【密着】歌舞伎町で70年、路地裏の「人情食堂」……お客たちの“マル秘”人生 大都会の「心のよりどころ」に『every.特集』
日テレNEWS NNN / 2024年12月29日 16時47分
新宿・歌舞伎町の路地裏に、多くの人を引きつける人情食堂があります。悩みを打ち明ける人に、夢を語る人…。70年愛されるこの小さな食堂は、まさに大都会の「心のオアシス」。密着取材から見えてきたのは、さまざまな人生模様でした。
■おふくろの味を求める多くの客
新宿・歌舞伎町。その路地裏で、70年以上愛されている小さな食堂があります。人情食堂「めし処 ひょっとこ」。手作りの家庭料理の店で、この街で働く人たちのお腹を満たしてきました。
厨房で鍋を振るのは、女将(おかみ)の佐藤文江(69)さん。店には、おふくろの味を求めて多くの客がやってきます。
「バレエダンサーです。超やめたい!」「水商売。将来自分のお店を持てればいいな」「グラビアをやってて、写真集出したいですね」。仕事や家庭の悩みを明かす人に、夢を語る人など、店に来る人たちは様々。ひょっとこは、都会で働く人たちの心のオアシスです。
■何十年も…こだわりはお釜で炊くご飯
毎朝8時、仕込みのために厨房に立つ女将さん。「お酒もお塩も適当で」と笑います。店は夫婦で30年以上切り盛りしてきましたが、2年前、夫の茂さんが病気で他界。以来、仕込みも調理も接客も女将さんの仕事になりました。
ご飯は炊飯器を使わずにお釡で。直火で炊くご飯がうまいと評判です。女将さんは「ずっとそれ(お釜)ですよね、何十年も」と言います。
娘の杉元円さん(44)は「そこがこだわりだよね。もう目安だから、全部水とかも火加減とか。今はお母さんしか炊けなくて、今、私も修業中」と話します。昼間の短い時間だけ手伝っています。
午前11時。ショーケースに手作りの惣菜が並びました。昼前、ランチタイムがスタート。生姜焼きの注文が入りました。「生姜焼き、人気ですよね」と佐藤さん。生姜焼き定食は店の人気メニューで、千切りキャベツに肉汁たっぷりの生姜焼きをのせます。
ランチタイムの定食は、メイン1品と小鉢2品が付いて1000円です。
■お店の魅力は「お母さんですね」
「あら! あらどうも。びっくりした。久しぶりだから」と女将さんが迎えた男性は、意外な職業の方でした。
「久しぶりです」。この男性は慣れた手つきで、冷蔵庫からビールを取り出しました。「猫を友だちから預かっていて」と話す男性に、女将さんは「本当に。じゃあ、なかなか(来られない)だね」
女将さん
「奥さんと待ち合わせしないんですか?」
男性
「今日は妻は仕事していますんで」
普段は妻と一緒に来るという男性。ひょっとこは知り合いに紹介されて気に入り、通うようになりました。気になる仕事を聞くと「公務員です。警察です」。この日は非番です。住まいは埼玉ですが、この店に来たいという理由でわざわざ歌舞伎町までやってきました。
──このお店の魅力は?
男性
「お母さんですね」
女将さん
「ありがとうございます!」
男性
「なんか元気でいつも中で料理しているのを見ていて、元気だなと思って」
男性が必ず頼むのが「ウインナーエッグ」(550円)。女将さんと話しながらビールとおつまみ。このひと時が、なんとも心地よいんだとか。
■亡き夫と目指した「心のよりどころ」
ひょっとこは70年以上続く定食の店。女将さんの亡き夫、茂さん(没年74)は16歳からここで修業しました。隣の店で働いていた女将さんと出会い、結婚。その後、店を引き継ぎました。以来、寡黙な夫に代わって女将さんが接客を引き受けてきました。
女将さん
「『ここへ来ると何でもお話しできるねって。そういう感じのお店にしたいよね』と(夫は)言ってましたね」
2人が目指した店は 「心のより所」。歌舞伎町で働く人や、ワケあって故郷に帰れない人たちの心とお腹を満たしてきました。
■40年来の常連客、思い出話に花
夕方。40年来のご贔屓で、夫の茂さんをよく知る女性が来ました。ちかこさん(65)です。
ちかこさん
「茂ちゃん茂ちゃんって、なんで茂ちゃんなの? マスターとか大将とか…」
女将さん
「言わなかった。みんな茂ちゃんって言ってたよね」
ちかこさんは店が混んでくると厨房に入り、手伝い始めました。10年ほど前までは、歌舞伎町のクラブの売れっ子のホステス。今は朝8時から(夕方)4時まで、病院でパート勤務。仕事が変わっても、ずっと新宿で働いています。女将さんと思い出話に花が咲きます。
女将さん
「夜12時過ぎはホステスばっかりで」
ちかこさん
「遅くまでやっていたからね」
女将さん
「ミーティング弁当もやってたよね」
女性
「ミーティング弁当はすごかった。ミーティングをやる時に10人だの20人だの、全部ここから持っていくわけ」
クラブのホステスたちに人気だったというミーティング弁当。のりは醤油に浸した2段重ねで、おかず満載の梅弁当です。税抜き1100円という値段は40年変えていないとか。
■独身時代からの常連は娘とデート
夕方5時半。娘と遊園地に行った帰りに寄ったという親子が来店しました。「娘を連れてきました!」。父親は、歌舞伎町で働いていた独身時代からの常連。今は、歌舞伎町で飲食店を経営しています。
女将さんが「あれ、2人? ママは?」と話しかけると、男性は「今日は仕事です」と答えました。
男性
「お肉は食べられないんですよ、この子。お野菜をなんか適当に」
女将さんは、肉が苦手という女の子に、野菜の煮物を盛り付けました。娘さんは「いただきます。おいしい!」とうれしそうです。
男性
「(今日は)デートです。この間(久しぶりに)1人で来て、(女将さんに)今度娘さんを連れてきてと言われたから、約束を果たしに来たんです。若い時よく来てたんで。お袋の味みたいなね」
娘さんは「顔赤いね」と笑います。娘の前ではパパもタジタジです。
■バレエダンサー「ここなら話しやすい」
夜7時。職場の同僚たちとよく来るという常連客がいました。この日は男性と女性の2人連れです。
男性
「ただいまみたいな感じで入ってこられるんで。置いてあるものも全部手作りだし、家でご飯食べているみたいな。(女性とは)同僚です。職場の」
女性
「バレエダンサーです」
2人はプロのバレエダンサー。女性は入団4年目の碓井友さん(25)、男性は入団20年目のベテランダンサーの石田亮一さん(38)です。この日、後輩の碓井さんから「相談がある」と言われた石田さん。「ここなら話しやすいだろう」と、ひょっとこを選びました。
──プロになってから苦労していることは何ですか?
碓井さん
「苦労していること? バレエが好きじゃなくなっちゃったことですかね」
石田さん
「仕事になるとね。苦しいこともたくさんあるので」
碓井さん
「バレエが好きで入ったはずだったのに、バレエが好きでなくなっちゃいました。それぐらいですかね。私はもうやめます。やめたい。超やめたい!」
■厳しいプロの世界…先輩に相談
バレエは4歳から続けてきたという碓井さん。厳しいプロの世界に悩み、先輩ダンサーに胸の内を明かそうとしていました。
──やめたいって本当に思っているんですか?
碓井さん
「どうせ若いうちしかできないし。バレエダンサーなんて。いくつになってもやってるもんじゃないと私は思うので」
石田さん
「悩み中だな」
碓井さん
「悩み中」
憧れて入ったプロの世界。ただその現実は、想像以上に厳しいものだったとか。石田さんは「でも舞台に立ったら気持ちいいでしょう?」と語り掛けます。「う~ん、うん」と碓井さん。
この日、先輩の石田さんに励まされ、やめる話は一旦棚上げに。もう少し悩んでみることになりました。
■歌舞伎町界隈で清掃のボランティア
ある日の午後、女将さんと親しげに会話をしながら食事をする男性がいました。小林忠晴さん(55)。注文したのはランチタイムの「銀ダラ煮魚定食」(小鉢2品付き、1000円)です。
女将さん
「どうでしたか、今日は」
小林さん
「2時間半、今してきました」
女将さん
「今してきたの?」
小林さん
「1人でやってきました」
女将さん
「え〜どの辺?」
小林さんは1年以上前から、歌舞伎町界隈でボランティアの清掃活動を続けているんだとか。女将さんは「もういろいろ、外の掃除をしたり、あちこちのゴミ拾いをしたり、重要な方なんですよ。歌舞伎町にとっては」と笑います。
小林さんは現在無職。清掃活動を始めたキッカケは思わぬことでした。
■清掃にのめり込む夫に呆れた妻
大学卒業後、食品の輸入会社に勤めていた小林さん。会社は、三ツ星レストランなどにも食材を卸していました。しかしロシアのウクライナ侵攻で食材の輸入が難しくなり、会社は自主廃業に追い込まれ、失業しました。
プライドを持って仕事に打ち込んでいた小林さん。コロナ禍でいい仕事が見つからず、「何かをしなければ」とすがるように始めたのがボランティア活動でした。
公益社団法人「日本駆け込み寺」のボランティア活動に1日2回参加。今は、ほとんど毎日、歌舞伎町で清掃活動をしています。
小林さん
「収入は基本的にないんですよ。0ですよ。この1年2カ月で0です。家内はいたんですけど、ちょっと私のこういう状況で、今大阪に帰っていまして。愛想をつかされてというか…」
就職活動そっちのけで清掃にのめり込む夫に妻は呆れ、1年ほど前に家を出ていったといいます。
■家族ぐるみのお付き合いをする税理士
ある日の夜、8時過ぎ。
女将さん
「あ〜太郎さん、久しぶりです」
「太郎さん」と名前で呼ばれたのは、通い始めて10年以上という税理士の大德太郎さん。「この間、みゆちゃん(娘)に沖縄のお土産忘れちゃって。渡すの」
太郎さん
「沖縄行っていたの? いただきます」
家族ぐるみのお付き合いをする太郎さん。ただ、最初の頃は様子が違っていました。太郎さんは「ポツンと来たんですよね。1人でね。そこで黙って何もやらないで、ただひたすら飲んでただけ」と振り返ります。
女将さんも「こんなに親しくなるとは思っていなかったけど」と言います。
■多くの人と人をつないできた店
半年間ほぼ毎日やってきては、1人でお酒を飲みながら本を読んでいた太郎さん。親しくなるキッカケをくれたのは女将さんでした。
太郎さん
「(女将の)文江さんが話しかけてきてくださったんですよ。今どんなことをしているのとか、何かたわいもないことだと思うんですね」
女将さん
「あんまり話できなかったからね」
太郎さん
「そこからちょっとずつ話すようになって、かなり時間かけています」
気がつけば家に招いたり、他のお客さんとも旅行に行ったりする仲になりました。「うち家族でここ来てるんで。家族で来て。うちの娘、(店内で)遊んでたりするので」と笑う太郎さん。女将さんも「家族ぐるみのお付き合い」と言います。
太郎さんは「安心しますよね、ここ来るとね。本当に。みんなうなずいている。なかなかないよね」と話し掛けると、常連客は「うん、ないね」と頷きました。ひょっとこは、こうして多くの人と人をつないできました。
■小林さん「落ち込みがすごかった」
清掃ボランティアに熱中するあまり妻が出ていってしまった小林さん。自宅にお邪魔して話を聞きました。
小林さん
「初めは彼女が去ったことに対する自分の落ち込みがすごかったですね。ポカーンとして、オレ何してんやろうって思いましたけどね」
この頃の小林さんは、精神状態がかなり不安定だったいいます。2023年9月~翌年5月は失業手当を受給しました。「無職になった自分、ハローワークに頼らないといけない、申請に行く自体が自分の中で許せなかった。あのモチベーションを上げるのは難しいですよ」
プライドが邪魔をして、ハローワークに行くのもつらかったとか。
妻が出ていくと、さらに清掃活動にのめり込んだといいます。「そこから、多分考えないで逃げているだけかもしれない。だから、これ(清掃活動)に没頭することによって疲れ切って帰ってサッと寝る。また朝起きて、その繰り返しかも…」
■女将さんの温かさで気づいたこと
誰にも打ち明けられず悩みを抱えていた小林さんを、女将さんは黙って受け止めてくれたそうです。
小林さん
「あの人の引きずらない、あっけらかんとした、受け入れてくれる懐の深さというか、おおらかさには癒やされるものがありますね」
その温かさに触れるうち、家族のありがたさに気づきました。「妻にはさびしい思いをさせていた」。1人になった部屋で、ようやくそのことを悟ったといいます。
小林さんが、冷蔵庫の中を見せてくれました。輸入チーズがいっぱいあります。「ほぼほぼチーズです。これがコンテ(フランス産チーズ)ですね」。いつかもう一度、輸入食材の仕事をしたいと動き始めていました。
■「なくなったら困る」の声が励みに
女将さん
「何かここへ来るとほっとするんだよね、こういう店は大事だよ、なくなったら困るよって言ってくれたんで、じゃあもうしょうがない、頑張ろうかみたいな」
人情食堂「ひょっとこ」は、都会で働く人たちの心のオアシス。そこに集まる人たち、それぞれに物語があります。
(12月26日『news every.』より)
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