埋もれた世界のニュースとは? あまり報じられなかった重要なトピックを厳選…専門家に聞く
日テレNEWS NNN / 2024年12月25日 21時5分
2024年も世界で多くの出来事があったが、重要ニュースながら報道の量が少なかったものもある。大阪大学のメディア研究機関は独自の目線で取りこぼされたニュースを厳選し、重大さなどをもとにランキング化。一部を紹介しつつ、ホーキンス教授にねらいを聞いた。(国際部 小坂 未那)
■“埋もれた”世界のニュース
2024年も世界で多くの出来事があった。パレスチナやウクライナでの紛争や、アメリカ大統領選のように、多くのメディアが毎日のように取り上げたニュースもある。しかし一方で、主要メディアがあまり取り上げなかったにもかかわらず、実は非常に重要な動きだった出来事“埋もれた大ニュース”も数多くあるとの指摘がある。
大阪大学のメディア研究機関「グローバル・ニュース・ビュー(Global News View:GNV)」は19日、こうした出来事のうち、重要性が高いと思われるものを独自の基準で評価し、「潜んだ世界の10大ニュース」として発表した。3位までを紹介しつつ、GNV編集長のヴァージル・ホーキンス教授にそのねらいを聞く。
■1位 少女の8人に1人が性的暴行の被害者:国連発表
国連児童基金(UNICEF)は今年10月に報告書を発表し、世界の18歳未満の少女のうち3億7000人以上が、過去にレイプや性暴力の被害にあっていることを明らかにした。これは約8人に1人の割合だという。特に紛争や政情不安のある地域では4人に1人と、より深刻だ。
また、インターネット上の言葉など、直接的でない性暴力を含めると、5人に1人にのぼるとしている。こういったオンラインでの性被害は、生成AIによる偽画像の拡散や、仮想空間=メタバース上のレイプといった形でも起こっていることがNNNの取材でも分かっている。
■2位 44億人が安全な水へのアクセスなし 推定の2倍
世界人口の半数以上にあたる約44億人が、安全な家庭用飲料水を手に入れられない状況にあることが、有力科学誌・サイエンスの研究で明らかになった。研究は今年8月に同誌に掲載された。44億人という数字は、世界保健機関(WHO)などが推定していた約20億人の2倍以上にあたる。過小評価されていた理由として、調査方法やデータが完全でなかったことなどが指摘されている。
UNICEFによれば、安全でない水=汚染水は、アフリカなどで毎日1000人以上の幼児の死亡につながっている。今年は異常気象で相次いだ災害の被災地や、パレスチナ自治区ガザ地区などの紛争地で、安全な飲料水が行き届かない事態や懸念も目立った。
■3位 世界の難民、10年で倍増
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、半年ごとに発表している報告書で、6月末時点での世界の難民の数が1億2260万人にのぼると推定した。10年前の2014年と比べると約2倍の人数だ。難民の数は12年連続で増えていて、特に昨年末から今年前半にかけては約530万人と5%増えているとした。
難民が激増した一因として、アフリカ・スーダンでの紛争がある。UNHCRによると、スーダンでは今年の前半だけで160万人が新たに避難民となった。また、国際移住機関によれば、スーダン人口の約3割にあたる1400万人以上が、国内外への避難を余儀なくされている。ほかにもミャンマーやコンゴ民主共和国、ハイチなど、政情不安のある地域での難民の増加が目立っている。
スーダンの状況は難民の数や人口に占める割合などで見ると、ガザの紛争やウクライナ侵攻に比べてもさらに深刻な状況だ。にもかかわらず、報道の量はガザやウクライナの方が圧倒的に多い。GNVのホーキンス教授は、アメリカ政府をはじめとした国際的な関心の薄さが、報道の少なさにつながっていると指摘する。
■ネガティブなニュースばかりではない?
ほかにもランキングでは気候変動や、表現の自由への脅威、薬物増産などのトピックがランクインしている。一方で、世界的に社会福祉制度へのアクセスが増えたことや、中央アジアでの国境画定、西アフリカからの仏軍撤退など、一概にネガティブと言えないものも取り上げられた。全容は下記の通りである。
第1位 世界で18歳未満の少女の8人に1人が性的暴行の被害に直面
第2位 44億人が安全な水不足、これまでの推定の2倍に
第3位 避難民、10年で倍増
第4位 イスラエル・パレスチナ紛争で脅かされるヨーロッパの表現と集会の自由
第5位 チャドとセネガルでフランス撤退へ
第6位 気候変動対策について過去最多の91か国がICJで意見陳述
第7位 世界人口の半数、社会福祉制度へのアクセスを獲得する
第8位 南米でコカインの製造が増加
第9位 欧州司法裁判所、西サハラの自治権を認める裁定
第10位 中央アジア最後の国境画定で合意
■ランキング作成のねらいとは
ランキングで初めて目にするトピックが多いのではないのだろうか。ホーキンス教授は、各メディアが一年を総括して発表する「10大ニュース」に違和感を覚えたことが、ランキング作成のきっかけになったと語る。大手メディアによる選定では、重大なニュースを取りこぼしていると指摘。独自ランキングの発表開始から今年で7年目になるという。
ランキングでは、大手3紙のデータベースをもとに「報道量の少なさ」を算出し、より大きな比重を置いた上で、そのニュースが影響を及ぼす人数・度合いのほか、越境性など5つの基準を設けている。GNVの編集会議では、挙げられた30ほどのニュースを地域・テーマなどのバランスを考慮した上でさらに10に絞ったとした。
「10大ニュースに選べるものは無数。世界の大きな出来事で、あまり報道されなかったものは無数にあるので、30に絞るのもひと苦労だった」とコメントしている。
■「埋もれた重要ニュース」取りこぼさないためには
メディアやジャーナリズムにおいて「権力の番犬」という役割は非常に重要だ。不平等や不正義に起因する世界のさまざまな出来事を、限られたリソースの中でまんべんなく報じることが求められる。
一方で、さまざまな制約やメディア界の性質により、番犬の役割を必ずしも追求できていない場合がある。この傾向は日本だけでなく欧米でも見られ、番犬どころか「権力に寄り添うメディア」とホーキンス教授は批判する。「番犬の番犬」をめざして活動してきたというGNV。2025年はこのような第三者機関の視点も取り入れた報道に取り組んでみたい。
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