自分の意見に沿わないと機嫌が悪くなり、自分が敷いたレールに乗っかって生きればいいという考えだった」
幼少期の頃は「父親の言うことを聞かないと、風呂に沈められたり、包丁で手の甲を切られたりしたこともあった」と話した。
18歳で仕事を始めたあと知り合った女性との間に子どもが生まれ、一時は幸せな生活を送っていた。しかし、ケンカが絶えなかったことなどから家を追い出されたという。
また、人間関係に苦労し、仕事も続かなかったと話した。
加藤被告「同僚に馴染(なじ)めず、ぎくしゃくしてしまうことがあった。僕も“コミュ障”なところがあり、どうしてもその場からいなくなりたいとなった」
職を転々としたが、金遣いは荒かった。母親のクレジットカードで約300万円を使い込み、ブランド品の購入などにあてたこともあったという。
加藤被告「自分に自信をつけたかった。小さい時から劣等感が強くて、着飾ることで価値を見出すというか、ブランド品を身に着けて『俺ってすごいだろ』と周りに思われたかった」
弁護士から、逮捕されるまでどんな苦労があったか問われると、加藤被告はこう話した。
加藤被告「お金ですかね、やっぱり。あとは居場所です」「お金は裏切らない。金だけを信じてきた。人間不信は今も継続しています」
最終意見陳述では、用意していたノートを持って証言台の前に立ち、「結果として強盗致死になってしまったことを深く受け止め、反省している。被害者、遺族の方にどんな償いができるか考え、それを実行し、今後は真面目に生きていきたい」と述べた。
■「強い金銭的欲望に基づき、主体的、積極的に役割を担った」判決は
12月16日、加藤被告は無期懲役の判決を言い渡された。東京地裁立川支部は判決で、加藤被告が奪った時計の利益を実行役のリーダーと山分けしようとしていたことなどに触れ、「強い金銭的欲望に基づき、主体的、積極的に役割を担いながら、自己の利益を増やそうとしていた」と指摘。「指示役を恐れていた可能性は否定できないが、加藤被告の行動からすれば、脅されてやむなく参加していたというのは実態に即していない」とした。そのうえで、「犯情は非常に悪く、その責任は実行役のリーダーに次ぐもので重大。直接的には生命・身体に対する重大な被害結果を生じさせていないからといって、この点を殊更重視することはできない」と厳しく非難した。
加藤被告は真っすぐ前を向いたまま、ぼう然とした様子で判決を聞いていた。
(社会部司法クラブ記者・宇野佑一)
◇ ◇ ◇
【司法記者の傍聴メモ】法廷で語られる当事者の悲しみや怒り、そして後悔……。傍聴席で書き留めた取材ノートの言葉から裁判の背景にある社会の「いま」を見つめ、よりよい未来への「きっかけ」になる、事件の教訓を伝えます。
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