2025年 賃上げはどこまで実現? 大幅賃上げできる企業とできない企業が分かれていく?
日テレNEWS NNN / 2025年1月2日 8時0分
2024年、企業などが労働者に支払う最低限の時給=最低賃金は全国の加重平均が1055円となり、前年から51円、5.1%の引き上げでした。これは2002年以降最大の上げ幅です。
そして石破首相は「2020年代に最低賃金を全国平均1500円に引き上げる」と述べ、これまでの政府目標を前倒ししました。単純計算では、毎年約7%ずつ引き上げる必要があり、中小企業や小さい店舗など含めて本当に実現できるのか、厳しい声もあがっています。
■労使とも賃上げ必要という認識
2024年は、企業などの労働組合と経営側が、賃金や労働環境について交渉する春闘でも、5%台(労働組合の連合による集計)と約30年ぶりの高い賃上げ率となりました。約30年間、大幅な賃上げが実現せず、日本の賃金は主要先進国で最低レベルになってしまいました。
物価高騰で暮らしがますます厳しくなる中、賃上げが必要だという意識は労働者側だけでなく、企業の経営者側にも広がっています。
深刻な人出不足の中、企業が少しでもよい待遇を用意しないと労働力が確保できない状況も賃上げを後押ししています。とはいえ、すべての企業に大幅な賃上げをする余裕があるわけではないようです。
■最低賃金「5年以内に1500円実現」は不可能との回答が半数近くに
東京商工リサーチが2024年12月、全国にある5277社に「5年以内に時給を1500円に引き上げることが可能か」と聞いたところ、48.4%が「不可能」と答えたということです。一方で、「すでに時給1,500円以上を達成」が15.1%、「可能」と答えた企業も36.3%あり、約半数の企業は対応可能という結果でした。
不可能と答えた企業に、どうすれば可能になるかを聞いたところ、約半数の企業が「賃上げ促進税制の拡充」と答え、約4割が「生産性向上に向けた投資への助成、税制優遇」と答えました。また約3割の企業が「低価格で受注する企業の市場からの退場促進」と回答していて、正当な競争を求める声があがったほか、価格転嫁(企業が人件費や原材料費などの増加分を製品やサービスの価格に上乗せすること)が進むよう望む声もあったということです。
東京商工リサーチは「政策支援や生産性向上の自助努力が遅れると、最低賃金をトリガー(引き金)にして企業経営の二極化が拡大する可能性もある」と分析しています。
■2025年の春闘は?
労働組合の連合は、来年の春闘について、2024年同様、定期昇給分を含めて5%以上、中小企業では6%以上の賃上げを目安とすることを打ち出しました。連合傘下で、繊維産業やスーパーマーケット、介護・医療分野の労働者が多く加入する労働組合UAゼンセンは、2025年の春闘で、約6%という過去最大の賃上げを要求する方針です。
社員だけでなくパート、アルバイトも含めた全体の賃上げを求めるとしていて、パート労働者については7%の賃上げを掲げています。この7%という数字については、政府が掲げる最低賃金の目標を達成するには毎年約7%増が必要となることから、この要求は「けっして高いものではない」と主張しています。
■専門家は
日本総合研究所客員研究員の山田久氏は、物価高騰の中、実質賃金(実際に受け取る賃金から物価の影響を差し引いたもの)を上げるにはどうすればよいかについて、「企業が利益を労働者にも適正に分けることが必要で、春闘で賃上げを継続させることが重要だ」とした上で、価格転嫁の適正化で中小企業が賃上げする余力を高めることも必要だと述べました。
しかし、これらを実現しても実質的な賃上げにならない日本個別の事情もあるといいます。それは「交易条件」というもので、今の日本は貿易で稼ぐことができない状態になっていて、それが実質賃金がなかなか上がらない背景にあるということです。どういうことかというと、日本の企業はものを輸出する場合の価格をなかなか引き上げられず、大きなもうけにつながりません。
その一方で輸入品の価格は上がり続け、たとえば以前10万円で買えた品が10万円では買えず、結果として、より多くの日本の富が海外に流出してしまい、賃上げしても、実質賃金が上がらない構図になっているといいます。
そして、輸出価格が低い背景には、日本からの輸出品が電気機械や自動車などに偏っているという構造的問題があるということです。それらの品は中国などアジア新興国と競合していて、なかなか価格を上げられないのです。
一方、輸入する品目をみると、各国に比べて、日本は石油など燃料の輸入が突出して多いのが特徴です。各国がこの10年ほどで脱炭素化を進める中、日本はそれが進まず、化石燃料に頼る状況が続いています。価格の高い石油を大量に輸入する必要があり、円安が進むとますます影響が大きくなります。
山田氏は、実質賃金が上がらない背景として、産業構造やエネルギー問題が根幹にあるとして、これらを変える必要性を強調しました。
春闘について、山田氏は「結果的には、2024年と同じぐらいの数字になるのでは」という見通しを示しました。「大手企業は転職による流出引き留めなどのため、賃上げは必須で、問題は中小企業がどうなるかだ。賃上げできないでつぶれる企業も出て、新陳代謝、二極化が進むだろう。全体の賃上げ率の数字は5%程度で今後も定着する可能性もあるが、中身を見ることが大切で、中高年の賃金をどうするか、男女の賃金格差、中小企業への広がりが十分なのか、など、本当の意味で望ましい賃上げかというとまだまだ転換点だ」と指摘しました。
■男女の賃金格差是正は進むのか
山田氏も挙げたように、男女の賃金格差も大きな課題です。女性はパートなどで働く人が多く、賃金が安いほか、同じ業種や同じ企業でも男女で賃金に差がある傾向がみられます。
長時間労働が前提の企業では、子育てや家事をより多く担う女性は夜中まで働けず、昇進が遅れて賃金が上がりにくく、同じ年代の男性は管理職になって賃金がアップ、という構図です。この解消のためには、長時間労働できるかどうかを評価の軸とせずに、男女とも効率よく働く職場にし、女性の管理職を増やすことなども必要です。
石破首相は、2024年12月の男女共同参画会議で「男女間の賃金格差の是正は、引き続き喫緊の課題だ」と述べ、政府としてとりくむ姿勢を強調しました。
賃金は生活の安定はもちろん、若い世代が結婚や出産できるかなどにも影響します。2025年、そしてその先も物価上昇を上回る賃上げが実現するのか、大きく注目されています。
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