ロシア軍・志願兵の入隊ペースに陰りか“年収700万円”高額報酬の陰で異変
日テレNEWS NNN / 2024年12月30日 8時0分
2024年、ウクライナで攻勢を強めたロシア。それを支えたのが、最大で“年収700万円超”という高額報酬で勧誘した志願兵だ。プーチン政権は多くの国民が軍に志願しているとアピールするが、この流れに陰りがみえるとの指摘もある。
(NNNモスクワ支局長 平山晃一)
■ロシア全土で志願兵の確保に躍起…大盤振る舞いも
2024年11月、ロシア中部の地方都市ウリヤノフスクを訪れた。街の中心部ではこの日、ウクライナ侵攻の“戦利品”といえる欧米の戦車などの展示会が開かれていた。国民の戦意を高めるために、各地方都市を巡回しているイベントで、多くの家族連れなどでにぎわっていた。
そんな会場内で唯一、人影が少なかった場所が、ロシア軍の志願兵を募集するブース。訪れた人の中にはテントをのぞき込むと「ここは違う」…そんな顔をして出て行く人も多かった。ただ、それでも時折、話に聞き入る人の姿がみられた。ブースから出てきた18歳の大学生に話を聞くと「まだ契約については考えていないが、危険な分、軍人の給与は高くて魅力的だ」と話していた。
ここ、ウリヤノフスクの平均年収は、日本円で約50万円。ロシア軍に入隊すると、一時金を含めた初年度の年収は、その10倍の約500万円にも上る。こうした報酬を記載した看板は街のあちこちにあり、全てのバス停にポスターがはられていた。街に住んでいれば、いやがおうでも目につく状況だ。
私たちが現地を取材して3日後には、州知事が入隊一時金をさらに1.5倍に引き上げた。いま、ロシアの各地域では競うように一時金を大盤振る舞いし、志願兵をかき集める動きが過熱している。首都モスクワでは、初年度で700万円を超える年収を提示するほどだ。
■違法な勧誘も横行か
一方で、独立系メディアは、違法で強引な勧誘も目立つようになっていると指摘する。建設の仕事に応募したある男性は、面接に行くと軍の関係者がいて、仕事内容はリスクのないインフラ工事だと言われたと話す。彼らを信用して署名すると、軍の訓練場に連れて行かれ、そこで初めてだまされたと気がついたという。
また、ロシアでは、春と秋に若者を対象にした徴兵が実施される。義務兵役に基づくもので、ウクライナへの派兵はないのが決まりだが、こうした徴集兵を脅して、無理やり志願兵として契約させるケースも相次いでいるとされる。
さらに、24年からは受刑者に加え、刑が確定していない被告人や容疑者にも勧誘の範囲を拡大した。「裁判を受けるか、戦場に行くか」選ぶよう圧力をかける形だ。地方当局が貧しい人や借金を抱える人、犯罪歴のある人に対して、ねつ造した罪状で長期の刑をちらつかせ、無理やり入隊を促すケースなどもあると報じられている。
■「43万人が志願」…プーチン氏は兵士確保“順調”とアピール
プーチン大統領は24年12月、ロシアの志願兵をめぐる状況について、次のように言及した。
「去年は30万人を超える志願兵が契約した。今年はすでに43万人を超え、この流れは止まらない」「人々は自発的にウクライナの前線に向かう。軍人とその家族に対する社会保障は、絶えず強化しなければならない。これは国家の最重要課題だ」
“毎日1000人以上が入隊している”として、兵士の確保は順調だとアピールした形だ。
■志願兵の応募に陰りも…独立系メディア
しかし、プーチン政権がアピールする志願兵の数については、実態を反映していないとの指摘も出ている。ロシアの独立系メディアは24年12月、政府支出を分析した結果として、志願兵の応募は前年と比べて、すでに大幅な減少傾向にあると報じた。
23年には平均して一日900人が契約していたが、24年夏ごろには一日500人から600人にまで減少している可能性があるという。
■死傷者数が志願者数を上回る状況か
ロシア軍は犠牲をいとわない攻撃で、ウクライナで占領地を拡大し続けている。その一方で、BBCによると、イギリス国防相は24年12月、ロシア軍は一日平均1500人以上の死傷者数を出していると言及していて、過去最悪のペースで兵士を失っているとみられている。もはや、増え続ける死傷者数を補い切れない状況になっている可能性もある。ロシアが北朝鮮の派兵受け入れに踏み切ったのも、こうした深刻な兵士不足が背景にあるとみられている。
プーチン政権は、死傷者数について公にしていない。ただ、BBCと独立系メディアの合同の調査によると、24年11月の時点でロシア軍兵士の死者は、少なくとも8万人を超えている。また、アメリカのトランプ次期大統領は24年12月にSNSで、ロシア軍の兵士60万人近くが死傷したと投稿した。
プーチン大統領は国防省との会合で、ウクライナ侵攻をめぐり、24年だけで189の集落を制圧したと言及。「画期的な年になった」と戦果を強調した。一方で、今後、兵士の補充が追いつかない状況が深刻化すると、戦況の悪化にもつながりかねない。強制的な動員には国民の反発も予想され、対応に苦慮することになりそうだ。
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