ウクライナ最前線の今 祖国に残る祖母に贈り物を…日本で暮らす親子がジャーナリストに託したもの【バンキシャ!】
日テレNEWS NNN / 2024年12月23日 9時33分
ロシアによるウクライナ侵攻が始まっておよそ2年10か月。ジャーナリストの横田徹さんが、戦闘が続くウクライナを2週間取材しました。最前線で起きている変化など、複数回にわたってお伝えします。今回はその第一弾。祖国を離れ、日本で生活をするウクライナ人の親子が、現地へ取材に行く横田さんに“あるもの”を渡しました。ウクライナに残る祖母に「届けてほしい」と託したものとは。(真相報道バンキシャ!)
◇ ◇ ◇
ウクライナから避難してきたユリアさん(29)。この日は、8歳になった娘・アリサさんの誕生日会だ。「おいしい」とケーキを食べるアリサさん。
2年10か月前に始まったロシアによるウクライナへの侵攻。人々は国の内外で避難先を探した。
ユリアさん(29)
「一番危険なのはウクライナで、それ以外ならどこでも安全だと思うようになりました」
ユリアさん親子は、日本にいる知人を頼り避難。2年7か月が過ぎた。来日後、日本人男性と再婚。長男レオくんを出産し、4人家族になった。
異国の地で取り戻した平穏な暮らし。しかし、気がかりなことがあるという。70歳の祖母・タマラさんがウクライナにいること。そこで、ユリアさんはウクライナの最前線へ取材に向かうジャーナリストの横田徹さんに、祖母タマラさんへの贈り物を託した。
◇
ウクライナから日本に避難してきたユリアさんと娘のアリサさん。
アリサさん(8)
「どうして、いつもこの髪形なの」
ユリアさん(29)
「とてもかわいいから」
アリサさんは、今、公立の小学校に通っている。ほかの児童と同じ授業をうけながら、週に6時間、日本語を国際教室で学ぶ。
教師
「少ないとは、どういう意味でしょうか」
アリサさん(8)
「少し」
仲のいい友達もでき、笑顔も増えた。しかし、日本にきた当初は様子が違っていたという。
ユリアさん(29)
「花火大会のときに、花火の音を爆発音だと思ったアリサが『攻撃だ、逃げよう』と叫んだんです。ヘリコプターの音も怖がりました」
今は、おびえることもなくなった娘のアリサさん。しかし、ウクライナに残る祖母は…。
ユリアさん(29)
「爆発音やヘリコプターの音にストレスを感じて、血圧が上がり体調を崩すことがあるんです」
幼い頃から、タマラさんと暮らしてきたというユリアさん。ウクライナへ行く横田さんにタマラさんへの贈り物を託した。
ユリアさん(29)
「おばあちゃんも喜ぶと思う」
ジャーナリスト・横田徹さん
「持って行きます。おばあちゃんのところへ」
◇
タマラさんが住んでいるのは、ロシアとの国境に近いウクライナ東部ハルキウ州。一部の地域がロシア軍に制圧され、今も戦闘が続いている場所だ。今年8月には、誘導爆弾による攻撃で、多くの死傷者が出た。
そのハルキウ州に入った横田さん。道中では、警報音が鳴り、「先ほどから頻繁に空襲警報がスマホに入ってきます」と話す。一番近いシェルターまでの避難を促す画面が表示されていた。この後も1時間おきに空襲警報が鳴ったという。
街に入ると、いくつもの建物に残る砲撃の跡。
ジャーナリスト・横田徹さん
「このマンションは、ほとんどが破壊されてます」
「ここはかつて幼稚園があった場所」
静まりかえった街。多くの人が避難し、今は住民がほとんどいないという。さらに、車を走らせること40分。
ジャーナリスト・横田徹さん
「この辺のはずなんですけど」
すると、青いコートを着た住民の姿が。ユリアさんの祖母・タマラさん(70)だ。ユリアさんが育った家の中を案内してくれた。
タマラさん(70)
「これはユリアが描いてくれたの」と説明した天井には、ユリアさんが描いた絵が。
タマラさん(70)
「アリサが着ていた服です。かわいいでしょ」
家に残るたくさんの思い出。ここにとどまると、タマラさんは決めた。しかし、ここでも…。
ジャーナリスト・横田徹さん
「空襲警報です。これはハルキウに飛んできてる」
空襲警報が鳴り響く。これがタマラさんの日常だ。ロシア軍の影をより間近に感じることも。
タマラさん(70)
「ロシアは偵察するようなものを上空に飛ばすんです」
──ドローンですか?
タマラさん(70)
「ドローンです。私は夜寝る前、神様に『ご加護を』と必ず祈ってから眠るんです」
この前の日にもドローンが飛んでいるような音を耳にしたという。
そのタマラさんに横田さんが手渡したのは、ユリアさんから託された贈り物。
タマラさん(70)
「重い、重いですね。きれいなカバン」
まず取り出したのは、日本のお菓子。
タマラさん(70)
「これはなに? 読んでもらえますか」
どんなものかわかるように、ユリアさんが手書きのメモを添えていた。
タマラさん(70)
「しょっぱいクッキーですね」
そして、ごまラー油も。
タマラさん(70)
「サラダにかける油ね」
メモには香りがいいサラダ用油。タマラさんがわかるよう、贈り物ひとつひとつに説明が書かれていた。
タマラさん(70)
「やきそば」
「熱湯を入れる」
「日本食を食べるだけじゃなく、作り方も覚えられますね」
そしてタマラさんの大好物も。
タマラさん(70)
「言葉にできないくらい好き。もっと欲しいぐらい」
この贈り物で、穏やかに日本で暮らしていると伝えたい。ユリアさんの思いが込められていた。足に持病があるタマラさんを気遣ったものも。
タマラさん(70)
「鎮痛、炎症、背中、腰、足。これは湿布ね」
「ありがとうございます。こんなにたくさん、びっくりしました」
ユリアさんも食べてきたタマラさんの料理。横田さんに振る舞ってくれた。普段からよく作るボルシチと、ユリアさんの大好物だという水ギョーザに似た料理・ペリメニだ。
タマラさん(70)
「おいしい?」
ジャーナリスト・横田徹さん
「おいしい」
タマラさん(70)
「よかった」
翌朝、「これはユリアにもらいました。とても柔らかくて暖かいんです」と、タマラさんはお気に入りの帽子をかぶり、向かったのは近所のスーパーマーケット。ユリアさんたちにお返しを買うのだという。2人を思いながら贈り物を選ぶ。
タマラさん(70)
「アリサにはチョコエッグを買います。おもちゃが入っているから、これも贈りましょう」
日本にいるユリアさんたちに贈るものは、お菓子におもちゃ、そしてユリアさんが着ていたウクライナの民族衣装も。最後にチョコエッグを入れて完成。
タマラさんは、「ユリアたちに渡してください。おもちゃもお菓子も詰めました。朝早くから、おばあちゃん買いにいったよ」「皆さんに神のご加護を。無事を心の底から祈っています」と横田さんに贈り物を託すと、涙があふれる。
タマラさん(70)
「『おばあちゃん、泣かないで』ってユリアがよく怒るの」
「戦争が終わりますように」
◇
11月25日。横田さんは、タマラさんからの贈り物をユリアさんに届けた。
ユリアさん(29)
「とても大きい。ありがとう」
贈り物の中を見たユリアさんは「いっぱい、いっぱい」、「これ、覚えてる」とウクライナの民族衣装を体に合わせる。
小学校から帰ってきたアリサさん。手にしたのは、タマラさんが最後に詰めたチョコエッグ。
アリサさん(8)
「これ食べてもいい?」
ユリアさん(29)
「いいよ」
久しぶりに食べる故郷のお菓子。アリサさんは「これ、私の大好きなチョコレートだった」と話す。
ジャーナリスト・横田徹さん
「よく売ってたよ、ウクライナの」
アリサさん(8)
「大好き」
ウクライナに残る祖母の映像を見るユリアさん。そこには戦渦で生き続ける懐かしい祖母の姿。ユリアさんの顔には笑みが。でも、「悲しい。前よりも痩せて年をとったように見える」と話す。
ウクライナに残るかけがえのない家族。再会の日は、いつになるのだろうか。
(12月22日放送『真相報道バンキシャ!』より)
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