2025年 日銀「次の利上げ」はいつ? 「市場との対話」の改善は
日テレNEWS NNN / 2025年1月2日 15時0分
2024年、「異次元緩和」を終わらせ、17年ぶりの利上げに転じた日本銀行。2025年も政策運営が大きく注目される。焦点の「次の利上げ」はいつなのか。さらに、日銀が苦慮し続ける「市場との対話」は改善できるのか。専門家への取材を交えて展望する。(経済部 日銀担当キャップ 渡邊 翔)
■「もうワンノッチほしい」 植田総裁の会見の意味合いは?
「次の利上げの判断に至るには、もうワンノッチ(一段階)ほしいな、というところ」
24年12月19日、年内最後の金融政策決定会合で利上げを見送った、植田総裁の記者会見での言葉だ。経済・物価は見通し通りに推移しているものの、来年(25年)の春闘の賃上げ動向や、アメリカのトランプ新政権の経済政策が与える影響を見極めたいとの考えを示した。
25年はまず、1月下旬と3月中旬に金融政策決定会合が予定されている。日銀は早々に、追加利上げに動くのか。次に利上げすれば政策金利は0.5%と、2008年以来の水準に回復するだけに、その時期は大きな焦点になる。
植田総裁の会見を読み解いてみよう。まず、春闘の動向については「結果」ではなく、「モメンタム(勢い・機運)」を見極めたい、という表現を用いた。春闘で具体的な賃上げ率が出てくるのは、大企業の回答が集中する3月中旬になるが、それより前に賃上げの動向を見極めることは可能だ、という趣旨だ。
一方で、トランプ新政権の政策の影響について、植田総裁は「見通しに織り込もうにも、定量化する前提となるものがまだ出ていない」と説明した。世界経済への影響が懸念される関税政策についても、どの国にどの程度の関税をかけるかなどがはっきりしないと、分析のしようがないという。
ただ、25年1月の金融政策決定会合は23日・24日に開催予定で、1月20日のトランプ政権の発足直後だ。植田総裁の言う「定量化」をするには、あまりに時間がないようにも見える。
植田総裁は、毎回の決定会合での利上げ判断について「総合判断にならざるを得ない」とも説明した。ただ、会見での発信は全体として、それまで25年1月の利上げを最有力視していた市場の投資家には「3月まで利上げを待つこともあるのではないか(市場関係者)」との印象を与えた。
結果、外国為替市場では円安が進み、24年12月19日の会見後にはドル円相場が一時、1ドル=157円台まで下落。変動金利と固定金利を交換するスワップ市場(OIS市場)の金利をもとに、東短リサーチと東短ICAPが算出する市場が織り込む利上げ確率は、決定会合直後の12月20日には25年1月会合が46%、3月会合が35%と、割れる格好となっている。
■日銀の大方針は「利上げ急がず」 ペースの変動要因は為替か
では、専門家は25年の日銀の政策運営をどう見るのか。元理事の門間一夫氏(みずほリサーチ&テクノロジーズ)と元審議委員の木内登英氏(野村総合研究所)、2人の日銀OBに見通しを聞いた。
門間元理事は、植田総裁の会見に込められた意味合いについて「ここまでは経済・物価は日銀の見通し通り“オントラック”だったが、これからもオントラックであり続けるかについて、日銀は十分な自信がない、ということ」だと読み解く。その上で、日銀が「物価の上振れリスクが大きくない時に、早めに利上げする必要はない」と考え、より慎重に利上げ判断を行うとみる。
具体的な利上げの時期については、25年3月の決定会合になれば「トランプ政権の与える影響について、さすがにある程度は分かる可能性があり、利上げ(判断)の確度が高まるだろう。賃上げでも、(3月会合前に)今年(24年)並みの賃上げ率が出てくるようなら、日銀ももう少し(経済情勢の判断に)自信が出てくると思う」と分析した。ただ、トランプ政権下でのアメリカ経済減速のリスクが十分に小さくなるまで待つ場合、「3月の利上げも難しいかもしれない」とみる。
一方で門間氏は、利上げを待つリスクとして円安の進行を挙げ、「円安が進み、世論や政治から『円安は困る』という声が出る場合には、唯一、日銀が早く利上げする要因になる」と指摘した。
木内元審議委員も、24年12月の決定会合をうけて進んだ円安に注目する。「トランプ新政権と春闘に関する情報より、為替の動きで最終的に利上げタイミングが決まってくるのではないか」というのだ。
木内氏も、日銀の基本方針は「経済・物価の環境が大きく変化しない限りは、ゆっくり利上げしていくことだ」との見方だが、24年の2回の利上げタイミング(マイナス金利を解除した3月と7月)を振り返ると「円安の分、利上げ時期が早まった面があると思う」と指摘。次の利上げの時期について、「円安に背中をおされて利上げしていく方向になるとすると、現時点ではメインシナリオは(25年)1月利上げではないか」と分析した。
円安について日銀は、円安が輸入物価を上昇させ、それが一時的な要因を除いた「物価の基調」を上振れさせる場合には、利上げ判断に影響するというスタンスを取る。
植田総裁は24年12月の会見で「現状、輸入物価の対前年比で見ると、割と落ち着いている」と述べたが、木内氏は「円安の影響は統計に遅れて出てくる。これから輸入物価は上昇するだろうし、もう一度、物価を押し上げる可能性もある。植田総裁の発言は、少し不用意な感じがした」と指摘した。
■乱高下した相場…日銀の情報発信の課題は
次の利上げ時期に加え、もうひとつ注目したいのは、25年の日銀の情報発信、いわゆる「市場との対話」だ。利上げに対する日銀の考え方を分かりやすく情報発信することによって、投資家らの予測可能性を高めることは、為替や株価の急激な変動を防ぎ、金融市場を安定させることにつながる。
しかし、24年は日銀の発信によって、金融市場が大きく動く局面が目立った。4月には、植田総裁の会見での発言をうけて円安が加速。一方、7月に利上げした際には、植田総裁の発言が、さらなる利上げにも前向きな印象を市場に与えた。
これに伴う円高の進行が、アメリカ経済の先行き不安が高まるタイミングと重なり、株価が大幅に下落。市場に「植田ショック」と称されることになった。市場関係者からも「日銀の市場との対話は、今年(24年)1年を通じて上手くいかなかった」との指摘が出ている。
木内元審議委員は、日銀と市場との対話の難しさについて、「日銀の場合、大規模金融緩和からの政策正常化を進めている最中という特殊性もあり、欧米の中央銀行のように、足元の経済データだけで政策は決まらない。為替の影響力が大きく、政治的な状況も一定程度影響してくるため、投資家にとっては判断しづらい」と解説する。
日銀の情報発信の改善については、植田総裁も24年12月の会見で言及。「ボードメンバー(金融政策決定会合に出席する9人の政策委員)による講演等について、時期を平準化するとか、スケジュールを早期公表するというようなことで、情報発信が途切れない、あるいは偏らないようにするような工夫は少しずつしてきている。記者会見でもどういう指標に注目しているかについても、これまで以上に少しずつ丁寧にお話しするように心掛けている」と説明した。
この点、門間元理事は、日銀の発信の頻度をさらに上げる必要があると指摘する。「(幹部の講演を)たまにしかやらないので、『やる・やらない』自体が意味を持つ。発信の手数を増やせば、1回の重みが軽くなるし、市場が間違って解釈した場合にも、次の講演やインタビューなどで修正がきく」というのだ。
門間氏は「利上げというのは、ただでさえ好まない人も多くいる。国民の理解、さらに政治の理解を得るという意味でも、丁寧なコミュニケーションが必要だ」と強調した。
24年12月の決定会合前、複数の日銀関係者から聞こえてきたのは「今の利上げ局面を大事にしたい」という声だ。25年、着実な金融政策運営と適切な情報発信で、日本経済を成長軌道に乗せる“下地”を作ることができるのか。日銀の動きには、引き続き大きな関心が寄せられる。
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